第21話『姉妹との時間-前編-』

 夕ご飯を食べ終わり、風花、花柳先輩、霧嶋先生は家に帰っていった。

 食器やホットプレートの後片付けは美優先輩と俺がやり、食卓などの掃除は雫姉さん達4人にやってもらうことにした。


「夕ご飯美味しかった! 焼肉にして正解だったね。由弦君が作ってくれた締めの焼きそばも美味しかったよ」

「ありがとうございます。俺はあまり食べられなかったですけど、みんなが美味しそうに食べてくれて良かったです。雫姉さんと心愛も、俺が実家にいたときと変わらず肉をたくさん食べていましたし。正直、そんな姿を見て安心しました」

「ふふっ。2人と葵、風花ちゃん、瑠衣ちゃんがたくさん食べていたよね。それがとても嬉しかったな」

「分かります。途中からは焼く方ばかりになりましたけど、それを美味しいって言って食べてくれると嬉しいんですよね」

「そうだね。……ただ、それは普段、私が感じていることだよ、由弦君」


 そう言われたので、思わず手を止めて美優先輩の方を見る。そこには先輩の優しい笑顔があって。先輩が可愛すぎて、吸い込まれるようにキスする。

 お互いに両手が塞がっていてもキスってできるんだな。考えればすぐに分かることだけど、このキスはとても新鮮に感じられた。


「だ、台所で食事のお片付け中にキスしていると、まるで夫婦みたいですね」


 朱莉ちゃんの声が聞こえたので、俺達は慌てて唇を離した。美優先輩は顔を赤くして俯いている。

 リビングの方を見ると、はにかみながら俺達を見ている朱莉ちゃんがいた。その後ろには顔を真っ赤にする心愛と葵ちゃん、スマホをこちらに向けて不敵な笑みを浮かべている雫姉さんが。シャッター音もした気が。


「そうだ、みんながいるんだよね。何だか恥ずかしいな。……あと、姉さん。写真を撮ったなら誰かに送るなよ。特に風花と花柳先輩には」

「ふふっ、大丈夫よ。ただ、いい写真を撮れたから、実家のアルバムに貼っておくわ」

「……まあ、それならいいよ」

「ありがとう、ゆーくん。さあ、みんな。あと少しだから終わらせちゃおう!」

『はーい!』


 4人はリビングの掃除を再開する。俺達も後片付けを続ける。


「それにしても、こうして役割を分担して掃除や片付けをしていると、合宿や修学旅行って感じがするね」

「そうですね。さっきまで霧嶋先生がいましたもんね」


 合宿や修学旅行のようだったら、3人にも掃除や後片付けをさせた方が良かったかな。ただ、霧嶋先生の場合はやらせたらどうなるか分からないから、実務はさせずに監督をしてもらった方がいいかも。


「でも、朱莉や葵の声が聞こえると実家に帰った気もして。ただ、由弦君がこうして隣にいるから、何だか不思議だよ」

「分かる気がします。ここに来て1ヶ月ちょっとですけど、雫姉さんや心愛の声が聞こえると、美優先輩を連れて実家に帰ったのかなって思いますよ」

「ふふっ。いつかは連れて行ってね」

「もちろんです。夏休みに一緒に帰省できればいいなと思います。実家から歩けるところに海がありますから、風花がついてきそうですけど」

「それはそれで楽しそうでいいんじゃない? 由弦君のご実家にはお姉様や心愛ちゃんもいるし」

「そうですね。近くになったら、そのことについて話し合いましょうか」


 実際に美優先輩に会ったときの両親の反応が楽しみだ。

 そんな話をしていたこともあってか、たくさんあった食器などの後片付けもあっという間に終わった気がした。その頃にはリビングの掃除も終わっていた。

 食後の日本茶を飲みながら、俺達は入浴についてどうするか話した。

 その結果、久しぶりに会ったということもあり、白鳥3姉妹が先に入り、その次に桐生3きょうだいが入浴することに決まった。

 夜も9時近くになっていたこともあってか、白鳥3姉妹はさっそく浴室へと向かうのであった。

 雫姉さんと心愛が来てから夕食を食べ終わるまでここに9人もいたので、3人しかいないととても広く感じる。それでも、普段は美優先輩と2人暮らしをしているので人数的には多いけれど。だからか、不思議な感じもする。


