第17話『姉妹がやってきた』
6人で紅茶を飲みながら、雫姉さんと心愛が来るのを待つことに。
また、食卓には4つしか椅子がないので、足りない分は寝室にある美優先輩と俺の椅子を使っている。食卓の椅子が4つあるのは、前に住んでいた白鳥武彦さん・白鳥久美子さん夫婦が買ったものだから。2人暮らしだけど、正月やお盆に息子さん達が帰省した際に使うためのとのこと。
朱莉ちゃんと葵ちゃんが家に来たこともあり、話題はもっぱら白鳥家について。また、2人がアルバムを持ってきたので見ることに。
「アルバムを見ると、美優先輩は小さい頃から可愛いんだって分かりますね」
「由弦君にそう言われると照れちゃうな。家族や親戚だけならまだしも、それ以外の人に見られると何だか恥ずかしいよね。去年、瑠衣ちゃんに見せたときは不思議とそんな気持ちにはならなかったんだけど。親友だからかな? それとも、凄く喜んでいたからかな」
「可愛い親友のこれまでの姿を見られるんだもんっ! 喜ぶに決まっているじゃないっ! 久しぶりに見るけど、小さい頃の美優もいいって再認識したわっ! 幸せ……」
花柳先輩はとても嬉しそうな様子でアルバムを見ている。有頂天という言葉は今の先輩のようなことを言うのだろうと思った。
あと、家族や親戚以外の人にアルバムを見られると恥ずかしいという美優先輩の気持ちもよく分かる。美優先輩ならまだしも、風花や花柳先輩に見られるのはなぁ。
雫姉さんや心愛もアルバムを持ってきてくれることになっているけど、その内容が不安だ。小さい頃のことを思い出すと、様々な場面で姉さんが俺や心愛のことを写真撮影していたから。美優先輩が喜んだり、満足したりする内容であることはもちろんだけど、風花や花柳先輩が俺のことをバカにするネタになりそうな写真が入っていないと願いたい。
――ピンポーン。
うん? インターホンが鳴っているな。今はまだ2時半過ぎだけど、予定より早く2人が早く到着したのかな。
「俺が出ます」
俺はモニターで来訪者の姿を確認する。画面に私服姿の霧嶋先生の姿が映し出される。
「はい」
『霧嶋です。その……暇だったので、昨日のお言葉に甘えて遊びに来ました』
「分かりました。今すぐに行きますね、霧嶋先生」
俺が霧嶋先生の名前をはっきりと言ったからか、みんなの方を見ると美優先輩が俺に向かって頷いてきた。
玄関に行き、扉を開けると、そこにはロングスカートに長袖のブラウス姿の霧嶋先生が。
「こんにちは、桐生君」
「こんにちは、霧嶋先生。俺の姉妹はまだですが、美優先輩の妹さん達は到着しました。どうぞ上がってください」
「ええ。お邪魔します」
霧嶋先生を家に招き入れる。美優先輩と同居しているという特別な事情があるとはいえ、入学して1ヶ月も経っていないうちに、自宅に何度も担任教師が遊びに来る生徒もそうそういないだろう。
「そういえば、今日の先生の服装は普段とは違った雰囲気でいいですね。可愛いですよ」
「そ、そう? どうもありがとう」
すると、霧嶋先生の頬はほんのりと赤くなり緩む。あと、視線がちらついている。
「学校ではスーツが基本ですけど、今のようにカジュアルな格好はしないんですか? 大宮先生はそういった格好が多いですけど」
「スーツを着ると気が引き締まるというか。教師としてのスイッチが入るの。ただ……か、可愛いと言ってくれるなら、あなたが卒業するまでに一度はこういったラフな格好で学校に行くことにするわ」
「ええ。そのときを楽しみにしていますね」
卒業するまでって。ようやく入学したことの余韻が抜けてきたのに。さすがに、まだ現実味がないな。気長に待つことにしよう。
霧嶋先生と一緒にリビングに戻ると、まるで部活のように美優先輩達は声を揃えて「こんにちはー」と元気に挨拶した。
「みなさん、こんにちは。そちらのロングヘアの子と、ツーサイドアップの子が白鳥さんの妹さん達なのかしら?」
「そうです。ロングヘアが朱莉で、ツーサイドアップが葵です」
「初めまして、白鳥朱莉といいます。中学1年です。姉がお世話になっています」
「初めまして! 白鳥葵です! 小学5年生です。とても綺麗ですね……」
