第四十八話 闇討ち
「はっ!」
俺は辺りを見回す。
横にはボーっとしたまま座っているおっさん。
他の男たちも固まったまま舞台を眺めていた。
なんだこの状況は?
というか俺自身もさっきまでもしかして同じ状態だったのか?
俺は自分のステータスを確認してみる。
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ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:194
スキル:【レベルリセット】
【ランダムスキル】【天下無双】
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状態異常にはなっていないみたいだ。
というより……、レベルリセットが発動したのか?
確かに公演は夜遅かったから、気づかないうちに日付をまたいでいたみたいだ。
ステータスをそっと閉じ、改めて俺は周囲を確認する。
シンと静まりかえる場内に、身動き一つとろうとしない観客。
この異様な状況に俺も何もできないままでいると、不意に男の一人が舞台に上がった。
『これにて公演は終了。明日もどうぞお越しください』
彼がそう言った瞬間周りの男衆はすくっと立ち上がり、皆洗練された軍隊のような動きで出口へ向かっていく。
やばいっ!
俺はそう思い、周りに合わせてさも魂が抜かれているかのように振舞い、後をついていった。
◇
「ということがあってだな」
「なるほど。それは少しきな臭いね」
俺は何とか宿屋まで戻り、待機していたキースに報告をする。
キースはそれを受けて、うーんと考え込んでしまった。
「だけど、はっきり言ってこの件とスキルクリスタルの件とは何か繋がりがあるとは思えない。むしろレベルリセットの恩恵で正気に戻れて良かったぐらいだ。これ以上は首を突っ込まない方が賢明だと思うな」
「ああ。俺もその意見に賛成だ。賛成なんだが……」
「?」
「どうもあの子が無意味にそんなことをするような子じゃない気がしてだな……っていやいや、何を言っているんだ俺は」
俺はふと浮かんだそんな思いを、ぶんぶんと頭を振ることで払拭させる。
「まだ状態異常が残っているのか?」
「いや、気の迷いだ。気にしないでくれ」
そうだ、きっと気のせいだ。
キースの言う通り、この件が俺たちの目的と合致している可能性は低い。
何事もなく帰ってこられたことが良かったと断じて、この件は忘れることにしよう。
◇
「おかしい……」
「どうしたんだいルリエル?」
私の呟きに団長が反応する。
「一人、足りないの」
「どういうことだ?」
私は自分が感じた違和感を団長へ説明する。
私たちが旅興行から帰って数日が経過した。
初日から艶舞で種を撒き、その者たちの動向を確認しているのだけれどどうにも一人足りない。
種を撒いた人たちは、例にもれず毎日毎日私の公演に通っている。
そう、魅了したはずなのに。
あの日気になったあの人、あの人だけが二日目から見当たらないのだ。
最初は満員御礼の公演に入れなかっただけだと思った。
しかし何日経過しても、団長に頼んで急きょ立見席を追加した時でさえ彼の姿は確認できなかった。
「まさか……私の魅了から脱した?」
「馬鹿なっ。そんなことはありえない」
「私もそう思う。だけどっ!」
信じられないがそう考える他ない。
だとしたら、彼こそが私の探していた……。
「団長!」
私は希望に満ちた目を団長に向けた。
「やれやれ。ルリエルの言いたいことは分かっているよ。その者の特徴は覚えているね」
コクリと私は頷く。
ようやく見つけた可能性。
これで、これでようやく私の悲願が達成される。
待っていて、姉様。
◇
「全く手がかりが無いな」
俺は酒場で軽めの酒を飲みながら嘆息した。
ここで酒を飲みながら会う人会う人に聞いては見るものの、知らないという答えしか返ってこない。
軽いとは言いながらも、いい加減酔いが回って気分が悪くなりそうだ。
キースは全く酒が飲めないと言っていたからこういう場での情報収集には向いていないし……。
仕方ない今日はもう引き上げるか。
「マスター、お勘定」
「2500エールです」
俺は1000エール小金貨3枚をマスターに手渡す。
仕方がないとはいえ痛い出費だ。
そろそろこの街のギルドで稼ぐことも視野に入れるか。
俺はおつりを受け取ると、酒場を出た。
外に出ると冷たい風が頬を撫でた。
火照った体にはこの風は心地よい。
「少し遠回りして帰るか」
酔い覚ましに少し散歩して帰ることにした。
いつもの道ではなく、少し裏手の方へ。
暗がりの道を俺はゆっくりとした足取りで進んでいく。
夜ということもあってかやはりこの辺りは人気を感じない。
だからこそ、どんなに気配を殺していても、複数人の俺を狙う視線は嫌でも気づいてしまう。
「ここなら人は居ないぞ。姿を見せたらどうだ?」
虚空へ向け俺はそう言う。
すると、闇の中からローブ姿の輩が数名姿を見せた。
「いつから気づいていた?」
その中の一人が俺にそう尋ねてくる。
声からしてこいつは男か。
「酒場を出たあたりから薄々な。確信に変わったのはついさっきだが」
「なるほど。見立ては正しかったということか」
ローブの男は満足げにそう言う。
「んで。あんたらは俺をどうするつもりなんだ?」
「手荒な真似はしたくない。我々と一緒に来てもらおうか」
「断ったら?」
「手荒な真似をさせていただこう」
なるほど。
俺はいつでもあのスキルを発動できるよう構える。
もう一度敵の人数を確認する。
大柄なローブが6人、小柄なローブが1人。
力量は分からないけれど、気配を隠しきれていないところを見ると、どうもその道のプロでは無いと考えられる。
となれば、さしずめ誰かから差し向けられたチンピラ集団と言ったところか。
それならば、天下無双を使えば1分でも長いくらいだ。
「じゃあはっきり言う。お断りだ」
俺は天下無双を発動させるとともにそう断言した。
「仕方がない。者どもかかれ」
男の指示でローブの輩数名が俺に襲い掛かる。
俺は体中に力が湧きあがるのを感じると、敵を見やる。
スローモーションのごとく遅い動きで迫る敵に少し安堵すると、俺は地面を蹴り、まずは近くに居たローブAに軽く蹴りを入れた。
間髪入れずローブB、C、D、Eと次々に軽く殴打を入れていく。
そして最後に指示を出していたローブの男に少し強めの蹴りを入れた。
時間にして5秒も経っていない。
彼らは一瞬にしてその場から吹き飛び、近くに建物に打ちつけられていった。
「残るはお前だけだな」
俺は残った一番背の低いローブの輩に向けてそう言い放つ。
そいつはたじろぎ一歩後退するが、何かに強迫されるかのように踏みとどまると、ぐっと拳を握り、臨戦態勢を取った。
この状況でやる気を見せるなんて敵ながらにしてなかなかの根性だ。
そしてそいつは邪魔だとばかりにローブを取る。
「お前は……」
そこにいたのはあの日、俺に変な状態異常をかけた踊り子の少女。
そんな小柄な少女が、鋭い眼光を俺に向けていた。
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