レベルリセット ~ゴミスキルだと勘違いしたけれど実はとんでもないチートスキルだった~
雷舞 蛇尾
第一章 そのゴミスキルの名は
第一話 そのゴミスキルの名は
全く、この世の中なんてものはクソ以外の何物でもない。
そう気づいたのは俺がちょうど10歳を迎える頃だ。
「これより、特殊スキルの開花式を執り行う!」
豪奢な飾りつけがされた教会の一角。
目の吊り上がった禿げた爺さんが声高々に宣言する。
「何が貰えるんだろう」
「俺、将来は国王直属の騎士になるのが夢だから、剣とか武術とかのスキルが良いなあ」
周りの少年少女たちは、どのようなスキルがもらえるのかと浮足立っていた。
かく言う俺、ラグナス・ツヴァイトもその中の一人だったことが今になって思うと非常に恥ずかしい。
「ラグ。どんなスキルが貰えるんだろうね。私は魔法が強くなるスキルがいいなあ」
そう俺に声をかけてきたのは、幼馴染のフェリシア・ノイマン。俺の家、ツヴァイト家と彼女の家ノイマン家は親父同士が親友だかなんだかで、昔から家族同然の付き合いをしている。だからフェリシアとは小さいころからよく遊び、同じご飯を食べ、一緒に育ってきたいわば兄妹みたいなものだと思っている。親父同士は俺とフェリシアを結婚させるんだーなんて盛り上がっているらしいけど、当人の意向を無視して勝手に縁談を進めないで欲しい。これだから貴族というものは。
「シアは宮廷魔術師志望だもんな」
ちなみにシアはフェリシアのこと。俺は彼女のことをシアと呼び、彼女は俺のことをラグと呼ぶ。それが広まったのか、俺たちと仲のいい連中はみな、ラグ、シアと呼んでいる。
「俺は――これと言ってないんだよなぁ」
「おぉ、さすがは王国始まって以来の神童。神の申し子様は言うことが違いますねえ」
「嫌味かよっ」
思わず俺はシアに突っ込んでしまう。俺はなぜかこの学園、いやこの王国の人たちから神の申し子などと呼ばれている。理由は簡単で、初等部ながら既にレベル50を達成してしまっているということだ。
この世界にはレベルという概念が存在している。
例えば剣の素振りをした、腕立て伏せをした、魔物にダメージを与えた、魔物からダメージを受けた、勉強をした、授業を受けたなどありとあらゆる経験を経ることで、このレベルというものが上がっていく。そしてこのレベルが上がると、筋力や体力、魔力などが比例して向上する。レベルが上がる速さや向上の度合いなどは人それぞれなのだが、俺はこのレベルの上昇速度がケタ違いなのだ。
王国の騎士団の平均レベルは40程度と聞く。つまり俺は、10歳にして王国騎士団と同等かあるいはそれ以上の能力を持っているということになる。そんな噂を聞きつけた王国が俺のことを放っておくはずもなく、神の申し子なんていうむず痒い二つ名をつけられてしまったのだ。
「次、フェリシア・ノイマン」
そうこうしている間にフェリシアが呼ばれる。
彼女は、「はい」と大きく返事をすると、立ち上がって禿げた爺さんこと学園長の下へと歩いて行った。
「ではここに手をかざしなさい」
学園長が促す先、そこには大きな水晶玉が置かれていた。
スキルクリスタル、確かそういう代物。
一生に一度だけ、その人物に見合った特殊なスキルを与えてくれる国宝だ。ただしその力が強すぎるがゆえに、年齢が10歳以上でなければ、もらったスキルを受け止めきれずに体が崩壊してしまうらしい。
シアもその話を知っているため、クリスタルに伸ばす手が若干震えている。まぁ、そりゃ怖いよな。
数秒かけて彼女の手がクリスタルに触れられる。すると、クリスタルは金色の輝きを放ち始めた。
「おぉ、これは希少な輝きだ!」
確かに、と俺も思った。というのも与えられるスキルのレア度、言わば強さによってクリスタルの輝きは変化する。青、緑、赤、銀、金の5段階で、最上級の輝きなんて相当強い能力なのかもしれない。
やがてその金色の輝きは収縮していき、シアの手に吸い込まれる形で消えていった。
「フェリシア・ノイマン、して授かったスキルの名は?」
「えっと、『マジックブースト』です」
それを聞いた瞬間、周りの教師陣がざわ、ざわとし始める。
マジックブーストだと? かの、大賢帝が所有していたと言われるあの? なんて声がちらほら聞こえてきた。
「なんと素晴らしいスキルを手に入れたのだフェリシア・ノイマン! あぁ、まさか私が生きているうちに伝説のスキルに出会えるとは」
学園長は天に祈りを捧げ、神に感謝していた。そんなに凄いスキルなのそれ?
