第二十二話 隠されたスキル


「して、お主らが知りたいのは虹色のスキルのことじゃな。いいぞ、教えてやろう」


 スカーレットと名乗った幼女吸血鬼は、ちょいちょいと俺たちを手招きする。

 俺たちは黙ってそれに従うと、スカーレットは満足そうな笑みを浮かべ、椅子に座った。


「ふむふむ。やはり既に虹色のスキルを手に入れておるな」


 4つ? 言い間違いか?

 いや、多分見間違いだろうな。訂正しておこう。


「何か勘違いしているぞ。俺はまだ2つしか持っていない」


 レベルリセットと天下無双だ。

 ステータスパネルを見ても、それしか無い。

 何でも見通すと言っても、この程度なら期待薄かもしれない。

 しかし、スカーレットはそんな俺をフンと鼻で笑った。


「正式な形での入手ではないから、ステータスパネルには反映されておらんだけじゃよ。ただ、確認できないだけでしっかりと効果は実感しているはずじゃ」


 正式な形ではない入手? しっかりと効果は実感している?


「待ってくれ、急展開過ぎて脳が付いて行ってない。もう少し詳しく教えてくれないか」


「やれやれ。相変わらず仕方のない奴じゃのう」


 スカーレットははぁ、と溜め息をつくと面倒くさそうに語り始めた。


「虹色を含めたところの本来のスキルを入手する手段は、スキルクリスタルへの『干渉』じゃ。お主はレベルリセットと天下無双という2つを手に入れている。それはリーゼベトのスキルクリスタル、そしてニナが持っているユーレシュのスキルクリスタルに干渉することで入手したのじゃろ?」


「あ、ああ。そうだな」


「もう1つ虹色のスキルのみ本来の方法以外で習得する方法がある。それがスキルクリスタルとの『共存』。つまりは、スキルクリスタルの近くに居ましたということじゃな」


「共存……」


「ある一定の間スキルクリスタルと共存することで、気付かぬうちに虹色のスキルを2つ習得したのじゃよ。ただ、本来の習得方法とは違うが故に、ステータスパネルに反映されていないというだけなのじゃ」


 俺はその言葉を聞いて、アールヴのスキルクリスタルを見る。

 こいつと一緒に居ることで見えない形で既に2つ習得していたなんて……。


「ああ、残念じゃがそのスキルクリスタルじゃないぞ。共存をしていたのはな」


「は?」


「何せ、1つのスキルクリスタルから習得できる虹色のスキルは1つだけじゃからな」


 1つのスキルクリスタルからは、1つだけしか習得できない!?


「よくよく思い出してみるんじゃな。お主が虹色のスキルを手に入れたのは、初めてそのスキルクリスタルに干渉したときではなかったか?」


「そう言われてみれば」


 確かに、アールヴが持っているスキルクリスタルに二回目以降干渉した時に得たスキルは、金色のそれだった。


「一玉一技。それがスキルクリスタルと虹色のスキルの関係じゃ。という訳で話は戻るが、お主が気付いていない残りの2つは、別のスキルクリスタルとの共存により習得したものということじゃ」


 俺はその言葉を聞いて過去を思い出す。

 が、スキル開花式の時、そしてアールヴに出会った時の2回しかスキルクリスタルを見たことが無い。

 いつだ? いつ、俺はスキルクリスタルと共存をしていた?

 スキルクリスタルは大小さまざまと聞く。例えばツヴァイト家の誰かがしていた指輪とかが、実はスキルクリスタルだった……という風に考えると辻褄が合う気がする。


「その様子じゃと気付いていないみたいじゃな。まぁ無理もないかもしれんがの。普通は気付かん」


「普通は気付かない……、ということは巧妙に隠されていた、あるいは俺に知られないように誰かが画策したということか?」


「違うの。お主が単純にスキルクリスタルと認識できなかっただけじゃ」


 ますます分からん。

 もういい、直球勝負だ。


「降参だ。答えを教えてくれ」


「それは面白くないから却下じゃ」


 俺の言葉を聞いて、即断でそう言い放つ幼女吸血鬼。

 面白いとか面白くないとかそういう話だったか?


「そういう問題なのか?」


「そういう問題なのじゃ」


 ……。

 そういう問題らしい。


「いやいや。ここまで来てそれは無いだろ。意地悪にも程があるぞ」


「嫌なものは嫌じゃ。お主はしつこいの」


「せめてヒントだけでもないのか」


 全くの手掛かりがないのは辛い。

 少しだけでもいいから情報を引き出しておきたい。


「うーん」


 スカーレットは少し考えたのち、まあヒントだけならと納得してくれた。


「スキルクリスタルから得られる虹色のスキルは決まっておってな。スキルを見ればどのスキルクリスタルから習得したか分かる。お主のスキルは、ディアイン、そしてロギメルのスキルクリスタルから得られたもの。これがヒントじゃ」


「ディアインとロギメル!?」


 すると、今まで黙って聞いていたアールヴが血相を変える。


「それって、以前リーゼベトに滅ぼされた国の名前じゃないですか!」


「そうじゃよ」


 スカーレットは誤魔化しもせず、コクリと頷いた。

 それについては俺も知っている。

 何故なら、その二か国との戦を指揮していたのは、王の命を受けたボルガノフ・ツヴァイトという人物、俺の親父だった存在だからだ。

 幼少の頃、いつも酒に酔ってはその時の話を俺にしていた。ロギメルには仲が良かった奴が居たから、その頃から段々と親父が嫌いになり始めた。正直今思い出しても気分が悪い。が、なるほど、ヒントという割にはほとんど答え言ってくれているようなものだな。


「そのスキルクリスタルは俺の親父が持っているんだな」


「さあの」


 スカーレットは肯定も否定もしない。

 今までは違うことには否定が入っていたので、これは肯定ととっても良さそうだな。


「えっ、えっ?」


 アールヴは俺の言葉を聞いて狼狽えているが、後で説明しよう。

 今はスカーレットから情報を引き出すのが最優先だ。


「次の質問だ。俺の隠された2つのスキルの名前と効果について教えてくれ」


 隠された2つ。隠れたままでもいいが、せめて効果については知っておきたい。


「悩ましいところじゃの」


 うーん、うーんとスカーレットは考える。


「それも面白くないから却下か?」


「と、言いたいところじゃが、別に今知っても後で知っても何かが変わることはないしの」


 スカーレットは数秒悩んだ後に仕方ないと言った表情で呟いた。


「ええぞ。それは教えてやろう」


 そして、彼女から俺の2つの隠されたスキルの名が語られる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る