第61話『膝の上、胸の中、君の舌。』
美優先輩の作った朝食のおかげで元気をもらった。なので、俺が朝食の後片付けを。2人分の食器を洗うことにも慣れてきたな。
後片付けがそろそろ終わるタイミングで、リビングからコーヒーのいい香りが。美優先輩が食後のコーヒーを淹れてくれたのか。有り難い。
片付けが全て終わり、リビングに戻ると美優先輩がソファーに腰を下ろしていた。側にあるテーブルには、湯気の立ったコーヒーの入ったマグカップが2つ。
「後片付け、終わりました」
「ありがとう、由弦君。コーヒー淹れておいたよ」
「ありがとうございます。いただきます」
美優先輩のすぐ側に座り、先輩が淹れてくれたホットコーヒーを飲む。俺の好きな苦味の強めなブラックコーヒーだ。コーヒーの苦味のおかげで、気持ちが落ち着いていく。
「とても美味しいです。ありがとうございます」
「良かった。由弦君、学校の自販機やコンビニでコーヒーを買うときはブラックが多いから。それをスマホで調べてみたら結構苦味の強いコーヒーで」
「苦味の強いコーヒーが好きですね」
美優先輩はブラックコーヒーが苦手だから、飲むことはせずにスマホで味を調べたのか。それが何とも可愛らしい。
俺好みのコーヒーを淹れてくれたお礼に、美優先輩にキスする。突然のことだったからか、唇が触れた瞬間に先輩は体をビクつかせた。
「もう。いきなりキスされたからビックリしちゃったよ」
「俺好みにコーヒーを淹れてくれたのが嬉しくて。……ダメでしたか?」
「ううん、そんなことないよ。ビックリしただけで、キスしてくれたことは嬉しいし。由弦君と恋人同士なんだなって実感する。……おかえし」
美優先輩は俺の両肩を掴んでキスしてくる。しかも、舌を絡ませて。先輩にとってのキスはこれが普通なのだろうか。2人きりだからか。それとも先輩のテクニックが凄いからか。はたまたコーヒーの濃厚な香りがするからか。今の状況をすんなりと受け入れられる。
美優先輩の方から唇を離すと、とても可愛い笑顔で至近距離で俺のことを見つめてくる。
「コーヒー、とっても美味しい。ブラックコーヒーも悪くないかも」
「俺の唾液が混ざっていますけどね」
「きっと、由弦君の唾液には旨み成分があるんだよ」
旨み成分って。笑顔でそう言われると本当にそうなんじゃないかと思ってしまう。
すると、美優先輩ははっとした表情になり、
「そうだ! 話が変わるけど、私の胸の中に飛び込んできてくれないかな。さっきは私が由弦君の胸の中で頭をスリスリしたんだし」
ほらっ、と優しい笑みを浮かべて両手を広げてくる。俺達は恋人になったんだし、付き合っている相手と同じことをすると考えれば……いいか。
「分かりました。では、ご厚意に甘えて……美優先輩の胸の中に頭を埋めてみます」
「はーい、いらっしゃーい」
勇気を出して、俺は美優先輩の胸の中に頭を埋めてみる。
下着を着けているはずなのにとても柔らかい感触で、温かくて、甘い匂いがする。豊満な胸だからこそ感じられるのだろう。あと、ニットのセーターを着ているからか肌触りもいい。
恋人の胸に頭を埋めるのって何て幸せなことなのだろうか。さっき、美優先輩もこんな感じだったのかな。あと、雫姉さんにも同じようなことをさせられたことがあるけれど、こんな気持ちは抱かなかった。
美優先輩は顔を埋める俺のことを抱きしめてくる。美優先輩に包まれるってまさにこういうことを言うんだろうな。
もし、このまま眠ったらいい夢を絶対に見られそうだ。万が一、このまま死んだら……お前はいい環境で死んだのだから、地獄に行けと閻魔大王様に言われそうだな。
「由弦君、私の胸はどうかな?」
