第十六話 大誤算
「名前はどうしましょうかねー」
魔力が少し戻り、歩けるようになったアールヴは、鼻歌を歌いながら村への道を歩く。
その頭の上には、同じく楽しそうにピギッピギッと鼻歌に合わせている猪。
「そうだ、ウリンなんてどうでしょう。ね、ロクス」
ウリ坊だからウリンだろうか。
「いいんじゃないか」
短絡的で。
「ですよねー。今日からあなたはウリンですよ」
ウリンとやらはピギッピギッと楽しそうに鳴き声で返す。
「ウリンも気に入ってくれたみたいです。ね、ロクス」
「そうだな」
可愛いペットができて機嫌がいいのは分かるけど、いちいち俺に振らないで欲しい。
そう思って出た態度がアールヴに伝わったのか、少しずつ面白くなさそうな表情に変わっていく。
「ロクス、ウリンに妬いてるんですか?」
「何でそうなるんだよ」
思わず突っ込んでしまった。どこをどう考えたらそういう答えに行きつくのだろうか。
「だって、さっきからつまらなさそうな顔してます」
それはあなたのテンションが面倒くさいだけです、と言おうものなら機嫌が急降下するんだろうな。
「悪い悪い。ちょっと考え事してたから」
だから笑顔でそう返しておく。嘘はついていない。どうしてモンスターが懐いたんだとか色々考えてたからな、うん。決して面倒くさいから適当に返した訳じゃないぞ。
「ロクスが笑顔なんて怪しいです」
あー、もう、面倒くせーな。
「そうだ。ロクスもウリンと仲良くなりましょう。そうすればきっと楽しいパーティーになりますよ」
「は? なんで、俺がモンスターなんかと……」
瞬間、ビリリと微弱な電気が体を流れた。
ジト目でアールヴを見るけれど、ニコニコと笑顔のまま何も言わない。ホントこいつ良い性格してる。
「はいはい。分かったよ」
埒が明かないので渋々折れることにして、「はい」とアールヴの両手に乗って差し出された猪に握手する感覚で手を伸ばした。
「よろしく頼むな、ウリ……」
ピギャッ!
「いでっ!」
ウリンは俺の手が触れるか触れないかぐらいで、彼女の両手を蹴り、思い切り俺の顔面に体当たりをしてきた。
「何、しやがるクソ猪」
俺が顔を抑えながら地面に降り立ったそいつに抗議をすると、そいつもそいつでピギーピギーと何か文句を俺に言っている。上等だ、かかってこいやオラ。
「ダメですよ、ウリン」
するとアールヴは、興奮するクソ猪を両手で抱えてよしよしと撫でる。
「ロクスも、本心でウリンと仲良くなりたいと思ってないから嫌われちゃうんですよ」
「今のでもっとそういう気持ちは失せたけどな」
キッ、と俺はクソ猪を睨む。
そいつはアールヴの腕の中でピギッと一声鳴くとプイッとそっぽを向いた。
おう、いつかお前チャーシューにして食ってやるからな。
「誠にありがとうございました!」
村に帰った俺たちは、村長に出迎えられ、そのまま宴会へと突入した。
日が変わると俺のアイテムボックスの容量が減ってしまうので、後で倒した大猪は餞別として村人たちへ渡し、その一部が宴会で振舞われた。
ちなみにクソ猪は一緒に居ると村人たちが怖がるかもしれないということで、レベルアップして容量が増えたアールヴのアイテムボックス内に入ってもらっている。
大猪戦から張りつめていた緊張感が解け、やっと落ち着けると思ったら、
「それで兄ちゃん、あの嬢ちゃんとはどういう関係なんだい!」
「いや、どういうも何も……」
「熱いね、熱いねー」
などと、酔っぱらったおっさんやおばちゃんたちの絡みが鬱陶しかったので、俺は疲れたから寝ると言い、早々に村長宅へ引き上げた。奴隷紋と分かりにくく、ただのタトゥーに見えるようアールヴが首元に施してくれたことがここで災いしてしまったのかもしれない。
俺は自分の部屋に戻り、ステータスを確認する。
********************
ラグナス・ツヴァイト
Lv:105
筋力:DDDDD+
体力:DDDD+
知力:C+
魔力:C+
速力:DD+
運勢:DDDDD
SP:16
スキル:【レベルリセット】【天下無双】
【マジックブースト】
********************
大猪を倒したからまた上がったレベルは置いておいて、やはり目につくのは一つのスキル。
「マジックブーストか」
今はどうしているのか知らないし、知りたくもない昔の知り合いと、今戦いを共にしているパートナーであり主人でもあるアールヴの2人が共通して持っているレアスキル。
これ1つで今までの俺の評価は覆るぐらいのものを手にしてしまったのだけれど、気持ちとしては複雑だった。
確かにこれのお陰で2体目の大猪を倒せたのは事実としても、俺を苦しめたトラウマが早々に消える訳じゃない。
「はぁ、よりによって何でこのスキルなんだよ」
思わず独り言ちてしまう。
はぁ、とため息をついてこのスキルとあのクソ猪をどうしようかと考えているところで、アールヴが帰ってきた。時計を見るとちょうど日が変わったぐらいか。
「戻りました。村の方たちはとても嬉しそうでしたね」
ニコニコとアールヴも嬉しそうに語る。
あなたも嬉しそうで何よりです。
「どうしたんです? 何か表情が暗いですけど」
「何でもな……いや、アールヴには話しておくか」
適当に誤魔化そうと思ったけれど、新しく手に入れたスキルについては話しておいたほうがいいかもしれない。
俺は彼女が気絶してからの事と、スキルクリスタルを使って新しく入手したスキルがマジックブーストであることを告げた。
すると彼女はすかさず俺のステータスを確認する。そして、アハハと笑った。
何故笑う?
「ロクス、冗談を言って私を驚かそうとするならもっと上手にするべきですよ。私はロクスのステータスが見れるんですから」
冗談? 何を言ってるんだ?
「いや、俺は別に冗談を言っているつもりなんてないが」
へ? と、アールヴは俺の言葉に首を傾げる。
「だって、スキルは前見た時と変わってないですよ」
は?
いや、本当に何を言っているんだこいつは。
俺は慌てて自分のステータスを再度確認した。
********************
ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:17
スキル:【レベルリセット】【天下無双】
********************
もう一度目をこすって確認するけど、確かに俺のスキルは2つしか書かれていなかった。
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