第22話『姉妹との時間-後編-』

 白鳥3姉妹の入浴が終わったので、今度は桐生3きょうだいの番。まさか、この家の風呂に雫姉さんと心愛と一緒に入浴することになるとは。

 服や下着を脱いで、俺は2人と一緒に浴室の中に入る。白鳥3姉妹が入浴を終えてからそこまで経っていないこともあり、ボディーソープの甘い匂いがしっかりと残っている。


「3人と同じ匂いがするわ。ちょっと興奮しちゃう」

「家で使っているボディーソープと同じだけどね、お姉ちゃん。ただ、この甘い匂いがすると、家にいるみたいで安心する」


 雫姉さんと心愛の反応がここまで違うと面白いな。あと、雫姉さんは心愛を見習った方がいいんじゃないだろうか。


「お兄ちゃん。まずはお兄ちゃんの髪を洗うよ」

「おっ、心愛がやってくれるのか。嬉しいなぁ。じゃあ、お願いするよ」

「その後に、私がゆーくんの背中を流すね」

「ありがとう。じゃあ、背中は雫姉さんに頼もうかな。そのお礼に、あとで雫姉さんと心愛の髪を洗うよ」

「やったー!」

「ふふっ、ゆーくんに髪を洗ってもらうのは気持ちいいから楽しみだわ」


 俺も2人の髪を洗うのは久しぶりだから楽しみだな。

 さっそく、俺は心愛に髪を洗ってもらい始める。その間、雫姉さんには湯船に浸かってもらうことにした。ただ、姉さんは湯船の縁に両腕を置いてこちらを見ているので、何かされるんじゃないか不安だ。


「お兄ちゃん、こんな感じでどうかな?」

「うん。凄く気持ちいいよ。どんどん上手になっているね」

「えへへっ。お兄ちゃんが引っ越してからも、たまにお姉ちゃんと一緒にお風呂に入って、髪を洗うことがあるから」

「ここちゃん、どんどん上手になっているもんね」

「そうなんだ。心愛は偉いなぁ」


 鏡越しで心愛のことを見ると、心愛はとても嬉しそうな笑顔で俺の髪を洗っている。これが俺の妹なのだと色々な人に自慢したいくらいに可愛い。

 後で、特に心愛には丁寧に髪を洗ってあげないとな。


「お兄ちゃん、泡を落とすから目を瞑ってくれるかな?」

「はーい」


 俺はしっかりと目を瞑る。

 すると、程なくしてシャワーの温かなお湯が頭にかかる。気持ちいいなぁ。髪を洗ってもらったのも気持ち良かったし。目を瞑っていることもあって、このまま眠ってしまいそうだ。


「うわっ!」


 脇腹や背中を撫でられたのがくすぐったくて、思わず大きな声が出てしまった。だからなのか、


「あははっ!」

「ゆーくん、相変わらず脇腹と背中が弱いんだ」


 心愛と雫姉さんは楽しそうに笑っている。


「……そうだよ。つーか、やったのは絶対に雫姉さんだろ! 心愛は片方がシャワー、もう片方は俺の髪を触っていただろうから」

「ふふっ、ご名答。いやぁ、平成のうちに一度やっておきたいと思ってね」

「……時代が終わるからって、何でもやっていいと思うなよ。あと、背中を流してくれるときは何もするんじゃないぞ」


 雫姉さんの髪を洗っているとき、背中や脇腹をくすぐってやろうかな。

 シャワーで泡を洗い流してもらった後、心愛にタオルで髪を拭いてもらう。


「はい、これで髪は終わりだね」

「ありがとう、心愛」

「じゃあ、今度はお姉ちゃんがゆーくんの背中を流すね」

「……くれぐれも普通に背中を流してください」

「えぇ、平成も終わるし、お姉ちゃんの体でゆーくんの背中を流そうと思ったのに」

「そこに青いボディータオルがあるから、それで背中を流して」


 美優先輩に同じことを訊かれたら、少しは考えたけれど。

 まったく、高校生の弟にこんなことを訊く大学生の姉。今更思うけれど、雫姉さんってブラコンだよな。しかも、重度の。あと、心愛のことを溺愛しているから、シスコン要素もあるか。そう考えるとある意味で凄い姉さんだな。


