第二十一話 魔眼の吸血鬼


 ヨーゲンを発ってから数日。

 俺たちは王都を過ぎ、東へ東へと歩を進め、やっとのことでアイリス湖へたどり着いた。

 道中、モンスターに襲われたり、モンスターに襲われたり、モンスターに襲われたりしたが、アールヴの魔法や天下無双で乗り切り、なんとか無事に到着した。本当、早く通常時でも強くなれるようなスキルが欲しい。

 おかげさまでレベルも繰り返し上がり、SPも100を超えるほど溜まった。


********************


ラグナス・ツヴァイト

Lv:18

筋力:EEEEE

体力:EE+

知力:E+

魔力:E+

速力:EEEE

運勢:FFFFF+

SP:114

スキル:【レベルリセット】【天下無双】


********************


「どうしましょう。もう一度スキル習得してみますか?」


 アールヴが自身のスキルクリスタルを差し出しながら言うが、俺はそれを片手で制した。


「やめとく。必ず虹色のスキルが出るとも限らないし」


 それに、他のスキルが出ても1日で消えるのなら、今習得する意味はない。

 虹色のスキルを習得すのに数千ポイント必要なのであれば、倹約しておく必要があるしな。

 さてさて、それより問題は……。


「この湖、どうやってあの島まで渡るかだよな」


「ですね」


 大きなアイリス湖の真ん中にポツンと島があり、大きな屋敷のようなものがあるのは分かる。橋はかかっていないため、そこに行くにはどうしても水の上を渡っていかなくてはならない。が、俺達は今船を持っていない。


「どうしましょう。最悪泳ぐという手がありますけど」


「俺、かなづちなんだよな」


「そうだったんですね。意外です」


 アールヴには大変申し訳ないけれど、それだけは勘弁願いたい。


「では、天下無双でジャンプすると言うのは?」


「うーん。できなくはないけれど、得体の知れない相手に会うのに天下無双が使えないのは辛い」


「あー、なるほどです」


 今の俺には強敵に対抗する手段が天下無双しかないので、それも避けたい。

 その後も案を捻りだそうと二人で考えたけれど、結局妙案は思いつかなかった。

 手詰まりだなと、そう感じ始めた時、遠くの屋敷がキラッと光った。

 アールヴも気づいたようで、こちらを見て?マークを浮かべている。

 すると、程なくして屋敷からコウモリが大量に飛んできた。


「気づかれたか?」


 俺は新しく新調した剣を構え、アールヴも細身の剣を抜く。

 しかし飛んできたコウモリは俺たちに襲い掛かることは無く、お互いが身を寄せ合い、こちらから島までの橋となった。


「歓迎されているのでしょうか」


「だといいがな」


 おびき寄せられた挙句、袋叩きでお陀仏なんてことにならないことを祈りたい。


 俺たちは橋を渡りきると、大きな屋敷のドアをノックする。

 すると、ギギギと古めかしい音を立ててドアが開いた。

 しかし、そこには誰も居らず、中が全く見えない闇が広がっていた。


「ロクス。一つ良いですか」


 冷や汗を流しながら、アールヴが俺に尋ねる。


「何だ。怖いからやめとこう以外なら聞いてやるぞ」


「……、何でもありません」


「よし、じゃあ行くか」


 俺は尻込みするアールヴの手を取り、無理矢理に引っ張りながら闇の中へ歩いて行った。


 入って分かるが、辺りが暗すぎて何も見えない。

 とりあえず訳も分からぬまま真っすぐ真っすぐ進んでいく。


「ロクス、本当にこっちで良いんですか?」


「知らん。俺に聞くな」


 俺だって初めて来たんだから分かる訳がないだろうに。困ったらまっすぐ進むしかあるまい。


 数分歩いた後、遠くに白い光が見えた。

 どうやらあれがこの闇の出口のようだ。

 俺たちは足早にその光へ向けて、歩を進め、光へ飛び込む。

 気付けば王城の謁見の間のようなところに俺たちは立っていた。


「ここは……?」


 アールヴがキョロキョロと周りを見回す。


「ようこそ、我が屋敷へ。歓迎するぞ」


 不意に声がしたかと思うと、どこからか大量のコウモリが現れ、豪奢な椅子に集まり始める。

 そしてそれは人の姿を形成し、やがて一人の……幼女となった。


「ククク。この禍々しい姿に声もでんようじゃな。そう儂の名は……」


「いや、ちょっとタイム」


「なんじゃい! せっかくいいところじゃのに」


 こちらに手のひらを差し出し、ポーズを決めたところで俺がストップをかけた。

 幼女は不服と言ったようにプクッと頬を膨らませる。


「えっと、間違えました」


 俺は再びアールヴの手を取り、踵を返す。

 アールヴはえっ、えっと狼狽えているが急な出来事に対応できないだけだろう。後で、説明をしよう。


「待て待て! お主ら儂に用があるんじゃなかったのか!?」


 後ろで幼女が甲高い声で叫ぶ。

 仕方がないので、ため息交じりの声で幼女に説明をする。


「あのな。俺たちが用があるのは、齢400歳の婆さんなの。魔眼の吸血鬼って言う化物なの。君、5歳くらいだろ? 君と遊んでる暇は無いの。分かった?」


「ぐぬぬぬぬ……」


 俺の言葉を聞いて、幼女は顔を真っ赤にしながら地団駄を踏んだ。


「人のことを婆さんじゃの化物じゃの5歳じゃのと失礼な。儂がその魔眼の吸血鬼じゃ!」


 はあ? この幼女が?


「まったく。お主らは虹色のスキルのことを聞きに来たんじゃろ。ラグナス、そしてニナ!」


「何で、俺たちの名前を……?」


「知っておるじゃろう? 儂がありとあらゆる事象を見通す魔眼の持ち主だと言うことを」


 幼女は若干イライラしながら俺に言葉を投げる。

 確かにギルドマスターはそう言っていた。だから俺たちの目的や名前もお見通しだってことか。


「あんたが、魔眼の吸血鬼だったのか……」


「最初からそう言っておるじゃろうが! コホン、では改めて」


 そう言って、幼女は俺たちに手のひらを向け、ポーズを決めた。


「儂の名は、スカーレット・ブラッドレイ。誰が言ったか、畏怖を込めて人は儂をこう呼ぶ。『魔眼の吸血鬼』とな」


 幼女はそう言い切ると、満足だったのかドヤ顔で笑った。

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