第二話 変わり始めたもの


 静寂の中で、俺はもう一度自分のステータスを確認してみる。


********************


ラグナス・ツヴァイト

Lv:1

筋力:G

体力:G

知力:GG

魔力:G

速力:GG

運勢:GG

SP:51

スキル:【レベルリセット】


********************


 ……。

 え、ちょっと待って。

 なんで俺のレベル1に戻ってんの? 昨日までは確か52まで上がっていたはずなのに。

 慌てた俺は、レベルリセットの効果を調べてみた。


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  レベルリセット

   毎日、日が変わる瞬間にレベルが1にリ  

   セットされ、能力が初期化される


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 毎日、日が変わる瞬間にレベルが1に戻るだと?

 それに俺のステータスどうなってるんだ?

 まるでそこらに居るじゃないか。

 能力が初期化されるって、ステータスも元に戻ってしまうってことなのか!?


 頭の中が混乱で支配される。何だ、このスキルは、と。百害あって一利なし、まるでメリットを感じることができない。

 そして何より一番ショックだったのは、今までの努力の証とも言えるものが一瞬にして水泡に帰したことだ。俺が神の申し子と言われる所以は、この高いレベルとそれに比例したステータスの高さだったというのに。


 俺が呆然と立ち尽くす中、静寂を破ったのは俺の横に立って居た学園長だった。


「ラグナス。レベルリセットとはなんだ? 私も初めて聞くスキルゆえ、その効果を教えてくれると助かるのだが……」


 う、やっぱり聞かれるのか。

 とはいえ答えないわけにもいかないし、嘘をついてもしょうがないし。

 はぁ、と溜め息をついて、俺はスキルの効果をそのまま読み上げた。


「毎日、日が変わる瞬間にレベルが1にリセットされ、能力が初期化される。だそうです」


「レベルが1に? 能力が初期化?」


 俺の言葉を信じられないのか、学年長は目が点になっていた。

 周りの教師や、学園生たちもざわつき始める。


 レベルリセットって何? レベル1って俺らよりも低いってことか?

 そんな言葉が耳を突き刺していく。


「つまりはあれか。君はその……言いにくいが弱体化をしてしまったということなのかね?」


 それを皆の前で聞きますか。デリカシーってもんを知らないんですね。


「有り体に言えばそうなるのかもしれないです。自分でも何が起こったのか分からないので」


「だが、デメリットしかないスキルが存在するなど考えられん。そうだっ!」


 学園長はポンと手を打つと、近くに居た教師数名を呼び寄せる。


「王国の学者たちにこの事実を伝え、過去に同様のスキルの発現がないかを確認するのだ。神の申し子が開花させた聞いたこともないスキルだ。きっと凄い能力が隠されているに違いない!」


 はっ、と教師たちは短く返事をすると、バタバタと教会を出て行ってしまった。





 それから2週間が経過した。

 結論から言おう。俺の能力は王国の学者たちから満場一致でゴミスキルだと判定された。

 結局このスキルの有効的な活用方法を見出すことはできず、全員が匙を投げてしまったというところだ。

 この知らせを聞いた父親であるボルガノフ・ツヴァイトは激昂した。俺に対して。


「この親不幸者め! 私が鍛えてやったというのに全て無駄にしてしまいおって!」


 別に俺が悪い訳じゃない。なのに父親はうるさいと俺の話を聞かずに殴り続けた。

 母親や二人の兄に目線で助けを求めるけれど、母親は見ないふりをし、そして二人の兄はニヤニヤと笑っていた。

 何で助けてくれないんだ。そんな思いを抱きながら俺の意識は闇の中に沈んでいった。


「はっ!」


 気付いたとき、俺は馬小屋の藁の上で寝かされていた。

 動物独特の何とも言えない臭いが鼻をついた。


「ここは」


 どうやらここはツヴァイト家の屋敷内にある馬小屋らしい。何度か馬の世話で来たことがあるから見覚えがある。


「痛え……くない?」


 全身を起こし、恐らく襲い来るであろう痛みに先駆けて言葉を発するけれど、意外と体は何ともなかった。あんなに殴られたから、骨の何本かはいったかと思ったけれど、それも何ともない。立ち上がってジャンプしたりしてみるけれど、健康体そのものだった。


 もしかしてステータスが戻ったのかと確認をしてみる。


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ラグナス・ツヴァイト

Lv:3

筋力:GGGG

体力:F

知力:GG

魔力:GG

速力:GGG

運勢:GG

SP:70

スキル:【レベルリセット】


********************


 何だか空しくなっただけだった。殴られてレベルが上がるってどうなんだよ。ご丁寧に体力の伸びが他に比べて良いのも癇に障る。


「どうせ、元に戻るから関係ないけどな」


 辺りが暗いから今は夜なのだろう。

 俺は馬小屋から出て屋敷の方へ向かった。屋敷に入る扉の上には、大きな時計が飾られている。そこに行けば今の時間が確認できると踏んだ。

 暗くてよくは見えないけれど、短針も長針も恐らくあとちょっとで『Ⅻ』を指し示すのは分かった。俺はそれに合わせてカウントダウンを始める。


 3、


 2、


 1、


 0


********************


ラグナス・ツヴァイト

Lv:1

筋力:G

体力:G

知力:GG

魔力:G

速力:GG

運勢:GG

SP:71

スキル:【レベルリセット】


********************


 ほらね。戻った。

 ここ2週間。毎日のように繰り返しては落胆する日々。いい加減諦めたらいいのにと自分でも思う。





 翌日。

 結局屋敷には鍵がかけられており、中に入れなかったため俺は馬小屋で一夜を過ごした。

 寝心地は最悪。だけどそこに居た馬が俺が寄りかかって寝るのを許してくれたおかげで暖をとることができ、凍死することはどうにか免れた。

 俺は少し痛む身体を起こして馬にお礼を言い、小屋を後にした。


「よう、これはこれは愚弟のラグナス君じゃないか」


 屋敷へ向かう俺に声をかけたのは、2つ上の兄ゲオルグ・ツヴァイトだった。

 嘲るような目で俺を見下している。


「ちょうど迎えに行こうと思っていたんだ」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。我が兄ながら醜い笑い方だ。


「何の用ですか、兄さん」


 だからこそ自然と俺の言葉や態度も悪意を持ったものとなってしまう。


「何の用ですかとは随分だなラグナス。お前はいつからそんなに偉くなったんだ!」


 そう言いながら兄は拳を腹部へ滑り込ませてくる。

 俺はいつもの感覚で避けようとするけれど、体がついていかない。くっ、レベルが下がった代償か。

 兄の拳を思い切り腹に貰った俺は、人二人分ほど吹っ飛ばされ、背中を地面に落とす。

 今までのステータスだったら吹っ飛ぶどころか、逆に拳を粉々にすることだってできたのに。

 悔しさと痛みで涙が溢れてくる。なぜ、こんなにも弱くなってしまったのだろうか、どうしてあんな奴の一発がこんなに重いのかと。


「起きろ愚弟。今までの恨みはこんなものじゃないぜ」


「やめろゲオルグ。客人の前だ」


 すると、遠くから父ボルガノフの声が響いた。

 俺は、フラフラと立ち上がると、そちらを見る。


「ラグ……」


 自信に満ち溢れた姿で立つ父の側。そこには見知った顔が立っていた。

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