アポカリプス③

「おのれ、裏切ったか、パレット!」

「ふふん、モニターに夢中になってる隙に、爆弾の投下装置は壊しておいたわ!」

 神父は緋色のローブの下から、一丁のリボルバー式拳銃を取り出した。パレットも同時に、自身の拳銃『ベレッタ92』をレッグホルスターから取り出した。

「パレット。今ここでお前を殺すのは簡単だが、最後にチャンスをやろう」

 神父はそう言って、拳銃に一発の実弾を入れた。

「早撃ち対決だ。互いに背を向けたまま十カウントを数えながら歩く。そしてカウントが十になった時、振り向きざまに発砲する」

「……断るという選択肢は無いようね」

 神父の仲間である緋色のローブの人物が、パレットに銃口を向けていた。

「では我から先に、背を向こう」

 神父は何の躊躇もなく、パレットに背を向けた。そして、パレットも背を向けた。

「我がカウントを数えよう。一、ニ、三……」

(今、ここで振り向いて発砲すれば、確実に射殺できる……)

 この世界に来る以前のパレットなら、あるいはそうしていたかもしれない。

「四、五、六……」

(もう目的は果たした。悔いはないはずなのに……)

 パレットは悔しそうに唇を噛んだ。

「七、八、九……」

(どうしてみんな、助けにくるのよ……!)

 パレットは九のカウントで、大きく振り向いて銃口を構えた。そして……、

「十!」

 神父が振り向いて発砲した時には、パレットは発砲を終えていた。二つの銃声が、艦内に響き渡り、床に大量の血がこぼれ落ちた。

「……どうして黒城を艦尾に先に向かわせたのです、菜の花 乃呑」

「だって、敵の大将を倒すのだけはやたら得意でしょ? あいつ」

 黒城と青いひな鳥は、モニタールームとは逆の艦尾に向かっていた。

 青いひな鳥がリードしながら、奥へ奥へと進んでいく。

 ついにラスボスが姿を現した。艦尾には、紅緋色のローブを着た女性が待っていた。

「……あいつがこの教団のリーダーか。いくぞ、ヒナコ」

 しかし、青いひな鳥はその場を動こうとしなかった。

「黒城ッ。悪いけどアタシはッ、最初からこっち側なのよッ」

「ふふ。諜報活動ご苦労様、ピーちゃん」

「なん……だと……」

 青いひな鳥は、紅緋色のローブの内側から狂信者のカードを抜き取り、咥えていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

 

「無事か、パレット……!」

 ヴァルカンがモニタールームの扉を開けると、そこには血まみれな状態の左腕を抑えているパレットと、無傷の神父がいた。

「ごめん、捕まっちゃった……」

「パレットォォォッ!!」

「おっと、そこを動くと命はないぞ?」

 神父はヴァルカンに拳銃を向けた。他にも数名の緋色のローブの人物が拳銃を構えており、状況は最悪だった。

「弱くなったな、パレットよ。拳銃の腕が落ちたのではないか?」

「くっ……」

 パレットの拳銃の腕は、決して落ちてなどいなかった。だが、陽光町の人々と関わることで、人を撃てなくなってしまったのだ。

 神父はパレットの軍事用ポーチを開け、無色透明の宝箱を取り出した。

「この『秘宝』というものが原因か?」

「それに触れるな!」

 そう叫んだのは、銃口に囲われたヴァルカンだった。

「随分と必死だな。さしずめ、開けてはならない『パンドラの箱』と言ったところか?」

 神父は余裕の笑みを浮かべて、緋色のローブの中から、何かのプレートを取り出した。

(何あれ……動物の化石……?)

「貴様、何をするつもりだ!?」

「くくく……。『秘宝』という物は、こうやって使うのだ!!」

 神父は声高らかに叫ぶと、何かの化石を『秘宝』の中へ入れた。

 しかし数秒が経過しても、何の変化も起こらない。

(何をやっているの? 『秘宝』は動物を『昇華』させる道具のはず。化石なんて入れても何も起きるわけないのに)

 ところが、『秘宝』は急にカタカタと動き始めた。パレットは叫んだ。

「どうして!? 『秘宝』は時の加速装置じゃなかったの!?」

「違うな、『秘宝』は時を逆行させる力も込められているのだ!」

無色透明の宝箱は漆黒に変化し、死神の紋章が浮かび上がった。

そして『秘宝』の中から、二億五千年前に滅びた海洋生物、アノマロカリスが、死神のような姿となって蘇った。名前の由来はおそらく、旧聖約書の最終戦争、アポカリプス。

【Sランク秘宝獣―アポカロカリス―】

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