第18話『色々なプレゼント』

 雫姉さんと心愛が来たので、美優先輩が2人の分の紅茶を淹れる。

 2人が来たため席替えをする。食卓を挟んで桐生家と白鳥家が向かい合うようにして座る。俺は雫姉さんと心愛に、美優先輩は朱莉ちゃんと葵ちゃんにそれぞれ挟まれて座っている。こうしていると、何だかお見合いをしているような感じだ。

 風花、花柳先輩、霧嶋先生はソファーに移動。霧嶋先生は背もたれに手をかけてこちらを見ているけど、風花と花柳先輩はソファーの上に乗って、体ごとこちらに向けている。


「こうして見てみると、将来、可愛い義理の妹がたくさんできるのね。世界一可愛い女の子はここちゃんだけど」

「もう、お姉ちゃんったら。そう言ってくれるのは嬉しいけど、みんなの前だから照れちゃうよ。……あぁ、白鳥3姉妹凄く可愛いなぁ。朱莉ちゃんはあたしと同い年とは思えないくらいに大人っぽい……」


 そういえば、朱莉ちゃんが自己紹介したとき、中学1年生であると言ったら心愛が「あたしと同い年なの!?」って驚いていたな。


「いえいえ、そんなことないですよ、心愛ちゃん。私も姉さん達に会えることが楽しみで、昨日はなかなか眠れなかったので……」

「そうだったんだ! あたしもなかなか眠れなかったよ! だから、雫お姉ちゃんと一緒に寝たの」

「ふふっ、そうですか。葵はすぐに眠れることもあって、私の部屋に来ることはなかったですね」

「あたしは遠足や旅行の前日でもよく眠れるタイプだからね。昨日もベッドに入って5分くらいで寝たよ」


 葵ちゃんはすぐに寝ることができるタイプなのか。それはいいことだ。

 今の会話を見ていると、心愛は朱莉ちゃんじゃなくて、葵ちゃんと同じ学年じゃないかと思ってしまう。朱莉ちゃんがかなり大人っぽくて、葵ちゃんと心愛の雰囲気が似ているからかな。


「あっ、そうだ」


 何かを思い出したのか、雫姉さんははっとした表情になり、ティーカップを唇の近くで止める。


「ゆーくん、ちょっと早いけど誕生日プレゼントを持ってきたよ」

「あたしも持ってきたよ、お兄ちゃん」

「おっ、嬉しいな!」

「あと、お父さんやお母さんからもプレゼントを預かってきたよね、お姉ちゃん」

「うん、私が持ってる。知っているかどうか分からないけれど、ゆーくんの誕生日が5月7日なの」

「そのことは姉さんから以前に聞きました。なので、先ほど葵と一緒に由弦さんが好きなコーヒーをプレゼントしました」

「そうなの。2人とも弟のためにありがとね。ゆーくん、お礼はちゃんと言った?」

「ちゃんと言ったよ。凄く嬉しかったし。2人とも本当にありがとう」

「……ふふっ」


 美優先輩は上品に笑う。


「こうして見てみると、由弦君も弟なんだなって思う。普段はとてもしっかりしているから、新たな一面を見ている感じがする」

「……そうですか」


 雫姉さんや心愛が側にいることで、実家に帰ってきた感じも正直あって。それが表に出て、美優先輩には『新たな一面』に見えているのかもしれない。

 雫姉さんと心愛はバッグを開けて誕生日プレゼントを探している。


「桐生君の誕生日は5月7日なのね。担任として何かプレゼントを考えておくわ」

「ありがとうございます。楽しみにしています」


 俺にとっては3日からの旅行が誕生日プレゼントのように思っているけれど。ただ、霧嶋先生にとって、旅行は家に出たゴキブリを退治したことや、みんなが掃除や洗濯をしたことのお礼なのだろう。


「ゆーくん」

「お兄ちゃん」

『お誕生日おめでとう!』


 2人にそう言われ、雫姉さんからはラッピングされた水色の袋を、心愛からは緑色の紙袋を受け取る。その際、美優先輩達から拍手を贈られた。もう今日が誕生日という感じがしてくる。


