第七十六話 ヴィヴロの提案
「結構いるもんだな」
インステッド王城前広場。ゴブリン退治から帰り、十分な休養を取った俺とルーシィは、明朝王城へと出向いていた。
しかし遠くから見えた王城は扉が固く閉ざされおり、中に入ることはできない様子。
依頼を受けるだろうと思われる冒険者の面々は、扉前の広場に集まり、それぞれが思い思いに時間を潰していた。
「早めに来たつもりだったんだけど……」
軽く見渡しただけでも、既に十数人。王女直々に依頼を受けている以上、遅れて依頼を受けられなかったなんて恥ずかしい真似はできないと思った俺は少し早めに到着するように宿を出たのだけれど、この依頼に馳せる思いが強い冒険者多いらしい。
しばらくして俺たちは王城内へ通され、そこで大臣を名乗る人物から依頼内容を聞いた。
おおむねはライラ王女から聞いていたとおり、先日確認された『雲海の大樹』に眠るとされる『黄金の宝珠』を取ってくること。
期間は無制限で、報酬は依頼表に張り出されたクエストのとおりライラ王女とのこと。
説明もそこそこに俺たちは解散させられ、各々『黄金の宝珠』を求めてクエストをこなすこととなった。
「あなたはラロクスさんじゃないですか」
別場所でライラ王女と落ち合うこととなっていた俺たちがそこへ向おうとすると、背後から聞き覚えのある声。
振り向くとそこにはヴィヴロさんとバークフェンさんが立っていた。
「あなた方もこのクエストを? 意外ですね」
親しみを込めて笑顔で話しかけてくるヴィヴロさん。
ライラ王女と通じていることは、他のクエスト受注者には悟られたくない。
さて、どうごまかしたもんかと俺は頭を掻く。
「まぁ成り行きでな」
「成り行きですか。ハハハ面白い理由です」
理由が適当すぎたのか、ヴィヴロさんには笑われてしまった。
「人には詮索されたくないこともありますからね、深くは尋ねませんよ。ところで――」
軽く流してくれたことにホッと撫で下ろしたのも束の間、ヴィヴロさんは笑顔のまま俺に右手を差し出してきた。
「私と協力しませんか?」
「協力?」
「はい。ラロクスさんたちはいかにして天高くそびえる大樹へ?」
ヴィヴロさんは一度出した手を引き、そう俺に尋ねる。
いかにしてというのは、つまりどんな方法で『雲海の大樹』へ向かうつもりなのかということを聞かれているのだろう。
ライラ王女との話で竜の巣の先、風鳴りの丘という場所で風の精霊の力を借りればそこへ向うことができるという話は分かっているが、ライバルである以上その情報は教えることはできない。
「見当はついていない。とりあえず手探りってところかな」
「そうですか。いや実は私たちは既に『雲海の大樹』に向かう手だてを持っておりましてね」
「何だって?」
「私も商人でして先立つものは多少蓄えがあります。そこで今回、うちで特別な飛行船を入手することにいたしました。一週間もすればそれに乗って空中の大樹へ行くことが可能となります。しかしながら私が雇っている護衛の中で腕が立つのはこのバークフェンのみ。『雲海の大樹』は魔物の巣窟とも聞きますし、如何せん一人では心もとないと思っておりまして」
「なるほど。それで俺たちを護衛に加えたいと」
悪く無い提案だ。
ライラ王女が教えてくれた情報は城の書物に記載があったとはいえ眉唾を否定できない。
であればヴィヴロさんの提案に乗る方が確実性はある。
「一つ聞きたい。俺たちが同行して『黄金の宝珠』を手に入れた場合どうするつもりなんだ?」
一時的に仲間になるとしても、手に入れられる『黄金の宝珠』はひとつだけ。
俺たちとヴィヴロさんたちがライバルで以上、そこで必ず争いが発生する。
「その時はバークフェンとあなたたちとが戦って、勝った方が『黄金の宝珠』を手に入れるということで」
「二対一になるけど?」
「構いません」
俺の問いかけに対してヴィヴロさんは即答した。
酒場でバークフェンさんの実力は確認済だけど、即答するほど自信があるってことか。
俺がどうするかと考え込んでいると、急に背後から誰かが俺の服の裾を引っ張った。
振り返るとそこには不安げな表情のルーシィ。右の瞳に金色の光を浮かべ、悟られないくらいわずかにだけど、首を横に振った。
「悪い。うちの連れがどうも高いところが苦手みたいでな。飛行船が怖いみたいだ。ありがたい提案ではあるけど、俺たちは別の方法を探すよ」
ルーシィの意図を汲み取った俺は、すかさず口から出鱈目を吐く。
俺の言葉を受け取ったヴィヴロさんは少し悲しげな表情を浮かべた。
「そうですか、残念です。慈悲の神コルケセトよ、どうかお二人に幸運を」
それだけ言うとヴィヴロさんは会釈をし、バークフェンさんを連れてどこかへ行ってしまった。
「ごめんね」
ルーシィが申し訳なさそうな顔でそう呟く。
「謝る必要なんて無いだろ。んで、何が気にかかったんだ?」
「気にかかったというか、何も読めなかったの」
「何も読めなかった?」
不安げな表情を浮かべたままルーシィは頷く。
「うん。普通なら心の声が喋ってる感じで聞こえるんだけど、あの二人からは全く何も聞こえなかった」
「なるほどな。何も考えず喋っていたのか、はたまたルーシィのスキルを知ってあえて何かしらの対策をしていたか……」
恐らく後者。直感だけど多分間違いない。
ルーシィもそれを感じ取ったからこそあの二人は危険だと思ってそれを俺に伝えてきたってことか。
「いずれにしてもどこかで対峙した時には要注意だな。さて、王女様を待たせても悪いし、そろそろ行くか」
ルーシィは頷いたのを確認すると、俺はルーシィを共だってライラ王女との待ち合わせ場所へ向かった。
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