「急に落ち着いた感じがするね、お兄ちゃん」

「ああ。2人が来てから、ついさっきまでここに9人いたからね。普段も美優先輩と2人だと今みたいな雰囲気かな。2人きりだと、食事以外は食卓じゃなくて、テレビの前にあるソファーに座ってゆっくりすることが多いよ」

「そうなんだ。お兄ちゃんと美優さん、とてもいい雰囲気だよね。あたしも恋とかしてみたくなるなぁ」

「……誰かと付き合うことになったら、すぐに兄ちゃんに伝えるんだよ。できれば写真も送ってね。姉さんもだぞ」


 どんな人と付き合っているのか、見た目だけでもすぐに知りたいからな。心愛や雫姉さんに何かあったらすぐに地元に帰らなければ。


「もう、ゆーくんったら。来たときにも言ったでしょ? 世界一かっこいい男の子はゆーくんだって」


 そう言うと、雫姉さんは椅子から立ち上がり、俺のことを後ろから抱きしめてくる。美優先輩に負けないくらいに柔らかなものを持っているけれど、姉さんだとあんまりドキドキしないな。


「お姉ちゃんったら本当に嬉しそう。2人のお家に行くって決まってから、ずっと楽しそうな笑顔を浮かべてて。今日見せる写真を選ぶときも、ホームビデオをダビングしているときもずっと楽しそうで」

「だって、ゆーくんに会えるからね。小さい頃の可愛いゆーくんの写真やビデオを見たら、そのことで幸せになっちゃって。でも、一番いいのは生ゆーくんだね。温かいしいい匂いがするし。ゆーくんのお姉ちゃんで良かった。ゆーくんに彼女ができてもこうすることができるんだから。そうだ。あとで頭を洗ったり、背中を流したりするからね」

「はいはい。優しくお願いしますよ」


 髪を洗ったり、背中を流したりすること自体はいいけれど、問題なのはそういうときにいたずらをしてきそうってことだ。注意しておかなければ。


「そうだ、心愛。兄ちゃんは高校生活を楽しむことができているけれど、心愛の方は中学での学校生活には慣れてきたかな?」

「うん! 段々と慣れてきたよ。小学校からの友達も何人か同じクラスだし。あと、クラスやバドミントン部でお友達もできたから楽しいよ」

「それなら良かった。心愛は運動神経がいいけれど、バドミントンを本格的にやるのは部活に入ってからだよね。無理しない程度に頑張って。これから暑くなってくるし」

「分かってるよ、お兄ちゃん。部活は楽しいからいいけれど、連休が明けて少し経ったら中間試験があるんだよね。そっちの方が不安」

「……俺も5月の下旬くらいにあるよ」


 ゴールデンウィークを明けるまでは、中間試験のことはあんまり考えたくなかったな。誕生日もあるし。試験は5月下旬だから、連休明けから少しずつやっていけば大丈夫じゃないだろうか。


「分からなかったら、ゆーくんは美優ちゃんや瑠衣ちゃんに教えてもらえばいいんじゃない? 現国や古典なら一佳さんもいるし。ここちゃんも分からないことがあったら、お姉ちゃんに訊いていいからね」

「うん!」


 雫姉さんは小学校の頃からずっと成績がいいから、心愛の勉強なら分かりやすく教えることができそうだ。


「さてと……」


 そう呟くと、雫姉さんは俺の抱擁を解いて、テレビの前にあるテーブルに置かれていたデジカメを手に取る。思い出のためかここに来てから、姉さんは何度もそのデジカメで撮っていたな。

 雫姉さんはそのまま、廊下に向かう扉のノブに手をかける。


「ちょっと待って、雫姉さん。……何をするつもりなの?」

「えっ? 将来、義理の妹になる3人の美しいお体を写真という形で収めようと……」


 それを真顔で言っているからこそ、雫姉さんはとんでもない女だと思う。


「いくら雫姉さんでもそれはダメだぞ。美優先輩の恋人である俺が許さない」

「お姉ちゃんダメだよ! その……色々と法律に引っかかりそうだし!」

「心愛の言う通りだぞ。あぁ、せっかく久しぶりに雫姉さんの肩を揉もうと思ったのに、そういうことをするならおあずけだな」

「やめる」


 雫姉さんは食卓にスマートフォンとデジカメを置き、椅子に座って姿勢を正している。あぁ、今から肩を揉めってことね。何にせよ、白鳥3姉妹の裸身を写真に収める事態にならなくて良かった。