「どうもありがとう。大学のミスコンで優勝した経験があるわ。初めまして、陽出学院で教師をしている霧嶋一佳です。今年で社会人4年目です。桐生君や姫宮さんのいるクラス担任をしているわ。教科の担当は……朱莉さんや葵さんにとっては、国語というのが適切かしら。去年はお姉さんや花柳さんのクラスにも教えていたわ」
「霧嶋先生、そこの椅子を使ってください。紅茶を淹れてきますね」
「ありがとう。そのお言葉に甘えさせていただくわ」
さっきまで俺が座っていた椅子に霧嶋先生を案内し、俺は彼女の分の温かい紅茶を淹れる。白鳥家のアルバムを見ているのか、さっそく「かわいい」という彼女の声が聞こえてきた。
霧嶋先生に紅茶を出し、席が全部埋まってしまったので美優先輩の後ろに立つことに。
「姉さん、霧嶋先生とは仲がいいのですか? 休日に家に遊びに来ていますから。もしくは由弦さん繋がりですか?」
「去年、お姉ちゃんと瑠衣ちゃんは一佳先生に現代文と古典を教えてもらっていたし、お姉ちゃん達のクラスの担任の成実先生と仲が良くてね。料理部にも顔を出していたし、高校では成実先生の次に付き合いのある先生だよ」
「大宮先生と仲がいいのですね。そういえば、去年の夏に大宮先生と会ったとき、高校に真面目で可愛い後輩の先生がいると仰っていましたね」
「そんなこと言ってたね、朱莉お姉ちゃん」
去年の夏にここに遊びに来たとき、朱莉ちゃんと葵ちゃんは大宮先生と会ったんだ。女性の担任ということもあってか、プライベートでも結構な親交があるんだな。
また、今の朱莉ちゃんの話を聞いた霧嶋先生は顔をほんのりと赤くして俯きがち。
「今年度は由弦君と風花ちゃんの担任になってね。由弦君と私が一緒に住んでいるから、ちゃんと生活できているかどうかを確かめるために、定期的に家庭訪問をしてくれているの」
「まあ、あたし達も定期的に先生の家を――」
「姫宮さん」
霧嶋先生は学校で見せるようなキリッとした表情になり、鋭い目つきで風花のことをじっと見ている。自宅のことについては、俺達はもちろん、大宮先生を招待したりと少しずつ解禁しているようだけど、他人にむやみに話されるのは嫌なのだろう。
風花は苦笑いをして、
「な、何でもないよ。あたしは隣に住んでるからさ、休日はここで何度も先生と会ってるの。この前、あたしが風邪を引いたときは、休日なのにあたしの家までわざわざお見舞いに来てくれたし。優しくて可愛い先生だよ」
「……か、可愛いとまで言われるとさすがに照れてしまうわ」
「今の一佳先生も可愛いです! 成実先生の言っていたとおりだね、朱莉お姉ちゃん」
「ええ、そうですね」
「……ううっ」
照れが限界に来てしまったのか、霧嶋先生は真っ赤な顔を両手で隠してしまった。そんな先生のことを、みんなが微笑ましく見ていた。
口には出さないけれど、今の先生が可愛いのは俺も同感だ。
――ピンポーン。
うん? またインターホンが鳴った。時刻は午後3時近いし、今度こそ雫姉さんと心愛だろう。
「また俺が出ますね」
モニターで確認してみると、予想通り雫姉さんと心愛だった。
「雫姉さん、心愛。待ってたよ」
『えっ! お兄ちゃん、どうしてあたし達だって分かるの?』
『インターホンのここにカメラがあるじゃない、ここちゃん。きっと、中には外の様子が確認できるモニターがあるのよ』
『なるほどね!』
すごーい、と心愛の顔がドアップに。心愛と朱莉ちゃんが同じ学年だとは。ちょっと信じられないな。
「今出るからね。……雫姉さんと心愛です。ちょっと待っていてくださいね」
「うん、分かった。緊張するなぁ」
美優先輩は2人とテレビ電話で話したことがあるけれど、実際に会うのはこれが初めてだからな。1人は年上だから、より緊張してしまうのかもしれない。
玄関に行き、ゆっくりと扉を開けると、そこには大きなバッグを持った雫姉さんと心愛が立っていた。ロングヘアに白いカチューシャを付けた雫姉さんに、ショートボブの心愛。さすがに1ヶ月程度じゃ変わらないか。
俺と実際に顔合わせたからか、雫姉さんと心愛はぱあっと嬉しそうな表情になる。
「久しぶりだね、雫姉さん、心愛」
「久しぶり、お兄ちゃん!」
「久しぶり、ゆーくん。予定通りに来ることができたわ」
「うん。無事に2人と会うことができて安心したよ。美優先輩の妹さん達はもう来てるよ。さあ、上がって」
「お邪魔します!」
「お邪魔します。3日間お世話になるよ」
雫姉さんと心愛からバッグを受け取って、2人のことを家の中に入れる。さすがに2人のバッグを同時に持つとキツいな。
