第三の封印③

「邪魔者は排除しました。次はあなたの番ですよ、黒城 弾」

「グルアァァァァッ」

 黒豹の秘宝獣は、猛スピードで次なる獲物、青いひな鳥を追い回す。

「ギャアこっち来たぁッ!?」

「……ヒナコ、《火炎弾》だ」

「なぜにッ!? ええいヤケよッ!」

 黒豹の秘宝獣は、炎の弾丸を正面から受けたが、漆黒のオーラが攻撃を打ち消した。

「全然効いてないじゃないッ!」

「……《ダーク・ダイブ・モード》に入っているからな」

「無駄なのです。最大限硬化した今のダムドレオを倒せるのは、フェンネルの『バーストモード』くらいなのですよ」

 フェンネルの《バーストモード》には、全ての防御を貫通するという効果があった。

「どうすんのよ黒城ッ、ダムドレオを倒す方法はないのッ!?」

「……ダメージを与える方法はない。だが、攻撃を凌ぐ方法はある」

「どうすればいいのよッ!?」

「……ヒナコ、ダムドレオを回復させろ」

「どういうことよッ!? 《緑炎弾》!」

 青いひな鳥は、緑色の癒しの炎を吐き出した。黒豹の秘宝獣の傷が癒えていき、瞳の中の月が満月から半月へと変わった。青いひな鳥は、すれすれのところで攻撃を回避した。

「なるほどッ、体力が回復すればッ、上昇していた分のスピードも落ちるわけねッ!」

「それで勝ったつもりですか、黒城 弾」

 イヴはムッとした表情で、黒城を睨みつけた。

「ダムドレオの体力を回復させようと、《ダーク・ダイブ・モード》は破れないのです」

 《ダーク・ダイブ・モード》の効力により、黒豹の秘宝獣の体力が奪われる。

 それにより再び、瞳の中の半月が満月へと変わる。

「また硬くなっちゃったわッ!? どうすんのよ黒城ッ!?」

「……この状態のダムドレオに、ダメージを与える手段はない」

「諦めたようなのですね。ダムドレオ、トドメです」

「グルアァァァッ!」

「ピイィィィィッ!」

 黒豹の秘宝獣は、猛スピードで青いひな鳥に飛び掛かる。牙が届く寸前、黒豹の秘宝獣の体がグラッと揺らめいたかと思うと、黒豹の秘宝獣はバタリと倒れた。

「ダムドレオ!? いったい何故……」

 イヴは黒豹の秘宝獣の元へと駆け寄った。

「……生徒会長が《ダーク・ダイブ・モード》を使ってくることは読めていた」

 黒城は銀色の宝箱を開けた。宝箱の中から、鎖のような柄の蛇の秘宝獣が、黒城の腕に巻き付いた。

【Bランク秘宝獣ージャラジャラヘビー】

 蛇といえば、毒を連想するだろう。実際、99%の種類は毒を持っている。が、毒の強さは種類によって大きく異なる。中でもガラガラヘビの毒は、神経毒ではなく血液毒と呼ばれ、血液の中の赤血球を破壊しつくしてしまう。

「毒蛇の『秘宝獣』……。ですがいつから……」

「一瞬だけ、ダムドレオを毒状態にする機会があった。……スパーキング・オブ・ビーストに捕まったヒナコを、『秘宝』に回収した時だ……」

 あの時、青いひな鳥は戦線を離脱し、獅子の秘宝獣と黒豹の秘宝獣の戦闘が始まった。黒城は青いひな鳥を回収する際、鎖に擬態したヘビを使用していたのだ。

「まさかダムドレオを回復させたのも……」

「……ああ。毒による体力の消耗を、カモフラージュする為だ」

「黒城 弾……。あなたは必ず、このワタシが……」

 ジト眼の少女は何かを言いかけたまま、バタリとその場に倒れた。

「生徒会長、大丈夫かしらッ?」

「……『秘宝獣』の解放(リベレイト)は、『秘宝遣い』の負担も大きいからな」

 ジト眼の少女は黒豹の秘宝獣を抱きながら、すぅすぅと寝息を立てていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「アタシたちの勝ちよッ! アンタの知ってること、全部話しなさいッ!」

 ジェスタークラウンは逃げられないように、紐で吊るし上げられていた。

「……わかったよ♪ 全てを話そう……」

 ジェスタークラウンは天井を仰ぎながら、回想を始めた。

 それは雨の日の夜の事だった。いきなり会社をクビにされ、妻子も家を去ってしまい、ボクは人生の路頭を彷徨っていた。生きる意味すら失ったボクのもとに現れたのは、七代目サーカス団長、つまりはボクの恩人にあたる……

「神について教えなさいよッ」

 青いひな鳥は、ジェスタークラウンの回想に割って入った。

「じゃあボクちんがピエロになった経緯は割愛するよ♪」

 ジェスタークラウンは一呼吸おいて、今度は声のトーンを低くして語り始めた。

「この地下空間は、神が創り上げた場所さ。そしてこの世界を守る役割を果たしていた。各フロアの台座には封印が施されていて、封印が解かれるたびに、神様に危険を仕掛けが為されていた。だからできれば、戦いたくなかったんだよね♪」

「……ヒナコ、お前の早とちりだったな」

「黒城だってッ、最後の戦いとか盛り上がってたじゃないッ!」

「喧嘩は良くないよ♪」

 「(原因を作った)お前が言うな!」と同時に言われ、ピエロは再び話を続けた。

「神様に復讐を目論む、悪魔『リリス』。神様は『リリス』の魔の手から逃れるために、今も何処かに身を隠している。そこで『リリス』は、ここにスパイを送り込んできた。『パレット』という名の、能ある人狼をね……」

「それは違うわッ!」

「ヒナコ……?」

 青いひな鳥は、それを強く否定した。

「あの子はとても優しい子よッ! そんなんじゃないッ!」

「そうだね。『パレット』は最初、一切良いことをしていなかった。だけど、キミたちと接していくことで、少しずつ変わっていったんだ」

 思い返せば、パレットは第一の封印が終わるまで、一度も良いことをしていなかった。

「全ての封印が解かれてしまった以上、『リリス』が動くのも時間の問題だろうね」

「その『リリス』という人物の目的は、何なのですか?」

 目を覚ましたイヴは、眠気眼をこすりながらピエロに聞いた。

「それはわからない。神様はただ、『リリス』に命を狙われていると言っていた」

「神がどうなろうと、ワタシの知ったことではないのです」

 イヴは長い黒髪をなびかせながら背を向けた。

「『リリス』は神様は炙り出すため、陽光町を焼き払おうとしている」

 ジト眼の少女は振り向いて、ピエロの言葉に耳を貸した。

「その話、本当なのですか?」

「『リリス』はおそらく、神様を殺すためなら手段を選ばないんだろうね」

「では、その『リリス』という人物を倒せばいいのですね」

「確かにキミは強い。この町にいる誰よりも。けど、『リリス』の強さは次元が違う」

 イヴは反抗的な眼差しでピエロを睨みつけた。だが、ピエロの方も本気で言っていることを察すると、イヴは背を向けた。

「今日の夜、陽光神社にある社の中に来てほしい。陽光公園の隠しエリア、『秘密基地エリア』がそこにある」

 イヴは聞こえていたが、何も言わずに去ってしまった。

「困ったちゃんねッ」

「……生徒会長」

 ピエロは、エレベーターに乗った青いひな鳥と、黒髪の少年に言った。

「じゃあね、また『秘密基地エリア』で落ち合おう♪」

 全ての封印は解かれてしまった。終わりの刻は近い……。

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