第三の封印①
その頃、黒城と青いひな鳥は、陽光中学校の地下三階、最深部の扉の前にいた。
「黒城ッ、とうとうここまで着いたわねッ……」
「……ああ。いくぞヒナコ、これが最後の戦いだ……」
「アタシたちの戦いは、これからよッ!」
黒城と青いひな鳥は、打ち切り漫画のような掛け合いをしながら、巨大な扉を開けた。
「……ってなにこれッ!? 部屋中真っ暗じゃないッ!?」
「……慎重に進もう」
明かり一つない真っ暗な大広間を黒城が歩いていると、突如スポットライトが、部屋の真ん中にある台座を照らし出した。
部屋の奥から足音が聞こえてきた。足音の人物はスポットライトの中心に立った。
部屋全体が明るくなり、天井には空中ブランコ、床にはサーカスに使われる道具が部屋中に散らばっていた。
「やっぱりアンタが黒幕だったのねッ……!」
「そう、ボクちんジェスタークラウン♪」
地下迷宮の最後に待ち構えていたのは、陽光公園の湖で会ったあのピエロでだった。
「アタシは最初からッ、アンタが一番怪しいと思っていたのよッ!」
「ボクちんが怪しい?」
「だって変じゃないッ、『金のハッピーチケット』で子供たちを遊園地に呼び込んでッ、一体何が目的なのよッ!?」
青いひな鳥が責める口調で言うと、ピエロは困り顔で人差し指をツンツンと合わせた。「ボクちんはただ、良い子には楽しんでもらおうと……」
「問答無用よッ! いくわよ黒城ッ!」
「……ああ」
黒城と青いひな鳥が臨戦態勢に入ると、ピエロは仕方なさ気に『秘宝』を開けた。
「チミ達はいい子だと思っていたのになぁ。開宝、ハイエレファント!」
「パオオオオォォン」
金色の宝箱の中から、大きな耳に長い鼻を持つ、ローマ法皇のような白くて小さな帽子を頭に乗せた、象の秘宝獣が飛び出した。
【Aランク秘宝獣―ハイエレファント―】
「あらッ、可愛らしいゾウさんねッ」
「……気を付けろヒナコ。お前の苦手な水属性の『秘宝獣』だ」
「『秘宝獣』に詳しいみたいだね♪ ハイエレファント、『ポイポイ』♪」
象の秘宝獣は、床に落ちていたポイと呼ばれるジャグリングに使われる道具を、鼻先で器用に持ち上げ、青いひな鳥に向かって放り投げた。
「痛ッ! 地味に痛いッ!」
「……正確なコントロールだな」
象の鼻先には指状突起があり、人間の指のように精密な動きが可能なのである。
「ほらほら♪ ジャンジャンいくよ♪」
ピエロは象の秘宝獣に次々と道具を渡していく。青いひな鳥は避けるので精一杯だ。
「部屋に落ちているものは全部、ハイエレファントの武器になるよ♪」
「そんなのインチキよッ!?」
青いひな鳥に向かって、象の秘宝獣が投げたポイが飛んできた。
だがそのポイは、空中で叩き落とされた。黒城が鎖を使い、叩き落としたのだ。
「……そっちが道具を使うなら、俺も道具を使わせてもらう」
「ナイスガードよッ! 黒城ッ!」
「なかなかやるね♪ 鎖をそんな風に使うなんて♪」
「……今だヒナコ、ハイエレファントに《火炎弾》だ」
「任せなさいッ!」
青いひな鳥は口から炎の弾丸を放った。
「無駄だよ♪ ハイエレファント♪ 《ウォーターシャワー》♪」
「パオオオッン」
ズケットを乗せた象の鼻から、大量の水が放出された。
炎の弾丸は水の勢いによってかき消され、水流が青いひな鳥に直撃した。
「《ウオーターシャワー》がある限り、炎属性の技は通じないよ♪」
「象の鼻から出た水を浴びるなんてッ、気分最悪ッ……」
「……ヒナコ、一度『秘宝』に戻ってくれ」
「そうさせて貰うわッ……」
青いひな鳥は、虹色の宝箱の中へと戻り、羽を休めることにした。
「さてさて次はどんな『秘宝獣』を見せてくれるのかな♪」
黒城はズボンのポケットから、金色の宝箱を取り出した。
「……闇を切り裂くは漆黒の弾丸。開宝、ブラック・チリ・クワガタ」
金色の宝箱から黒い虫が現れた。小さな顎と細長い大顎、二つの鋏を持つクワガタだ。
【Aランク秘宝獣―ブラック・チリ・クワガタ―】
「……こいつが俺の、エース『秘宝獣』だ」
「まさかダーウィンの名を持つ『秘宝獣』を使うとはね……」
チリクワガタは別名、ダーウィンビートルと呼ばれている。
『進化論』の提唱者として有名なチャールズ・ロバート・ダーウィンが、このクワガタに指を挟ませたが、痛みすら感じないほど弱かったというエピソードに由来する。
『過剰適応』という、進化が行き過ぎた結果意味をなさなくなってしまう現象ゆえだ。
「……動物が『昇華』して『秘宝獣』になる。これはダーウィンの進化論によるものだ」
「その説は間違っているよ♪ なぜなら『秘宝獣』は、神が創造した生物なんだから♪」
すべての生き物は長い年月を経て変化したとする『進化論』。すべての生き物は神が創造したという『創世論』。このふたつは、決して相容れないものである。
「……生き物は何十億年という長い時間の中で進化してきた。神なんて存在しない」
「それでもボクちんは神の存在を信じるよ♪ なぜならボクちんは神に会っているから♪」
ジェスタークラウンは、ニンマリと笑った。
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