第一の封印⑤

「それにしても、ここまで来て何の収穫も無しなんて……」

 パレットはガックリと肩を落として、身を翻した。

「待ってッ、部屋の奥にもう一つ扉があるわッ」

 青いひな鳥は、虹色の宝箱から飛び出し、パタパタと飛びながら言った。

「ヒナコ、もう回復したのか……?」

「数分も休めば余裕よッ」

(そういえば、ピーちゃんは何の動物の『秘宝獣』なのかしら?)

 青いひな鳥が言っていた、部屋の奥の扉。パレットはその先に、何かを感じていた。

(でも、地面が崩落していて向こう側へ渡る手段が……。いや、何か方法があるはずよ)

 パレットは軍事用ポーチから、もう一度ワイヤーを取り出した。

「ピーちゃん、一つお願いしてもいいかしら?」

「どうしたのッ?」

「ピーちゃんのクチバシでワイヤーを咥えて、壁スレスレを飛行することってできる?」

「それくらいなら出来なくないけどッ、どうするつもりッ?」

「あたしが壁を蹴りながら走るわ。そうすれば対岸に辿りつけるでしょ?」

 常人では到底できそうにないが、軍で鍛えられたパレットは、足腰には自信があった。

「……わかったわッ、絶対に振り落とされないでねッ」

 青いひな鳥はワイヤーを咥え、上空に飛行した。

 パレットは手の甲にワイヤーを巻いて、拳でぎゅっと握った。

「こっちは準備OKよ!」

「じゃあいくわよッ! せーのッ」

「とぉりゃぁぁぁぁ!」

 パレットは側壁を蹴りながら数十メートルも走った。少しでも足を止めれば、即座に奈落の底へと真っ逆さまである。

「ぜぇ……ぜぇ……何とかたどり着けた……」

 パレットは対岸にある扉の前でグッタリと横たわっていた。

(二人には悪いけど、これであたしの一人勝ちよ!)

「よっ……と。ありがと、バジル!」

「ホーホー」

 白いフクロウの足に掴まり、乃呑は容易く対岸に辿りついた。

(えっ……?)

「黒城ッ、アンタも行くわよッ」

「……はいよ……っと」

 青いひな鳥の足に掴まり、黒城も難なく対岸へ渡った。

「ちょっとピーちゃん、運べるなら先に言いなさいよ!」

「あらッ、面白そうだったからついねッ」

 パレットは、再三に渡って思い知らされた。郷に入っては郷に従え、ということを。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「扉、開けるわよ?」

「……ああ」

 パレットは扉を開けた。扉の先は、天井から床まで黄金一色の空間が広がっていた。

その部屋の中央には台座があり、無色透明の手のひらサイズの宝箱が置かれていた。

「またトラップかしらッ」

「……どうだろうな」

黒城と青いひな鳥が躊躇している間に、パレットは台座に置かれていた『秘宝』を自身の軍事用ポーチの中に入れた。

「ふふん、この戦利品はあたしがいただくわ!」

「私は『秘宝獣』揃ってるから別に文句ないけど、黒城たちは?」

「……俺が欲しいのはBランクの『秘宝』だな」

「じゃあ決まりだね」

話し合った結果、無色透明の宝箱はパレットが手にすることとなった。

 黒城はポチっと、壁にあったボタンを押した。

「ちょっと黒城、それ何のボタン!?」

「……エレベーターだが」

「エレベーター?」

 チーンという音と共に、黄金の部屋の壁が開いた。本当にエレベーターのようだ。

「苦労して辿りついたわりには、帰りはあっさりしてるのね……」

「パレットさん、ちょっとタイム!」

 パレットが地上行きのボタンを押そうとした時、乃呑は待ったをかけた。

「どうしたの?」

「さっき、私がここに来た理由話したよね?」

「子どもたちが心配してたから、あたしを連れ戻しに来たんでしょ?」

「それもだけど、もっと大事なこと。個人的な話になるけど……」

 乃呑は、口どもりながらも、真剣な目をしていった。

「真面目な話みたいね」

「うん。パレットさんが家を飛び出していった時、チラッと顔が見えたんだ。その眼が、昔の私と同じ眼をしていた。誰も信じない、信じられるのは自分だけ。そんな眼……」

 乃呑は、エレベーターという密室の中、自分の過去について語り始めた。

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