アポカリプス①

 パレットが教会の扉を勢いよく開けると、紅緋色のローブの女性と遭遇した。

「ありがとう。パレット、あなたのおかげで全ての封印は解かれたわ」

「スカーレット様、一つ聞いてもいいですか?」

 教会から出て行こうとする紅緋色のローブの女性を、パレットは引き留めた。

「『神』がいなくなったら……この世界はどうなるの?」

「さあ、どうなるのかしら?」

 紅緋色のローブの女性は、興味なさそうに答え、教会の外に出た。

「戻ったかパレットよ……」

 神父はいつもと変わらぬ様子で、教会の祈祷室にいた。

 パレットは神父に、思いがけない言葉を口にした。

「はい、お父さん……」

「どうやら全てを思い出したようだな、我が娘よ……」

 神父の正体は、パレットと共に連れてこられた、実の父親だった。

「いよいよだ……。我が妻を見捨てた『神』に、ようやく復讐する時が来たのだ!」

 神父とパレットが教会の外へ出ると、軍事用ヘリコプターが上空で待機していた。

 ヘリコプターからハシゴが下ろされ、神父とパレットはヘリコプターに乗り込んだ。

 パレットの眼に飛び込んできたのは、圧倒的な存在感を放つ、巨大な黒い空中母艦だった。四方八方には無数の砲台が備え付けられている。

(あたしの知らない間に、こんなものが……)

「まず手始めに、この町にクラスター爆弾を落とす。全てを炎で焼き尽くすのだ!」

 ヘリコプターは母艦のヘリポートに着地すると、ヘリコプターごと艦内に収容された。

 艦内にいた乗員は皆、緋色のローブを羽織っている。神父は彼らの前に立ち、両手を大げさに広げ、高らかに宣告した。

「皆の者、我々の悲願がついに実現する! 我々が新世界の『神』となるのだ!」

 沸き立つ歓声の中、パレットはたった一人、怪訝な表情を浮かべていた。

 そんな中、突如として艦内にレッドコールが鳴り響いた。

「どうした、なにごとだ!?」

「何者かが、この空中母艦に急接近している模様です!」

「なんだと!? パレットよ、モニタールームへ向かうぞ!」

 パレットと神父は艦内を駆け、艦首にあるモニタールームへとたどり着いた。

 モニターの映像には、シビレエイの秘宝獣に立ち乗りした、青髪の青年が映っていた。

(ヴァルカン!? どうしてここに……)

「ええい、早く撃ち落とさんか!」

「それが、どれだけ撃っても砲弾が防がれてしまい……」

「そんな馬鹿なことがあるか!」

 神父は怒鳴り声で指示を出したが、ヴァルカンは艦内へと乗り込み侵入した。

「謎の人物が艦内に侵入! モニターの映像を艦内に切り替えます!」

「艦内の警備はどうなっている!?」

「はっ、ただいま第一迎撃部隊が向かっております!」

 パレットは「まさか……」と何かに勘付き、軍事用ポーチに入っていた無色透明の宝箱の底を見ると、発信器のような物が取り付けられていた。

(ヴァルカン、あなたはこんなところまで、一体何しに来たの……?)

 パレットはモニターに映るヴァルカンを、じっと見つめていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 ヴァルカンが空中母艦に侵入する少し前。黒城と青いひな鳥は、ピエロとの約束通り、陽光神社にある社に来ていた。

「夜の神社ってッ、なんだか不気味ねッ……」

「……今度肝試し大会でもやるか」

「あらッ、『非干渉主義』じゃなかったのッ?」

「……一人で」

「一人かいッ」

 青いひな鳥はツッコミを入れた。黒城は社を開くと、身を屈んでその中へと入った。

「何も起きないじゃないッ」

 ガコンという嫌な音が鳴って、社の底がいきなり外れた。

「うあぁぁぁぁっ」

「黒城ッ!?」

 黒城は、滑り台のような装置で下へと一気に運ばれた。青いひな鳥も急いで後を追う。

「……ここはどこだ」

 社の底は、最新鋭の機械が揃えられた真っ暗な部屋に繋がっていた。

「ようこそ♪ 『秘密基地エリア』へ♪」

「出てわねッ、ジェスタークラウンッ!」

 青いひな鳥が警戒すると、ピエロの後ろで横たわっている人物を目撃した。

「イヴちゃんが倒れてるわッ!? やっぱり罠だったのねッ……!?」

「きゃぁぁぁぁっ……!?」

 またも滑り台の装置から、叫び声が聞こえて来た。

「痛たたっ……ここどこ?」

「……菜の花? どうやってここに……」

 ポニーテールの少女は、埃を被ったジャージを払って立ち上がった。

「ハーブの『エコーロケーション』で位置を探って、あんたの後をつけてきたの」

 乃呑は金色の宝箱を開けた。中から現れたのは、長い鼻先の『バンドウイルカ』だ。

「クゥー、クゥー」

 【Aランク秘宝獣―宇宙イルカ―】

 エコーロケーションとは、音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを知ることである。この秘宝獣は宇宙と交信して、人の現在地を知れるようだ。

「ふぁ……騒がしいのですよ、菜の花 乃呑」

 ジト眼の少女は眼を擦りながら起き上がった。

「あらッ? アンタ、ピエロにやられたんじゃッ……?」

「……ヒナコ、また早とちりだったな」

「予想外の客人も来たみたいだけど、戦力は一人でも多いほうがいいからね♪」

 ピエロはクルクルとその場で回りながら、リモコンのスイッチを押した

 すると、ピエロ顔の小型ジェット機が基地の中央に運ばれ、天井がドーム状に開いた。

「さぁ、みんな乗り込んで♪」

「ダサいのです……」

「絶対乗りたくない」

「……同意だ」

 どうでもいいところで、初めて全員の意見が一致した。

「まぁまぁ♪ そんなこと言わずに♪」

 半ば強引にジェット機に乗せられ、空に向かって飛び立った。

(頼んだよ、陽光町の人たち。キミたちが最後の希望なんだ……)

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