第一の封印④

「幸と不幸の半道に、差し込んだのは暖かな光! 開宝、フェンネル!」

 突如、鋼鉄の巨像の足にレーザーが浴びせられ、鋼鉄の巨像は後方に大きく転倒した。

 パレットは腰が抜けたのか、その場にへたり込んでいた。

「ギリギリセーフ! 間に合ってよかった」

 パレットがそのままの姿勢で振り向くと、黄色のジャージを着て、フェンリルの秘宝獣を従えた、茶髪のポニーテールの少女が、パレットに手を差し伸べていた。

「大丈夫? 立てる?」

「ええ……」

 パレットはポニーテールの少女の手を掴み、立ち上がった。

「あらッ、乃呑ちゃんじゃないッ!」

「菜の花……どうしてここに?」

「先に言っておくけど、黒城のために来た訳じゃないから。この人を追いかけて来たの」

「あたしを……? あっ!」

 パレットはポニーテールの少女の顔を見て思い出した。

「あなた、『ふれあいエリア』で戦っていた『秘宝遣い』?」

「あれ、見てたんだ。私、菜の花 乃呑(のの)。私が来た理由はそれじゃなくて……」

 乃呑は、Vサインを指で作りながら言った。

「愛歌の弟の友達なんでしょ? みんな心配してたよ!」

「愛歌……?」

 パレットはその名前をどこかで聞いていたが、思い出せなかった。

「でも変ね。誰かに後をつけられていたら、あたしなら気づけたはず……うわっ!?」

「ニャァァオ♪」

 パレットの足元には、黒色のスコティッシュホールドが気配もなく擦り寄っていた。

「……そうか、ハイドキャットの《忍び足》だな」

「そういうこと!」

「《忍び足》……? どういうことよ?」

 首を傾げるパレットに、乃呑は黒猫の秘宝獣を抱き上げながら説明した。

「私のミント……ハイドキャットの技だよ。音を立てずに、気配すら消して忍び寄ることができる、追跡や奇襲に向いている技だね」

【Cランク秘宝獣―ハイドキャット―】

 猫が足音を消して歩けるのは、爪を自在に出し入れできるおかげである。さらに、獲物に忍び寄れるよう、つま先立ちで歩いているのも、足音がしない理由である。

(なるほど、『秘宝獣』の技は戦闘以外にも応用できるのね……)

 パレットはあらためて、『秘宝獣』の能力の高さを実感した。

「それで、あの変なからくりマシーン、何?」

 話している間に、鋼鉄の巨像はゆっくりと起き上がり始めていた。

「まぁ、なんだっていいんだけどさー」

「レア・メタル・ゴーレムがまた立ち上がって……危ないわよ!」

「大丈夫、大丈夫」

 パレットの心配をよそに、乃呑は靴紐を結びなおし、鋼鉄の巨像に近づいて行く。

「行くよ、フェンネル!」

 シューズをローラーシューズに変えた乃呑は、フェンリルの秘宝獣と共に走り出した。

「フェンネル、《トライアングル・F(フォーメーション)》!」

「アオォォン!」

 フェンリルの秘宝獣の咆哮に連動して、上空を漂っていたビットは三角形に散らばり、援護射撃によって鋼鉄の巨像の動きを止めた。その間にフェンリルの秘宝獣が接近した。

「フェンネル、《レイジング・ファング》!」

 フェンリルの秘宝獣は、猛スピードで鋼鉄の巨像に噛みつきに行った。

「すごい、あの巨体を弾き飛ばした」

「……ああ、さすがフェンネルだな」

 乃呑は、白銀色の宝箱を胸元にかざした。すると宝箱の中から光があふれだし、乃呑はそのエネルギーをフェンリルの秘宝獣に放出した。

「その極光で全てを貫け! 解放(リベレイト)! フェンネル、BM(バーストモード)!」

 『秘宝』に集約されたエネルギーを受け取ったフェンリルの秘宝獣は、その身に白銀色のオーラ宿した。

「……乃呑はSランクの『秘宝』の真の能力を解放できる」

「人と『秘宝獣』が、本当に信頼しあってる証ねッ」

 宙を浮遊する三つのビットは、合体して一つのレーザー砲となった。レーザーの中に、光のエネルギーが集約されていく。

「こっちだよ、デカイの!」

 乃呑は、ローラーシューズで走り出し、鋼鉄の巨人の注意を自分に集めた。

 蛇行しながら、鋼鉄の巨像の攻撃を正確に躱していく。

(凄い……たぶん、チャージが必要な弱点を『秘宝遣い』が補っているんだ……)

 パレットの眼は、その戦方に釘付けになっていた。

「決めるよ、フェンネル! 《フル・ビット・バースト》!」

 だが、鋼鉄の巨像も危険を察知したのか、既に防御の態勢に入っていた。

「待って! このままだと防がれるわ!」

 パレットは大声で叫んだが、乃呑はそれでも強気だった。

「大丈夫だよ。だってフェンネルの《バーストモード》は……」

 極大のレーザー光線が、前方へと放たれた。

「全ての防御を貫通する!!」

 鋼鉄の巨人は白い光に飲み込まれ、跡形もなく消滅した。

「フェンネル、お疲れさま!」

「グルォォォン」

「可愛いやつめ、よしよし」

 戦い終えた乃呑は、嬉しそうにフェンリルの秘宝獣と戯れていた。

(この世界の人たちが『秘宝遣い』に憧れていた理由、今ならわかる気がする……)

「助けてくれてありがとう。あたしはパレットよ、よろしく」

 この時パレットは、初めて「ありがとう」を口にした。乃呑もそれに笑顔で返した。

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