第十七話 消えたものと消えなかったもの
「これが報酬の15万エールとなります」
ヨーゲンへと戻ってきた俺たちは、村長からもらった達成証書と引き換えに、ギルドの受付で報酬を受け取る。ついでに推奨Cランクを達成したということで、二人ともギルドランクを上げてもらうこととなり、プレートを預ける。数分後、俺には青色のプレートが、そしてアールヴには黄色のプレートが渡された。
「案外と簡単にランクアップできましたね」
初クエスト達成で、とりあえず打ち上げをしようということになり、昼間でも開いている酒場を探している道中でアールヴが笑顔で俺にそう言う。
「俺はFランクになるまで5年もかかったのにな。スキル一つでこうも違うとは」
俺も自分の青色のプレートをまじまじと見ながらそう言った。
天下無双とレベルリセットがあれば、Cランク、果てはAランクなんて夢じゃないかもしれない。
俺たちは手ごろな酒場を見つけ、中に入ると、その辺の2人席に座って適当に注文をする。
「んじゃ、乾杯で」
「かんぱい?」
アールヴが乾杯を知らなかったみたいなので、こうやってジョッキをカチンと鳴らすんだよと教えてやった。
「分かりました。では、乾杯です」
「おう」
再び俺たちはジョッキをお互いに打ち付けた。
「それで、結論は出たんです?」
ある程度食べ物も揃たっところで、アールヴがそう切り出す。
アルニ村でスキルが消えてしまった一件。
俺はマジックブーストの効果を事細かにアールヴへ説明することで、本当に習得していたことを信じてもらえた。
それからヨーゲンへ帰ってくる間、何故消えてしまったのかを必死に考えていたが、やはり原因は1つしかなかった。
「レベルリセットだろうな」
レベルリセットの効果によるもの、これが俺の最終結論だった。
「やっぱり、そうですよね」
アールヴも同じ考えだったみたいで、ジョッキのジュースに口をつけながら少し気落ちした表情を浮かべながら俯いた。ちなみに彼女はお酒が飲めないみたいで、ジュースで俺に付き合ってもらっている。
「天下無双についてはどう考えます?」
顔を上げながら納得いかない点について俺に尋ねる。
そう。レベルリセットが原因と考えるのならば、次はそこの矛盾点に行きつくんだよな。
マジックブーストは消えたけれど、天下無双は消えていないのだから。
「それについても、1つの推論は立ててる。無理矢理かもしれないけれどな」
俺がそう言うと、聞かせてくださいと言わんばかりの眼差しで、アールヴは何も言わずに俺を促した。
「虹色のスキルはリセットされない」
違いはもはやそこしかなかった。
誰も見たことのない虹色の光の放ちながら習得したスキル。これだけがリセットされないとするのならば、全ての辻褄があう。
「確かに無理矢理感は否めないですね」
アールヴは半分納得、半分疑問といった複雑な表情でうーんと唸った。
「一応俺なりに裏付けもあるんだ」
「何ですか?」
「仮にだぞ。仮に虹色のスキルもリセット効果で消えるのであれば、レベルリセット自身もスキル欄から消えてないとおかしいと思わないか?」
「っ!」
アールヴは、「はっ」としてうんうんと頷く。
「つまり消えてないのは天下無双だけじゃなくて、レベルリセット自身もそうなんだよ。そこから導き出される答えが」
「虹色のスキルは消えない――ですか。なるほど」
納得ですと、アールヴは頷いた。
「となってくると、後は虹色のスキルの発現条件。ここを突き詰めるのが俺の次の課題だな」
「そうですね。例えば次の虹色のスキルを手に入れ、それが消えないのであればロクスの説が正しかったとほぼ証明されたも同然です」
ぐっ、と握りこぶしを作り、鼻息荒くする彼女を見ながら、俺はポリポリと頭を掻いた。
「同時に、虹色のスキルを手に入れなければこれ以上俺は強くなれない。ということも証明されるがな」
そしてはぁ、と俺はため息をつく。
アールヴは「あっ」と短く声を上げた後、「ごめんなさい」と謝ってきた。別にアールヴが悪い訳じゃないからいいんだけど、問題がそこにあることに変わりはない。
スキルだけはリセットされないと思っていたから、無限の強さを手に入れられるという勘違いに繋がってしまった。
実際そうじゃなかったという事実が分かった今、俺を見限った奴らへの復讐が一歩遠のいてしまったようで、正直残念でしょうがない。
反面、マジックブーストというトラウマスキルが消えてくれたことに関しては嬉しい気持ちしかない。
「ったく。どっちの方が良かったんだか」
俺はそんなジレンマにモヤつきながら、ぐいっとジョッキの酒を飲み干したのだった。
打ち上げを終えた俺たちは、とりあえず次のクエスト探しのためギルドへ戻ってきていた。
しかし、掲示板に行こうとしたところで受付のお姉さんに呼び止められる。
何事やらと受付の方へ向かうと、お姉さんは安心した様子で俺たちに笑いかけた。
「良かった戻って来てくれて。私がギルドマスターから怒られるところでした」
「何かあったんです?」
アールヴが首を傾げならお姉さんに尋ねる。
「ええ。実はギルドマスターがあなた方に会いたいと言っておりまして。それを伝えるのを失念していたんですよ」
「そんな大事なことを失念するなよ」
「面目ないです」
「ロクス! そんな言い方はないですよ!」
俺がお姉さんをシュンとさせてしまったことで、アールヴからお叱りを受けた。別にそこまでキツく言った訳じゃないのに。理不尽だ。
「はいはい。それで、何でギルマスが俺達なんかに?」
「はい。実は、お二人に受けていただいたクエスト、推奨Cランクだったかと思うんですが」
「おう」
「実は、元々推奨Aランクだったんですよね」
「は?」
俺が圧を飛ばすと横からアールヴにグーで殴られた。
「うちのロクスが度々すみません。理由を聞かせていただいても?」
「は、はい」
お姉さんは若干俺にビビりながらあのクエストの経緯を語ってくれた。
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