 俺は雫姉さんの後ろに立ってゆっくりと肩を揉み始める。そんな様子を心愛が日本茶をすすりながら見ることに。


「あぁ、気持ちいい……」

「肩の凝り具合は美優先輩といい勝負かな」

「見た目だけだけど、美優ちゃんの胸は私と同じくらいにありそうだもんね。肩の凝り具合って胸の大きさに比例しているのかな?」

「さあ、どうだろうね」

「ふふっ。心愛の肩揉みもいいけれど、ゆーくんは手も大きいし、力も強いから本当に気持ちいいよ」

「そう言ってくれて嬉しいね」


 雫姉さんの肩も揉み甲斐があるな。あと、美優先輩が髪を伸ばしたらこういう後ろ姿になるのだろうか。


「あたしも胸が大きくなったらお姉ちゃんみたいに肩が凝るのかな?」

「どうかなぁ。心愛は私と違ってよく運動するし。実際に大きくなってみないと分からないな。もし、そうなったときはお互いに肩をもみ合おうね」

「うん!」


 心愛は……今のところ、胸に成長の様子はあまり見られないけれど、雫姉さんの妹だ。これから大きくなる可能性は十分にあるんじゃないだろうか。


「それにしても、本当に気持ちいい……」

「そうかい。肩もほぐれてきたね」

「うん。ゆーくんのおかげだよ。ゆーくんが優しく揉んでくれるから……んっ」


 雫姉さんは、可愛い声を出して体をビクつかせている。久しぶりというのもあって、今までよりも気持ち良く感じられるのかもしれない。

 それにしても、3人だけの空間でこうして肩を揉んでいると、実家にいた頃のことを思い出すな。当時は定期的に揉んでいたから考えなかったけど、こうして東京に引っ越すと、雫姉さんの肩を揉むのはあと何回あるんだろうって思ってしまう。


「ゆーくん。今、色々考えていたでしょ。力が弱くなってきたから」

「……久しぶりだったからね」

「そっか。これからもゆーくんと会うときは、ゆーくんに肩を揉んでもらうからね。心愛も肩が凝るようになったら、ゆーくんに肩を揉んでもらおうねー」

「ねー」


 雫姉さんと心愛は楽しそうに笑い合っている。俺が家を離れるときは寂しそうにしていたけど、この様子なら2人が一緒に実家にいる間は大丈夫そうかな。


「気持ちいいから、ゆーくんに肩を揉んでもらうと幸せな気持ちになるよ。このままだと身も心もとろけちゃいそう……」

「それ分かりますっ!」


 気付けば、寝間着姿になった白鳥3姉妹が戻ってきていた。お風呂上がりだから、ボディーソープやシャンプーの甘い香りがしてくる。また、美優先輩は興奮した様子で俺達のことを見ていた。


「美優ちゃんも定期的に肩を揉んでもらっているから、私の気持ちが分かるんだね」

「はい! 由弦君、とても上手ですから……」

「……肩揉みが気持ちいいから、胸も揉んでほしくなるときってない?」

「ふえっ? えっと、そういうことも……ある……かな……」


 雫姉さんの質問に恥ずかしがってしまったからか、美優先輩は真っ赤になった顔をバスタオルで隠してしまった。その様子を見て、反射的に雫姉さんの肩揉みを止めて、姉さんの頭を軽くチョップした。


「いたっ。何するの?」

「美優先輩に何てことを訊くんだ」

「さすがに今のことを美優さんに訊いちゃダメだよ」

「肩揉みが気持ちいいって共感してくれる美優ちゃんが可愛いから、つい。ごめんね、美優ちゃん」

「……いえいえ」


 そう言って、美優先輩は両眼を出すけど、俺と目が合うと再びバスタオルで隠してしまう。まったく、雫姉さんめ。

 美優先輩のことを朱莉ちゃんは苦笑いをしながら見ていて、葵ちゃんは頭を優しく撫でていたのであった。

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