「もうゆーくんったら、照れ屋さんなんだから。ゆーくんがそう言うなら、平成の間はボディータオルで通すよ」


 そう言って、雫姉さんはボディータオルで俺の背中を流し始める。というか、時代が令和になったら、ボディータオルじゃなくてボディーで洗うつもりなのだろうか。雫姉さんだったらやりかねないな。


「ゆーくん、どうかな?」

「気持ちいいよ。この調子で、ボディータオルで背中を洗ってね。あと、何もいたずらはしないこと」

「もう、ゆーくんったら。今年で20歳になるんだし、一度言われたことはちゃんと守るって」

「……頼むぞ女子大生」


 そうは言うけれど、昔から何度も嫌だと言っているくすぐりをさっきやったからなぁ。警戒しておこう。


「それにしても、ゆーくんの背中って広くて綺麗だよね」

「そうだね、お姉ちゃん」

「美優ちゃんもゆーくんの背中を流したことがあるんだよね。どっちが気持ちいい?」

「……どっちも気持ちいい。でも、美優先輩はいたずらを全然しないから、総合的に考えたら美優先輩に軍配が上がるかな」

「……ううっ」

「これまでに何度も、お姉ちゃんはお兄ちゃんの背中や脇腹をいたずらしたもんね。ここで影響が出ちゃったか」

「……悔しいけれど、こればかりは仕方ないか。さあ、ゆーくん。背中は洗い終わったよ。前の方は……どうする? お姉ちゃんが優しく洗おうか?」

「お気持ちだけで十分だよ。背中を流してくれてありがとう。後は自分でやるから」

「……はいどうも」


 つまんない、っていう気持ちが凄く伝わってくる返事だな。これも美優先輩からの提案だったら少しは考えていた。

 姉さんからボディータオルを受け取り、背中以外の部分を洗っていく。その間、2人からじっと見つめられるのがとても恥ずかしかった。2人とも、いつもと変わらない笑みを浮かべているけれど、高校生男子の体を見て何とも思わんのか? 兄や弟だからか?

