第51話『先生達からのプレゼント』

 御立氷穴の観光が終わった俺達は、大宮先生の提案で、車で20分ほどのところにある有名なラーメン屋さんに行くことになった。

 俺はご当地ラーメンの御立ラーメンを食べた。お店の方の話だと、鰹ベースの醤油スープで、太めの縮れ麺が特徴とのこと。氷穴の観光をした後だから、温かいラーメンがとても美味しく感じられた。



 お昼ご飯を食べ終わると、俺達はホテルに戻り、夕方まで屋内プールでたっぷりと遊んだ。

 昨日は泳ぎの練習をしたり、ウォータースライダーを滑ったりすることがメインだったけど、今日は流れるプールに入ったり、ビーチボールを使って遊んだりもした。

 あと、昨日はサマーベッドでくつろぐことの多かった大宮先生も、今日は霧嶋先生と一緒にウォータースライダーを滑ったりして楽しんでいた。

 また、俺は風花と美優先輩にお願いして昨日のクロールの復習をしたり、平泳ぎや背泳ぎ、バタフライなどの泳ぎ方を教わったり。彼女達のおかげで、泳ぐことの不安がだいぶ取れた気がする。学校の授業でも発揮できるように頑張ろう。



 午後5時過ぎ。

 俺達は一旦部屋に戻ることに。夕飯までまだ時間があるし、プールで体も冷えたから、今日も夕食前に温泉に入ろうかな。


「由弦君、お待たせ」


 女性更衣室から着替え終わった美優先輩達が姿を現した。美優先輩は俺に向かって手を振ってくる。


「今日もたっぷりとプールで遊べましたね」

「楽しかったね! 由弦君はたくさん泳げるようになって偉いよ」


 よしよし、と美優先輩は俺の頭を優しく撫でてくれる。これだけでも、泳ぎの練習をした疲れが取れていく。


「今日もプールで遊びましたから、これからお風呂に入りますか?」

「それがいいね」

「由弦、美優先輩。お風呂のことなんですけど、ここで霧嶋先生と大宮先生からお話があります」

「えっ?」

「何かあるんですか? 成実先生、一佳先生」


 先生方は楽しそうに笑いながら美優先輩と俺を見てくる。


「実は成実さんと私から桐生君に誕生日プレゼントがあるの。そのプレゼントには白鳥さんも関わっていて」

「そうなんですか。そのプレゼントっていったい何なんですか?」

「貸切温泉だよ」

「おおっ、貸切温泉ですか」

「うん。昨日、一佳ちゃんと一緒にチェックインの手続きをしているときに閃いて。それで、昨日か今日に空きがあるかどうかホテルの方に訊いてみたの。そうしたら、チェックインした直前にキャンセルの連絡が入ったから、今日の午後5時半から1時間予約をすることができたんだ! 貸切だからもちろん混浴OK! だから、美優ちゃんと一緒に入ってね。一佳ちゃん、せーの!」

『桐生君、お誕生日おめでとう!』


 大宮先生と霧嶋先生に笑顔でそう言われる。

 まさか、この旅行中に足湯以外の形で美優先輩と混浴できるなんて。夢にも思わなかった。


「由弦君! 先生方のプレゼントを有り難く受け取ろうよ!」


 俺と混浴できるのが嬉しいのか、美優先輩はワクワクした様子でそう言ってくる。ワイシャツの裾をぎゅっと掴んでいるのも可愛らしい。


「そうですね。では、お言葉に甘えて、美優先輩と一緒に貸切温泉に入りたいと思います。ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「そう言ってくれると、こちらまで嬉しくなるわ。ゆったりと2人きりの時間を楽しみなさい」

「夕食のときにでも貸切温泉がどんな感じだったのか話を聞かせてくれると嬉しいな」

「はい!」


 美優先輩、元気良く返事している。まさか、先生方がこういった誕生日プレゼントをくれるとは。意外だったな。


「美優先輩と一緒に温泉を楽しんで」

「でも、2人きりだからって変なことをしちゃダメだよ。貸し切っているのは1時間だけだし、2人の後にも他のお客さんが入るんだから」

「そ、そこは気を付けるよ、瑠衣ちゃん」


 もう、美優先輩は顔を真っ赤にして視線をちらつかせる。

 美優先輩と2人きりだし、互いに肌を見せ合うことになるから、当然ドキドキするだろう。ただ、花柳先輩の言う通り、俺達の後にも利用するお客さんがいるわけだし、色々してしまわないように気を付けよう。

