第一の封印③

「……また干渉しちまったな」

「ナイス黒城ッ、下っ端返上よッ」

「……そいつはどうも」

 パレットはハッと目を覚ました。

 周りの地面は潰れていたが、どういうわけかパレットの身体だけは無事だった。

「どういうこと? あたしは鋼鉄の巨像に潰されて……」

「……ヒナコのCIP効果、《神鳥の守護》を発動させた。場に出ている間、好きなタイミングで一度だけ、攻撃を無効化するバリアを張ることができる技だ」

「一度だけだからッ、次はちゃんと避けなさいよねッ」

 パレットの瞳にハイライトが戻った。そしてこの時、パレットは初めて実感した。

 この世界には、この世界の戦い方があるということを。

「そう、礼を言うわ。それにしてもあれ、どうやって倒すの?」

 パレットは目の前にそびえる、鋼鉄の巨像を見上げながら言った。

「そりゃもうッ、アタシの《火炎弾》で瞬殺よッ!」

「……ヒナコ、それはない」

「なによッ、やってみなきゃ分からないじゃないッ」

「……あの爆発で無傷なんだ。あれは軽く『火炎弾』の威力を超えていた……」

「あららッ……」

「……あの金属はおそらく、耐熱性のレアメタルだ」

「レアメタルで覆われた巨像ってことッ?」

「……ああ。あえて名前を付けるとすれば……」

【第一の封印の番人―R・M・G(レア・メタル・ゴーレム)―】

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

(何かあたしにできることはないの……?)

 パレットは軍事用ポーチから、役に立ちそうなものがないかを探していた。

「黒城ッ……アタシ飛び疲れてそろそろ限界ッ……」

 青いひな鳥は、低空飛行でフラついていた。未熟なのか、少しか飛べないようだ。

「……わかった。少し休んでいろ」

 黒城は、虹色の宝箱が付いたズボンのチェーンを外し、手首にグルグルと巻き付けた。

 そして、チェーンを巻いた右腕を勢いよく伸ばした。虹色の宝箱は、青いひな鳥を回収して黒城の手元へと収まった。

「ねぇ下っ端!……じゃなくて、黒城!」

 パレットは、軍事用ポーチの中にあった鉄のワイヤーを引っ張り出しながら叫んだ。

「機動力のある『秘宝獣』持ってない?」

「……あるにはあるが」

「あるなら貸して!」

 黒城は黙って頷き、ズボンのポケットに入れていた銅色の宝箱を、パレットに投げ渡した。『秘宝』は放物線を描きながら、パレットの手元に渡った。

「これはなんて名前の『秘宝獣』なの?」

「……エスケープ・ゴートだ」

 パレットが銅色の宝箱を開けると、漆黒の毛皮に赤い眼をした、山羊(ヤギ)の秘宝獣が飛び出した。ヘブライ聖書の贖罪の日に、人々の罪を負わせた山羊の名称と似ている。

【Cランク秘宝獣―エスケープ・ゴート―】

「まぁ、何でもいいわ。エスケープ・ゴート、作戦開始よ!」

(鉄のワイヤーをレア・メタル・ゴーレムの足に絡ませれば、バランスを崩せるはず……)

「このワイヤーを咥えて、レア・メタル・ゴーレムの周りを走るのよ!」

「メェェェェェェェ」

 パレットの合図とともに、ヤギの秘宝獣は走り出した。俊敏な動きで鋼鉄の巨像の攻撃を回避しながら、その足に二重、三重に鉄のワイヤーを絡みつけていく。

(よしっ、これならいける……)

 しかし鋼鉄の巨像が足を動かすと、鉄のワイヤーは音を立てて千切れてしまった。

「これも通じないなんて……他に方法は……」

 パレットがふいに上を見上げると、鋼鉄の巨像はパレットを踏みつけようとしていた。

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