「それにしても、お兄ちゃんと会うのは1ヶ月ぶりだけれど、美優さんっていう恋人ができたからか、凄く……男になった感じがする!」
「ここちゃんの言う通りかも。久しぶりに会うし、彼女ができたからか凄く色気があるわ。やっぱり、世界一かっこいい男の子はゆーくんだよ!」
大きな声でそう言い、雫姉さんは興奮した様子で俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。そのことに驚いて2人のバッグを床の上に落としてしまう。
「あぁ、ゆーくんの匂いと温もりはたまらないわ」
「いいなぁ、お姉ちゃん。じゃあ、あたしは後ろから」
心愛がそう言うと、程なくして後ろからも温もりが。家でも2人から抱きしめられることは数え切れないほどにあった。なので、相変わらずだなと思う。ただ、久しぶりに会ったから2人が俺のことを抱きしめたくなるのも分かる。
それに、こうやって姉と妹の温もりや匂いを実際に感じると凄く安心する。
「ゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんゆーくん!」
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
俺と久しぶりに会えて嬉しい気持ちは伝わってくるけど、前後から同時に俺のことを連呼されるとさすがに恐い。一瞬、寒気が2人の温もりを勝ったぞ。
「ふふっ、由弦君はお姉様と妹さんに好かれているんだね」
背後から美優先輩のそんな言葉が聞こえてくる。そのことで、姉妹からの抱擁が解かれた。
振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべている美優先輩の姿が。さっきは緊張していたのに。俺が姉妹に前後から抱かれるという光景を見て緊張がなくなったのかな。あと、リビングの方から風花達がこちらを覗いている。
「あなたが美優ちゃんね。実際に会うと本当に可愛いわ」
「ふふっ、ありがとうございます。こうして実際に会うのは初めてですね。初めまして、由弦君と一緒に住み、先日からは恋人としてお付き合いすることになりました、私立陽出学院高等学校2年の白鳥美優といいます。あと、このあけぼの荘の管理人もしております。よろしくお願いいたします」
美優先輩は彼女らしい優しい笑みを浮かべながら、落ち着いた口調で自己紹介をした。こういうところはさすが先輩だと思う。アパートの管理人をやっていることも影響しているのだろうか。
雫姉さんと心愛は笑顔になって美優先輩のことを見る。
「弟の由弦が同居人として、そして恋人としてお世話になっています。私達も自己紹介しようと思うけれど、奥にたくさん人がいるし、そっちに行ってからでもいいかしら?」
「もちろんです。さあ、どうぞ」
俺は雫姉さんと心愛のバッグを持って、美優先輩達の後に続く。
今、リビングには8人の女性がいる。こうして見てみると凄い光景だな。雫姉さんや妹の友達が遊びに来たときでもせいぜい数人だった。
「ゆーくん凄いね。こんなにもたくさん可愛い子や美人な子を呼び寄せるなんて。約1名、私よりも年上そうな女性がいるけど」
「ここが俺だけじゃなくて美優先輩の家でもあるからだよ。1人年上の女性がいるのは正解で、俺と姫宮風花っていう金髪の子の担任の先生なんだ。……みなさん、こちらが俺の姉の雫と、妹の心愛です」
「初めまして。桐生雫といいます。大学2年です。弟のゆーく……由弦がお世話になっております」
「初めまして。桐生心愛です。中学1年生です。3日間、お姉ちゃんと一緒にここでお世話になります。よろしくお願いします」
ちゃんと自己紹介できたので、心愛の頭を優しく撫でる。そのことに雫姉さんが羨ましそうな様子で見ていたので、姉さんの頭も優しく撫でた。
その後、風花達が雫姉さんや心愛に向けて自己紹介を行なう。2人はそれを楽しそうに聞いていた。途中で、雫姉さんが白鳥3姉妹のことを嬉しそうに抱きしめることもあったけど。
朱莉ちゃん、葵ちゃん、雫姉さん、心愛が無事に来てくれて安心したのであった。
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