フェリシアは居心地悪そうに戻ってくる。その最中でも、同級生たちから羨望の眼差しで見つめられていた。
「あはは。何か凄いスキル貰っちゃったみたい」
照れ笑いをしながら彼女は俺の横へ座った。
「周りの教師たちの目の色が一瞬で変わったのを見ると、結構ヤバいのかも。良かったなシア」
俺がそう言うと、うんと嬉しそうにシアは微笑んだ。
「――これでやっとラグに並べたのかな」
シアは小声で何かを呟く。
「ん? 何か言った?」
あまりにも小さすぎて聞き取れなかった。何て言ったんだ?
「あっ、何でもないよ」
しかしシアはブンブンと首を振ってアハハと笑った。変なシア。
「次、ラグナス・ツヴァイト」
「あ、はい」
シアの次は俺の番だ。俺は、ゆっくりと立ち上がる。
「頑張って、ラグ!」
小声でシアは応援をしてくれる。いや、これ頑張ってどうなるもんでもないと思うけど。
そんなことを考えながらスキルクリスタルに向かっていると、周りのざわざわは先ほどのシア以上に増していく。
「ついに神の申し子の番か。どんなスキル何だろうな」
「恐らく先ほど以上であるのは間違いあるまい。楽しみだ」
なんて、勝手な妄想を抱く大人たちが期待した眼差しで俺を見ていた。
正直プレッシャー以外の何物でもない。
「では、ラグナス・ツヴァイト。手をこちらへ」
そう促す学園長も何故か期待した声色で俺を促す。
表情もにこやかで、まるで俺が凄いスキルを得るに違いないと確信しているようだ。というか絶対そう思ってるやつだ。
とはいえ、俺も自分自身に期待していないわけじゃない。一応神の申し子と呼ばれているわけだし、最低でも赤色ぐらいには光ってくれるかなと密かに思ったりはしている。青とか緑とかだったらちょっとショックだな。
俺は、ふぅと一息吐きクリスタルに手を掲げた。
瞬間、クリスタルが発光を始める。
これは――青色? 一瞬がっかりしたけれど、その直後に、その中から緑色の光が溢れ始める。えっ、何? 緑なの? と思っていたら、次は赤色の光が溢れ始め、銀、金、果ては紫、桃色など数十の光が溢れてきた。
「な、なんだこれは!?」
見ていた学園長も動揺を隠しきれていない。
例えるならば、クリスタルの光は全ての光を含んだ虹色とでも形容しようか。
その膨大な数の光はまばゆいばかりの光を放ち、やがて収縮し、俺の手に吸収されていった。
教会の中がしんと静まり返る。皆何が起こったのか分かっていないようだった。
その静寂を破ったのは他ならない学園長。彼は他の生徒にも尋ねたように、俺にもそうしてきた。
「し、して、ラグナス・ツヴァイト。授かったスキルの名は」
「あ、はい」
俺はさっそく自分のステータスを確認する。
ちなみにステータスは頭の中でステータスと念じると、目の前に透明な板として現れてくれる便利な魔法だ。ちなみにこれは本人にしか見えない。
そこにはこう、書かれていた。
********************
ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:51
スキル:【レベルリセット】
********************
なんじゃこりゃ。聞いたことないけど。
「して、なんと書かれていたのだ?」
黙っている俺に学園長は催促をしてきたので、慌てて答える。
「えっと、『レベルリセット』らしいです」
そしてまた教会の中は静寂に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます