第三の封印②
正解の見えない口論の最中、誰かが入口の扉を開いた。
「何を苦戦しているのですか、黒城 弾」
「……生徒会長」
黒い長髪をなびかせ、学ランに袖を通さずに羽織ったジト眼の少女だ。
「それと誰なのですか、その奇抜な格好をしたピエロは……」
「チミのことは神様からは聞いているよ♪ 白樺(しらかば) イヴちゃん♪」
ジェスタークラウンはイヴのことを知っているようだが、イヴは無視して続けた。
「黒城 弾、無駄口を叩いている余裕があるなら、さっさとそいつを倒すのです」
「……ああ、そのつもりだ。行け、ブラック・チリ・クワガタ」
「ハイエレファント♪ 《ウォーターシャワー》♪」
象の秘宝獣の鼻から放たれた水流が、クワガタの秘宝獣の進行を妨げる。
「これで、チミの攻撃は、ハイエレファントには届かないよ♪」
「……普通のクワガタならそうだろうな。だが、ブラック・チリ・クワガタは……」
水を切り裂いて進むクワガタの秘宝獣は、二つ目の顎で象の鼻を挟んだ。
「……二回攻撃できる。《デュアルスラッシュ》!」
『過剰適応』と呼ばれた顎は、『秘宝獣』として『昇華』されたことで、第二の武器として使えるようになっていた。象の秘宝獣は白い球体となり、金色の宝箱の中へ戻った。
「ハイエレファント!? ……こうなった以上、ボクちんも手加減なしで行くよ♪」
ジェスタークラウンは、隠し持っていた、稲妻マークが刻まれた宝箱を開けた。
雄たけびと共に、宝箱の中から一頭の猛獣が飛び出した。ネコ科で最大級の大きさに、立派なたてがみ、頭に王冠(クラウン)を冠った動物は、百獣の王、ライオンに似ている。モデルはおそらく、中国神話の幻獣、獅子だろう。
【Sランク秘宝獣―スパークキング・オブ・ビースト―】
「これこそボクちんが神から与えられた、最強の『秘宝獣』♪」
「……Sランク『秘宝獣』」
獅子の秘宝獣は、自身の『秘宝』の中から黒い雷雲を呼び寄せた。黒い雷がクワガタの秘宝獣に降り注ぎ、一瞬にして戦闘不能にした。
「……俺のブラック・チリ・クワガタが、一撃で……」
「これがスパークキング・オブ・ビーストのCIP効果♪ 《招黒雷》♪」
Sランクが登場した時に獲得するCIP効果は、一手で戦況を大きく変えるものばかりだ。
「さぁどうする♪ 残りはBランクとCランク♪ 後がないよ♪」
余裕の態度を見せるジェスタークラウンを見て、イヴが動いた。
「深く暗い絶望の淵、差し込んだのは一筋の光。開宝、ダムドレオ」
イヴは、学ランのポケットから迷彩柄の『秘宝』を取り出し、開けた。
「グルァァァァッ!」
『秘宝』の中から、左眼に傷のある黒豹の秘宝獣が飛び出し、獅子の秘宝獣を襲った。
【Sランク秘宝獣―ダムドレオ―】
「無駄だよ♪ 生物学上、豹が獅子に敵うはずがない♪」
「動物と『秘宝獣』は違うのですよ」
Dark Moon Dominion Leopard。通称ダムドレオ。陽光とは真逆のネーミングである。「ダムドレオのCIP効果、《強襲(アサルト)》!」
イヴが技名を宣言すると、劣勢だった黒豹の秘宝獣が、獅子の秘宝獣を覆した。
「スパークキング・オブ・ビーストが力負けするなんて……」
「ダムドレオの《強襲(アサルト)》は、パワーとスピードを一時的に跳ね上げるのです」
「回復完了ッ、いつでも行けるわよッ」
「……ああ、もう一度頼むぞ、ヒナコ」
闘いの隙を見計らって、黒城は虹色の宝箱を開けた。
「グルアァァァッ!」
すると黒豹の秘宝獣は、今度は青いひな鳥を襲い始めた。飛んで逃げる青いひな鳥に対し、設置されていたトランポリンを利用して叩き落としにかかる。
「ピィッ!? 何でアタシを攻撃すんのよッ!」
「黒城 弾、ワタシは味方になったとは一言も言ってないのですよ」
黒豹の秘宝獣の攻撃を躱していた青いひな鳥は、背後から襲ってきた、獅子の秘宝獣に地面に押さえつけられてしまった。
「そっちに気を取られて油断したね♪」
「キャァァァァ、助けてッ」
青いひな鳥はパタパタと暴れるが抜け出せない。そこに黒豹の秘宝獣が襲い掛かった。
獅子の秘宝獣と対峙した黒豹の秘宝獣は、全身に漆黒のオーラを纏っていた。
「オーラを纏っている!? その姿はまさか♪」
「ダムドレオ、《D・D・M(ダーク・ダイブ・モード)》なのです」
その隙に黒城は鎖を使い、青いひな鳥を近くに回収した。
「……ヒナコ、大丈夫か?」
「なんとかねッ……」
「……ダーク・ダイブ・モードは、全ての能力を上昇させる代わりに体力が減り続ける、諸刃の剣だ。……しばらくやり過ごそう」
獅子の秘宝獣が、黒豹の秘宝獣めがけて飛び掛かった。
「スパークキング・オブ・ビースト、《レイジング・ファング》♪」
「ダムドレオ、こちらも《レイジング・ファング》なのです」
「ガオォォォォッ」
「グルアァァァァァァッ」
獅子の秘宝獣が噛みついても、黒豹の秘宝獣が噛みつき返す。両者共食い下がらない。
「体力が減り続けるデメリットがあるんだって♪ ダムドレオが先に倒れるのは明白♪」
そんなジェスタークラウンの余裕を、イヴは嘲笑った。
「ダムドレオにはまだ、第三の能力があるのです」
黒豹の秘宝獣の、閉じていた左眼が開いた。瞳の中には、真っ白な月が浮かび上がっていた。月の形状は、ダムドレオの傷が増える度に変化し、新月から半月、半月から満月へと満ちるように変化していく。
「ダムドレオの体力が減れば減るほど、威力を増していく、第三の能力……」
「ガオオオッッ」
「それが《ゲッコウ》……」
漢字にすると月光、いや、激昂だろうか。あるいはその両方だろう。
獅子の秘宝獣は、黒豹の秘宝獣の強化された力の前に倒れ伏せた。
「そんな……ボクちんのSランク『秘宝獣』が……」
獅子の秘宝獣は白い球体となって、自身の『秘宝』へと戻っていった。
これが陽光町の二枚看板の一人。レイティング一位の実力者。
モデルはおそらく、ヨハネの黙示録の黒き獣。
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