 体を洗い終わったので、まずは心愛の髪を洗い始めることに。


「やっぱり、お兄ちゃんにやってもらうと気持ちいいなぁ」

「そう言ってくれて嬉しいよ。本当にこうしていると実家に帰ってきた気分になるよ」

「あたしもそんな感じがする。1ヶ月くらい前まで、お兄ちゃんが家にいるのが当たり前だったから、こうして3人で一緒にお風呂に入ると安心する」

「……心愛は本当に可愛いことを言ってくれるね」


 鏡越しで心愛のことを見ると、彼女はまったりとした表情を浮かべていた。

 実家を出た身からすると、こういうことをつい1ヶ月ほど前まではいつでもできたのだと感慨深い気持ちになる。

 シャワーで心愛の髪に付いた泡を落としていく。美優先輩よりも髪が短いのでやりやすかったな。

 心愛の髪を拭き終わって、今度は雫姉さんの番に。


「ゆーくん、お願いします。心愛が気持ちいいって言うから凄く楽しみ」

「その期待に応えられるようにやりますよ」


 そして、雫姉さんの髪を洗い始める。

 ロングヘアということもあってか、心愛よりも髪の量がかなり多い。そういう意味ではかなり洗い甲斐のある髪だ。


「雫姉さん、こんな感じで洗っていけばいいかな」

「うん。とっても気持ちいいよ。心愛の言う通り、ゆーくんにやってもらうといいね」

「でしょ? さすがはお兄ちゃんだよね!」

「姉さんや心愛に気持ちいいって言ってもらえて安心したよ」


 たまに美優先輩の髪を洗っているからかな。

 それにしても、雫姉さんの背中は美優先輩に負けず劣らず綺麗だ。今は無防備だし、さっきのお返しをしてやるか。


「ひゃあっ!」


 右手で脇腹の辺りを撫でると、雫姉さんは可愛らしい声を挙げた。浴室ということもあって、その声がよく響く。

 鏡越しで雫姉さんのことを見ると、彼女は驚いた表情をしていた。

 しかし、それはほんの短い間で、俺と目が合うと雫姉さんは艶やかな笑みを見せる。


「もう、ゆーくんったら。何も言わずに体を触るなんて。……えっち」

「何言ってるんだ。さっきの仕返しだよ」

「ふふっ。こんなにくすぐったかったんだ。声も出しちゃったし」

「さっき俺があんな反応をした理由が分かっただろう? 令和になったら、こういうことをするのは止めような」

「……令和のことは令和になってから考えよう」


 こりゃ、今後も今日のようないたずらをされるかもしれないな。俺ならまだしも、白鳥3姉妹や風花達にはしないでほしいと思う。

 さっきの仕返しもしっかりとやったので、それからは雫姉さんの髪を洗い終えるまで姉さんにいたずらすることはなかった。

 雫姉さんの髪を洗い終わり、俺は湯船にゆっくりと浸かる。

 その瞬間、初めて俺達は3人一緒に湯船に浸かることができるのか考えた。美優先輩と2人で入ると少し狭く、抱きしめ合うとちょうどいいと感じられる広さだから。3人だとかなりキツいかもしれない。白鳥3姉妹は一緒に入ることができたのだろうか。

 雫姉さんと心愛は、お互いの背中を洗うということになったので、2人とも体が洗い終わるまでは湯船に浸からなかった。


「さてと。ここちゃん、せっかくだから3人で入ろうか」

「うん。でも、入るかなぁ」

「俺が端で体育座りになるよ。それで2人が抱きしめ合えば、何とか入るんじゃないかなと思ってる」

「分かった。じゃあ、ここちゃん抱きしめ合って入ろっか」

「うん!」


 俺が体育座りになったことを確認すると、雫姉さんと心愛は湯船の上に立ちぎゅっと抱きしめ合う。そして、ゆっくりと沈んでいく。

 心愛の脚に当たるけど、何とか3人一緒に湯船に入ることができた。


「一緒に入れたね! お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「そうだね、心愛」

「ゆったりさはさすがにないけど、ここちゃんを抱きしめているから凄く幸せ。何よりもゆーくんと3人で入ることができて嬉しいわ」


 心愛も雫姉さんもとても嬉しそうだ。実家の湯船とは違って狭さは感じられるけど、こうして3人で一緒に入っていると実家に帰省した感じがする。美優先輩も朱莉ちゃんと葵ちゃんと一緒に湯船に浸かって、こういうことを感じたのだろうか。


「ここに来て半日くらいだけど、ゆーくんは東京で素敵な人達と出会ったのね。その中で美優ちゃんと付き合うことになって。お姉ちゃんは本当に安心したわ」

「あたしも思った。お兄ちゃんがいなくて寂しいって思うけど、お兄ちゃんが東京でこうして楽しく高校生活を送っているんだから、あたしも楽しい中学生活を送らないとね。でも、たまには帰ってきてくれると嬉しいな」

「夏休みには美優先輩を連れて帰省するつもりだよ。でも、2人と平成の間に会うことができて良かったよ。アルバムとホームビデオはアレとして。2人とも来てくれてありがとう」

「明後日まで楽しむわ」

「朱莉ちゃんや葵ちゃん達とももっと仲良くなりたいな!」


 心愛と雫姉さんなら、きっと仲良くなることができるんじゃないだろうか。

 その後も、お互いに新年度になってからの話をしながら、3人での時間をゆっくりと過ごすのであった。

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