第十三話 アールヴのスキル
「構えろ、アールヴ!」
呆然と立ち尽くすアールヴに俺は檄を飛ばした。
はっ、と我に返った彼女は、腰元の
まだあいつとの距離はある。俺はその間に自分のステータスを確認した。
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ラグナス・ツヴァイト
Lv:88
筋力:DD
体力:EEEE+
知力:E+
魔力:E+
速力:EEEE+
運勢:EEE+
SP:99
スキル:【レベルリセット】【天下無双】
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想定以上にレベルは上がっているものの、やはり天下無双のデバフ効果が厳しい。こんなところでこのデメリット効果に足を引っ張られるとは思ってなかった。
「ロクス。撤退はできないのでしょうか」
冷や汗を垂らしながら、俺の方を見てアールヴはそう言う。
「旦那殺されてるんだぞ。逃がしてくれると思うか?」
ブモオオオオオオ!
今の猛々しい咆哮が、そうはさせないという意気込みを物語っている。
アールヴもその考えは無意味だと分かってくれたのか、再び大猪の方へ向き直った。
「私がやってみます」
すると何を思ったのかアールヴがやる気に満ちた顔でそう言った。
「策があるのか?」
「私のスキルを使います」
アールヴのスキル? そう言えば聞いていなかったなと思う。
具体的な年齢は聞いていないが、彼女は恐らく俺と同い年くらい。となれば、リーゼベトで言うところのスキル開花式は既に行っているのだろう。ユーレシュにそんな儀式は無かったとしても、それをするためのものを首からぶら下げているのだから、スキルを保有していても不思議ではない。
「ですから、私が詠唱を完了させるまで時間を稼いでいて欲しいんです」
詠唱をするということは、少なくとも中級以上の魔法を発動させるということなのだろう。ということはアールヴのスキルは魔法関連と言うことなんだな。
「どのくらいで終わる?」
「25秒程度あれば」
ということは上級確定だな。中級だとその半分くらいでいいはずだ。
アースバインドのような下級魔法は詠唱無しでも発動できるが、中級や上級となれば話が変わる。
詠唱をすることで精神を安定させ、魔力量をコントロールし、暴発を防ぐのだ。それこそ中級や上級を詠唱無しで発動させるなど自殺に近しい行為だということは、魔法が苦手な俺でも理解できる。
「勝機はあるんだな」
「私が使える中での最大魔法です」
逆にこれが通用しなければ、俺たちは終わりということを言いたいんだろうな。
「頼んだぞ!」
「任せてください!」
その掛け合いを皮切りに、俺は目前まで迫っている大猪に突撃した。
それと同時に背後のアールヴが詠唱を開始する。
「我、炎の化身として命ずる――」
俺は手にしていた護身用の剣の腹で大猪の体当たりを受け止める。
ブモオオオオオ!
受け止め、きれないっ!
俺の両腕の骨という骨が軋みを上げ、護身用の剣はあっさりと二つに折れる。
「地の底に眠りし、業火の魂よ――」
もろに大猪の体当たりを受け、勢いのまま天高く俺は打ち上げられた。
体中が痛みに襲われる。さっきの大猪もこんな気分だったのかもしれないな。
「灼熱の衣、灼風の翼――」
下では大猪が次の標的をアールヴに決めたのか、そちらへ向け突進を開始する。
させるかよっ!
「『アースバインド』」
俺は空中で魔法を発動させ、大猪の後ろ脚にツタを絡ませる。
大猪は先ほどの奴と同様に、勢いのまま鼻から地面に突っ込んだ。
見たか、下級魔法くらいなら俺でも使えるんだ。
「灼火の拳、灼光の剣――」
だが、大猪はいともたやすくツタを引きちぎると、再びアールヴに突進を開始した。
まだかっ! まだ、詠唱は終わらないのかっ!
「『アースバインド』」
俺は再び大猪の足をからめとろうとするが、二度同じ手は通用しないらしい。大猪は器用にアースバインドのツタを避けていく。
ちっ、これだから変に頭のいいモンスターは。
「灼陽の体躯を顕現させよ、その名は――」
大猪は既にアールヴの眼前に迫っている。
俺はアイテムボックスからスペアの剣を取り出した。そして、剣先を大猪に向け、落下のスピードを利用して背中へと突き刺した。
ブモオオオオオ!
大きな咆哮とともに、大猪の足が止まった。
「ロクスっ! 避けてください!」
見ると、アールヴの手には大きな魔力の塊が集まっている。詠唱完了の合図だ。
俺は最後の力を振り絞り、大猪の背中を蹴って離脱した。
アールヴはそれを確認すると、魔力の塊を大猪へ向ける。
「スキル発動、『マジックブースト』」
彼女がその言を発した瞬間、魔力の塊が爆発的に膨れ上がっていく。
『マジックブースト』……だと?
「『ヴォルカニック・インフェルノ』」
刹那、魔力の塊が大猪の下の地面に吸収されていく。
そして、地面が隆起し、割れ、中からマグマが吹き出し、火柱のように打ちあがった。
炎系上級魔法、ヴォルカニック・インフェルノ。噂には聞いていたが、ここまでの威力だなんて。
いや、恐らくこれは『マジックブースト』による追加効果の影響もあるだろうな。
「ロクス……」
アールヴはそれだけを告げ、地面に倒れこんだ。
全魔力をこれに注ぎ込んで魔力切れを起こしたのだろう。無茶しやがって。
俺は、痛……みが消えた体を起こし、アールヴに駆け寄る。大丈夫気を失っているだけで命に問題はなさそうだ。
火柱は夜空を明るく照らし続けていたが、アールヴが気を失うと同時に、急速に勢いを収束させていった。
そして、その後に残ったものを見て、俺は再び乾いた笑いが漏れる。
「ハハ、ハ。冗談だろ。これがCランク相当なのかよ……」
そこには、所々を黒く焦げさせ、香ばしい匂いを漂わせながらも、目に光を宿したままの大猪が悠然とした姿で立っていた。
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