 部屋に戻る際、途中の自販機で俺に泳ぎを教えてくれたり、サポートをしてくれたりしたお礼として、風花と美優先輩にそれぞれ好きな飲み物を1本ずつプレゼントした。ちなみに、風花はオレンジジュースで、美優先輩はレモンティーを選んだ。2人とも温泉に入った後に飲むらしい。

 部屋に一旦戻って、温泉に入る準備をする。その際も美優先輩は可愛らしい鼻歌を歌っていた。

 貸切温泉は大浴場へ向かう途中にあるので、入口まではみんなで一緒に行く。


「では、俺は美優先輩と一緒に温泉に入ってきます」

「ええ。2人で温泉を楽しみなさい。貸切温泉は6時半まで利用していいから……午後7時に、9階のエレベーターホールで待ち合わせをして、夕食を食べに行きましょう」

「分かりました」

「由弦、美優先輩。また後です」


 風花達と別れて、俺と美優先輩は貸切温泉『御立』の暖簾をくぐる。

 少し歩いたところにある入口の引き戸を開けると、そこは脱衣所になっていた。大浴場のミニバージョンという雰囲気だ。


「大浴場の脱衣所よりもかなり狭いし、貸切って感じがしていいね」

「そうですね。プライベートな雰囲気がありますよね」

「うん!」


 そう言って、美優先輩は脱衣所の中をスマホで撮影している。こういうことも貸切だからこそできることだよな。


「貸切温泉の中ってどうなっているんだろうね。ちょっと覗いてみようか」

「ええ」


 貸切温泉に繋がる引き戸を開けると、そこには檜で作られた湯船が。温泉が流れる音が絶えず聞こえてくる。パッと見た感じ、部屋の浴室の湯船よりかなり広そう。

 また、竹の柵で外から覗かれないようにされており、柵の向こうには新緑の葉が生い茂った木が見える。


「とっても落ち着いた雰囲気のある貸切温泉ですね」

「うん。ここなら、2人でゆっくりと楽しめるね」


 美優先輩は貸切温泉の中もスマホで撮影している。それらの写真を『こんなところです』というメッセージを添え、旅行メンバーのグループトークに送った。

 ここで美優先輩と一緒に温泉を楽しむことができるなんて。さっそく、先生方から素敵な誕生日プレゼントをいただいた気分になる。


「時間も限られているし、さっそく中に入ろうか」

「ええ、そうしましょう」


 俺は美優先輩の横で服や下着を脱いでいく。これまでも家でお風呂に入るときもこうすることはあったけれど、昨日の夜のこともあってか凄くドキドキするな。ただ、不思議と先輩の体を見ることに抵抗感はなかった。

 美優先輩も同じなのか、俺のことをチラチラと見ている。俺と目が合うと先輩は「バレちゃった?」と言わんばかりにはにかんだ。


「つい、由弦君の体を見ちゃって。昨日の夜のことがあったからかな」

「俺も同じです。昨日の夜のことを思い出して、凄くドキドキするんです。でも、見ること自体には躊躇いがないというか」

「私も同じ感じ。たくさん見せ合ったもんね。こうして明るいところで見ると、由弦君の体って本当に綺麗だよね。筋肉も付いているし、肌もスベスベだし。それは家で一緒にお風呂に入っているときにも思っているけれど」

「ありがとうございます。美優先輩も綺麗ですよ。あと、プールで遊ぶときに、先輩が体を気にすることがなくて良かったです。昨日の夜、たまに夢中になってキスしてしまったこともあったので」

「今朝、温泉に入ったときや、プールに入る前にも確認したけど、全然キスマークがなかったよ。由弦君の優しさを実感した」

「そうですか」


 ちなみに、俺の体にもキスマークは全然なかった。

 美優先輩と向かい合ってお互いに気持ちを言葉にしたから、凄く……したくなってくるな。でも、ダメだぞ。時間も限られているし、俺達の後にここを利用するお客さんもいるから。花柳先輩にも注意されたじゃないか。

 美優先輩はそっと俺の手を掴んでくる。先輩の手から温もりがはっきりと伝わってきて。


「今夜もお部屋でたっぷりしようね。だから、今は貸切温泉を楽しもう? これは先生方のくれた誕生日プレゼントなんだから……って、プレゼントをもらったわけじゃない私が偉そうに言っちゃダメだね」

「そんなことないですよ。一緒に貸切温泉を楽しみましょう」

「うんっ!」


 今は貸切温泉でのんびりとした時間を過ごそう。

 俺は美優先輩の手を引いて、貸切温泉へ向かうのであった。

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