第二章 ローンダードの天舞姫
第四十六話 新たなスキルを求めて
「しっかりしろ、ルーシィ」
スカーレットの屋敷。
俺は急に倒れたルーシィに手をあてがう。
彼女の息は荒く、とても苦しそうだった。
ヨーゲンを発った俺たちは、数日の後にスカーレットの屋敷へたどり着いた。
道中ではリュオンの襲撃はなく、滞りなく目的地へ到着することができたが、事はそんなに順調に運ばない。
到着した途端、ルーシィが崩れるように地面に倒れてしまった。
気づかないうちに無理をさせていたのかもしれない。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ふむ。ちょっと儂が見てみよう」
不意に声がしたかと思うと、アールヴの髪を括っていたリボンがコウモリとなり、ルーシィの元へ飛んでくる。
「いや、お前の屋敷の前なんだから本体が出てきたらいいだろうに」
「そうすると、この娘を見る前に儂が塵になってしまうがの」
あぁ、太陽に弱い系のやつか。
「ふむふむ。これは……」
バサバサと羽ばたきながらルーシィの周りを飛び回る。
そしてある程度観察を終えたところで、アールヴの元へ戻って行った。
「とりあえず全員中へ入れ。その娘は休める場所に儂の眷属に運ばせておく」
◇
「呪い……だと?」
「うむ。端的に言うてそうじゃな」
久しぶりに見るロリ幼女は、難しい表情を浮かべてそう告げた。
「呪いのせいでルーシィは今のような状態になってしまったっていうのか?」
「うむ、そうじゃ。すぐにどうこうしなければ命に関わるというものではないが、かなり衰弱をしておるところを見るに早くなんとかしてやりたいところじゃな」
「お前の力で何とかならないのか?」
「無理じゃ。呪いが強すぎて儂ですら解呪できん」
万事休すか。
フォーロックとアールヴも深く考え込んでいるが、表情を見るに妙案が浮かんだようには見えない。
呪いは本来かけた本人を殺すか、そのかけた本人の魔力を大幅に上回る魔力を持って解呪を行わなければならない。
スカーレットでも解呪できないということは、相当な腕前の呪術師によってかけられてしまったのだろう。
「せめて誰がこの呪いをかけたかが分かれば……」
アールヴは小声でそう呟く。
それは確かに俺も考えた。
だが、そんなのは雲をつかむような話。到底現実的じゃない。
「悩んどるようじゃが、手が無いわけではないぞ」
スカーレットは、ゆっくりと歩きながら俺の方へ歩み寄る。
「何か案があるっていうのか?」
俺がスカーレットに尋ねると、その幼女はゆっくりと俺を指差した。
「お主のスキルを使えば解呪することが可能じゃ」
俺の……スキル?
レベルリセットは論外として、天下無双は戦闘用だし、ステータスにない早熟と超回復は俺にしか効果が無い。
あとはランダムスキルだが……、ランダムスキル……?
「そうか、ランダムスキルだ! これで治療できるようなスキルを引き当てれば……」
「残念じゃが、金色のスキルまでで解呪できるようなものは存在しない。儂が言うておるのはお主がまだ習得しておらん虹色のスキルのことじゃ」
「習得していないスキル……?」
「そうじゃ。それは自身以外のどんな怪我や呪い、状態異常をも一瞬にして完治させるスキル。誰が名付けたか、伝説の霊薬と同じ名をもつそのスキルの名は『エリクサー』。ジュームダレトのスキルクリスタルに封印されておるスキルじゃ」
「ジュームダレト……。もしかして風崖都市ローンダードのことかな?」
「知ってるのかアールヴ?」
「うん。ローンダードは昔ジュームダレトという国だったって昔本で読んだ気がする。150年くらい前に滅びて今はアスアレフ王国の一部になったってそこには書いていたけど……」
「いかにも。ニナの言う通り風崖都市ローンダードこそかつてジュームダレトという国があった場所。そこにはかつての王族の末裔がおるはずじゃ」
「んで、そいつの持つスキルクリスタルから『エリクサー』を習得して来いってことか」
大体の話は把握した。それなら……。
「善は急げだ。アールヴ……、は来るとしてフォーロックお前はどうする?」
アールヴは当然ついていくという顔をしていたので、俺はフォーロックに尋ねた。
ここへ来る道中、フォーロックには俺のスキルのことや、俺とアールヴの過去を除いて今まであった出来事を全て話している。
フォーロックは俯き、何やら考える素振りを見せたが、すぐに顔を上げて答えた。
「私も行こう。ここでじっとしていてもしかたがないからね」
「決まりだな。それじゃあ早速……」
「待て。ニナはここに残るのじゃ」
「えっ!?」
不意にスカーレットがアールヴへ向けてそう言う。
アールヴは素っ頓狂な声を出してスカーレットを見た。
「お主はここに残れと言ったのじゃ」
スカーレットはきっぱりとそう告げる。
アールヴは納得がいかないと言った様子でスカーレットに歩み寄った。
「どうしてですか? 私もロクスと一緒に……」
間近まで寄ってきたアールヴにスカーレットは何やらボソボソと囁く。
すると彼女の顔色は一瞬で変わった。
「どういう……、ことですか?」
「なに。言葉通りの意味じゃよ」
「本当に……本当に?」
「うむ、嘘ではない。飽くまでお主の努力次第という枕詞がつくがの」
「私の……努力次第……」
アールヴは俯き何かを考え込む。
そしてぐっと何かを決意したように俺を見た。
「ごめんロクス。私ここに残る」
「そうか、分かった」
俺は彼女の言葉を受け、背を向けた。
「良いのか? 彼女の魔法はかなりの戦力になると思うのだが?」
「アールヴが決めたことだ。それに」
「それに?」
「いや、何でもない」
そう言って俺は歩き出す。
それに、アールヴがあんなに嬉しそうな顔をしたんだ。
あの日のあの夜、『信じてる』と彼女が言った時のように。
「ロクス……あの……ごめんね」
申し訳なさそうにアールヴがそう言う。
「過去に関わることなんじゃないのか?」
「っ!?」
俺がそう尋ねると彼女は目を大きく見開いてこちらを見た。
なんで分かったのといった具合で。
何を言われたのかは分からないけれど、アールヴがあんな顔をする理由なんて少し考えたら分かる。
「なら謝る必要なんてないだろ。スキルの件はちょっと出かける程度のおつかいみたいなもんだ。お前はそっちに集中して……、え?」
そう言い再度背を向けたところで、背中に軽い衝撃が走る。
「ニ……、アールヴ?」
焦りから思わずニナと言いかけてしまう。
「ロクス……ありがとう」
顔は見えないけれど、声色から彼女の表情も読み取れる。
俺はバツが悪くなって思わず頭を掻いた。
「おやおやラグナス。随分と優しくなったものじゃの」
ニヤニヤしながらスカーレットがこちらを見る。
「うるさい。俺にも色々あるんだよ」
「色々……ねぇ」
尚もニヤニヤしながらこちらを見続けるスカーレット少しばかり苛立ちを覚えた。
ったく、お前は何でも御見通しなんだから何があったかぐらい既に知っているだろうに。
すると、抱き着いていたアールヴがすっと離れる。
俺は振り返り彼女を見た。
「ロクス、頑張ってきてね。私も頑張るから」
彼女はそう言い、グッと拳を突き出す。
「ああ。任せとけ」
俺はそう返すと、彼女の拳に自分の拳を突き合わせた。
この時の俺は思ってもみなかった。
スカーレットの言い回しに、またも騙されていたということに。
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