「2人ともありがとう。さっそく開けてみていい?」

「もちろんよ」

「じゃあ、まずは雫姉さんの方から」


 リボンを解き、水色の中から中身を取り出すと……それは紺色のエプロンだった。


「おっ、エプロンだ」

「ゆーくん、料理部に入部したって聞いたから。家庭科でも調理実習があると思うし、そういうときに使ってくれると嬉しいな」

「喜んで使うよ。嬉しいな。ありがとう、姉さん。……じゃあ、次は心愛の方だね」


 テープを丁寧に剥がして、緑色の紙袋の中に入っているものを取り出すと……それは銀色の水筒と、静岡産の新茶だ。『平成最後』っていうシールが貼ってある。


「おおっ、新茶に水筒か」

「うん。お兄ちゃんは日本茶が大好きだから。今年はいつもより早くお茶摘みがあって。そのお茶っ葉で淹れた日本茶を水筒に入れて、学校とかで飲んでくれると嬉しいな。これから暑くなっていくから水筒もいいかなって」

「そうだね。今年の新茶も美味しくいただくね。ありがとう、心愛」

「うん!」

「あと、お父さんとお母さんから。現金だって」


 そう言われて、雫姉さんから茶封筒を受け取る。中身を見てみると、現金1万円と手紙が入っている。さっそく読んでみるか。


『由弦、16歳の誕生日おめでとう。

 由弦も高校生になったので現金1万円をプレゼントします。好きなことに使ってください。

 ただ、一緒に住んでいる白鳥美優さんと恋人として付き合うことになったと報告され、父さんや母さんが由弦からプレゼントをもらった気分です。

 一緒に暮らしているのですから、白鳥さんのことを大切に、そして仲良く過ごしてください。そうすれば、ゆくゆくは父さんと母さんのようになれるのではないのでしょうか。

 夏休みでもお正月でもいいので、白鳥さんと一緒に家に帰ってきてください。そのときを楽しみにしています。

 それでは、体調には気を付けて。


 父と母より』


 父さんと母さんらしい内容もあったけれど、正直、この手紙が一番グッときたかもしれない。朱莉ちゃんと葵ちゃん、雫姉さん、心愛からプレゼントを渡された後だからなのかな。目頭が熱くなってきた。


「由弦君。たくさんプレゼントをもらうことができて良かったね」

「……ええ。俺は幸せ者ですよ」


 4人から誕生日プレゼントをもらったけど、それよりも多くの人から誕生日を祝ってくれる気持ちを受け取っているからな。


「ところで。ここに来たらゆーくんと美優ちゃんに絶対訊きたいことがあるんだけど」

「何かな、雫姉さん」

「どんなことでもお答えしますよ! お姉様!」


 お姉様か。いつかは、義理だけれど姉妹という関係になるから、美優先輩はそう呼ぶことにしたのかな。可愛いな。

 すると、雫姉さんはニヤリと笑って、


「ゆーくんとはどこまでしたの?」

「……えっ」


 あまりにもストレートな雫姉さんの質問に、美優先輩は一瞬にして顔を真っ赤にした。そんな反応をしたら色々と勘違いされてしまいますよ?


「隣に住む人間として、とても気になるな」

「親友として現状を知っておきたいな。何か変なことをしていたら、桐生君にお仕置きしないといけないし」

「桐生君の担任として、白鳥さんとどんな恋愛をしているか把握しておきたいわ」


 気付けば、俺の背後に風花と霧嶋先生、美優先輩の背後に花柳先輩が立っていた。俺の方は2人から肩をガッシリと掴まれてしまう。

 朱莉ちゃんや葵ちゃんに好奇の眼差しを浴びていることもあってか、美優先輩は両手で顔を覆ってしまう。


「……お兄ちゃん。美優さんがあんな反応をするなんて。いったい、美優さんとどんなことをしたの?」

「みんなが注目しているから、美優先輩が恥ずかしがっているんだよ。あと、みんなの前で恋人とどこまでしたかを言うのも恥ずかしいんじゃないかな。俺も恥ずかしい。まあ、変なことは……してないよ」

「今の間がちょっと気になるけれど、とりあえずはゆーくんの言葉を信じるわ。抽象的に訊くのが良くなかったかもね。じゃあ、今度は具体的に訊くよ。美優ちゃんに膝枕をしてもらったことはある? お姉ちゃんもしたことあるから気になって」

