人狼ゲーム③

「んっ? なんだこいつら……」

 神社近くの山道、パレットたちが倒れているところに、真っ黒の袈裟に金色の装飾品を身につけ下駄を履いた、坊主頭に筋骨隆々な男性が通りかかった。金剛 宇利亜だ。

「おっ、よく見たらラヴィエルじゃねぇか! 懐かしいなぁおい!」

 ラヴィエルの背中をバシバシ叩いたが、何の返事もなかった。

「ウハハハ、パレットもヴァルカンも、みんなして仲良くお寝んねかぁ?」

 屈強ハゲは豪快に笑い飛ばしていたが、事態の重大さに気づくと真剣な顔になった。

「ってわけじゃあなさそうだな……」

 屈強ハゲは、大きく息を吸い込み、右肩にヴァルカンを、左肩にラヴィエルを、そして背中にパレットを担ぎ込んだ。

「よっと。ウホッ、想像以上に重いな。こりゃ良い筋トレになりそうだ」

 屈強ハゲは一人で三人を担ぎながら、神社の石段を一段づつ降りていった。全ての階段を降りきると、複数の黒塗りの車が、屈強ハゲを囲むようにライトで照らした。その中の一台の車から、腰のあたりまである黒い長髪をした、ジト眼の少女が降りてきた。

「こんな夜更けに、何をしているのです? 問題児の金剛(こんごう) 宇利亜(うりあ)」

「てめぇこそ、そのフルネーム呼び、辞めたほうがいいんじゃねぇのか? 感じ悪ぃぞ」

「今はワタシが問いているのですよ、金剛 宇利亜」

「聞く耳持たず、か……。 見りゃ分かんだろ、コイツらを病院まで運ぶところだ」

「歩いて運ぶつもりとは……馬鹿なのですか?」

 ジト目の少女の、袖を通さずに羽織った学ランが風になびいた。

「我が校に不法侵入した彼らは、こちらで処分するのです。引き渡しを」

「断ると言ったら……?」

「力尽くでも渡していただくのです」

 ジト目の少女は、学ランのポケットから、迷彩柄の宝箱を取り出し突き出した。

 大柄の宇利亜と小柄なジト目の少女は、眼から火花を飛ばしていた。

「あー、やめだやめだ。今はてめぇとやりあってる場合じゃねぇ」

 宇利亜は担いでいた三人をその場に降ろすと、両手を挙げて降伏した。

「この一件が終わるまで、あなたの『秘宝獣』はワタシが預かるのです」

「勝手にしやがれ、独裁者。だがな、もしコイツらの身に何かあったら許さねぇぞ」

「独裁者、ですか。そう呼ばれるのは慣れているのです。では……」

 ジト眼の少女は、パレット達を車に乗せて、病院へと走り去っていった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

教会の地下の祈祷室。紅緋色のローブの女性は、今日もテーブルにカードを並べていた。そこに、緋色のローブを着た神父が訪れ、向かい合わせに座った。

「スカーレット様、人狼ゲームの展開はどうなっておりますかな?」

「……タフガイが吊るされ、逃亡者が噛まれた。これで残りはあと十人ね」

「確か、市民サイドと人狼サイドの人数が同じになることが、我々人狼サイドの勝利条件だと言っておられましたな」

残されたカードは、人狼、能ある人狼、市民、占い師、霊媒師、狩人、狂信者、独裁者、ささやく狂人、女王の十枚だ。

「それにしても、今日もパレットの姿が見当たらんが、本当に無事なのですかな」

「パレットなら、今は病院にいるわ。動ける状態じゃないみたいだけど」

「おおっ、さすがはスカーレット様。まさに全知全能でおられる」

「言ったはずよ、私は全知全能でもなければ、神でもない。優秀なスパイがいるって」

神父はそれを聞くと、テーブルから1枚のカードを手に取った。

「そのスパイと言うのは、このカードの事ですかな?」

神父が選んだのは、ささやく狂人のカードだ。

「いいえ、それはあなたのカードよ」

そう言って紅緋色のローブの女性は、狂信者のカードを手に取った。

「もうひとりだけいるのよ。この教会にはこないけど、私たち人狼サイドの味方がね」

 市民サイドは残り六人。そして、人狼サイドは残り四人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る