「うん、何度もあるよ」


 姉さんにも、俺が小学生くらいの頃に無理矢理されたなぁ。


「そうなんだ。さすがだね、美優ちゃん。次の質問ね。美優ちゃんと一緒にお風呂に入ったことある? お姉ちゃんや心愛も入ったことあるから」

「……何度もあるよ」

「そうなんだ。恋人になるとお風呂イベントはあるよね。さすがだね、美優ちゃん」

「……ど、どうもです。髪を洗い合ったり、背中を流し合ったりしたこともあります!」


 まるで、勇気を振り絞ったかのように、美優先輩は大きな声でそう言った。そんな美優先輩の後ろから、花柳先輩が俺に向けて羨望の眼差しを向けてくる。あぁ、寒気がする。

 風花や霧嶋先生のことを見てみると、美優先輩と俺の入浴シーンでも思い浮かべているのか顔をほんのりと赤くしていた。


「そうなのね。さすがは美優ちゃん。私もゆーくんの髪を洗ったり、小さい頃は体の隅々まで洗ってあげたことがあるわ。オススメするよ、美優ちゃん」

「おい、小学生や中学生もいる前で何を言っているんだ」

「ゆーくんのことだからつい。お姉様から恋人へのアドバイスをしたかったの。じゃあ、次の質問ね。ゆーくんと美優ちゃんはキスした?」

「……したよ」


 実際に見たことがある人もいるとはいえ、キスしたことを言うのはとても恥ずかしいな。美優先輩も同じ気持ちなのか、今日一番の顔の赤さになっている。


「ゆ、由弦君とは付き合うことになってから毎日キスしてます! その……とっても幸せな気持ちになります」

「美優お姉ちゃんは大人だなぁ」

「本当に由弦さんのことが好きだっていう気持ちが伝わってきますね」

「お兄ちゃんもここまで顔を赤くすることもないし、美優さんのことが本当に好きなんだなって思うよ」

「そうね、ここちゃん。ゆーくんと美優ちゃんの間に独特の空気があったわ。きっと、これが恋人達の空気なのね」


 姉と妹にそう言われると余計に恥ずかしくなるけれど、美優先輩といい雰囲気だと思ってくれるのは嬉しいことだ。

 話題がキスだからか、花柳先輩からの眼差しはより強いものになっている。霧嶋先生も更に顔が赤くなっているし、風花に至っては俺の肩を痛いくらいに掴んでくる。風花は俺とキスした経験があるからなぁ。


「……そっか。ちょっと、ゆーくんと2人きりで話したいんだけどいいかな?」

「いいよ。じゃあ、寝室に行こうか」

「分かった。みんな、こっそり私達の話を聞いちゃダメだからね」


 そんなことを言ったら、みんなこっそりと聞きそうな気がするけど。

 俺は雫姉さんと一緒に寝室へ向かう。


「いい部屋だね。勉強机が2つ並んでいてかわいい。あと、寝るときはそのベッドで一緒に寝ているの?」

「そうだよ。ただ、いずれはダブルベッドに買い換えようって話してる。……ところで、俺と2人で話したいってことって何だ?」

「それはね……」


 雫姉さんは俺に近づいて、


「美優ちゃんとは最後までしたの?」


 耳元でそんなことを囁いてきた。これはさすがに俺と2人きりじゃないと訊けないことだよな。

 万が一、誰かに聞かれている可能性もあるので、俺も雫姉さんの耳元で、


「……そこまでは、まだ。美優先輩とは……キスまでだよ」

「そっか、分かった。美優ちゃんっていう恋人ができたゆーくんに、お姉ちゃんから特別なプレゼントをあげる」


 そう言って、姉さんはスカートのポケットから取り出した茶色い紙袋を俺に渡してくる。その中身を見てみると――。


「……おい。これを高校生の弟にプレゼントする大学生の姉が普通いるか?」

「どうかなぁ? ただ、2人は高校生だよ? できないようにするのは大切だよ?」


 そう、紙袋の中身は……男女が色々なことをしたときに、色々とできてしまうことを避けるために用いるものである。まったく、姉さんはとんでもないものをよこしやがって。本当にとんでもない姉だ。


「まあ、姉さんの言うことは正しいし、そういうことをするときは自分だけじゃなくて美優先輩のことも考えないといけないからな。有り難く受け取っておくよ」


 今まで、キスよりも先のことを考えなかったと言ったら嘘になる。恋人になってから、タイミングを掴めずにこういうものを買うことができていなかった。まさか、実の姉からもらうことになるとは。情けない気分にもなる。

 すると、雫姉さんは小さく声に出して笑い、


「美優ちゃんのことを大切にしながら愛を育むようにしてね。いずれは夫婦になるように頑張ってね」

「……どうも」


 俺は扉が開いていないことを確認して、勉強机の引き出しの一番奥に、姉さんからの特別なプレゼントをしまっておくことに。ここに入れておけば、姉さんがバラさない限り、誰かに見つけられてしまうことはないだろう。


「さあ、戻ろうか、姉さん。あと、今の話は内緒な」

「もちろん。だから、2人きりで話そうって言ったんだから」


 俺と雫姉さんは美優先輩達が待っているリビングに戻るのであった。

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