「……凄くいいです。幸せな気分になります」
「そう言ってくれて嬉しいなぁ。私も由弦君の胸に頭を埋めたときは幸せだったよ。じゃあ、今度は頭をスリスリしてみよっか」
「そ、それはやってしまっていいことなのでしょうか」
「やっていいに決まってるよ」
「……はい。では、お言葉に甘えて。失礼します」
俺は頭をスリスリしてみる。そのことで美優先輩の胸の柔らかさを更にはっきりと実感する。温もりや匂いも。
「んっ……」
美優先輩のそんな声が漏れたので、胸から顔を離して見上げてみる。すると、はにかんでいる美優先輩と目が合う。
「由弦君のスリスリが上手だから声が漏れちゃった」
「可愛かったですよ」
「……もう」
俺の言葉が不満だったのか、それとも照れくさかったのか、美優先輩は俺の頭を自分の胸に押しつけてくる。力がとても強いので段々と息苦しくなってくるな。
このままだと本当に美優先輩の胸の中で死ぬことになりそうなので、右手で先輩の背中を軽く叩いた。そのことでようやく解放される。
「はあっ、はあっ……死ぬかと思いました」
「ご、ごめんね。もう、変な声が出ちゃったから恥ずかしかったのに。可愛いなんて言うからより恥ずかしくなっちゃったよ」
「……すみません」
美優先輩の頭を優しく撫でると、彼女はすぐにほんわかとした笑顔を見せる。
「もちろん、恥ずかしいってだけで、怒ってないからね。それに、可愛いって言ってくれることは嫌じゃないから」
「……そうですか」
なかなか女性の心は複雑のようだ。姉妹がいるので、少しは分かっていたつもりだったんだけれど。これからは恋人として付き合っていくのでちょっとずつでも勉強していかないと。
「……ねえ、由弦君。お願いがあるんだけれど」
「どんなことですか?」
「……膝枕をしてほしいなって。瑠衣ちゃんに告白される前、私が膝枕の話をしたときに風花ちゃんが由弦君の膝の上に頭を乗せていたじゃない。それが羨ましくて……」
「もちろんいいですよ」
「ありがとう!」
美優先輩はお礼を言うと、すぐさまにソファーの上で仰向けの状態になる。そして、俺の脚の上にそっと頭を乗せた。
「俺の脚はどうですか?」
「体が大きいからかゆったりしてる。あと、お着替えとか温水浴のときとかに筋肉質な脚を見ていたから、もっと硬いイメージがあったよ。でも、実際はそうでもないんだね。気持ちいいよ」
「それは良かったです。こうして膝枕をされている美優先輩は可愛いですよ」
「……えへへっ」
嬉しそうに笑っている美優先輩の頭を右手で優しく撫でる。
ただ、右手は彼女の頭に触れればいいとして、左手のやり場に迷うな。先輩の体に触れるのも気が引けるし、ソファーの背もたれに置くのも味気ないというか。
「どうしたの、由弦君。左手が迷子さんになっているけど」
「左手のやり場に迷っていて」
「私の体の上に乗せてくれていいのに。恋人なんだよ?」
「……では、お言葉に甘えて」
ちょうどいい位置にあるのが美優先輩の胸だけど、そこではさすがにまずいと思ってお腹の部分に左手を置いた。
「お腹に由弦君の温もりが伝わってきて気持ちいいな。でも、朝ご飯を食べてからそこまで時間も経っていないから、お腹が出ていないかどうか心配だな」
「そんなことありませんよ」
美優先輩のお腹をさすっても全然出ている様子はない。それに、出ているものはお腹のすぐ近くに2つもあるじゃないか。しかも、ボンと。
「ところで、私達が恋人として付き合うことを報告した方がいいかな? 週が明けたら自然と学校で広まると思うけど」
「色々な人に自分から言うのは気が引けますね。ただ、風花には告白を応援されたので、彼女にはすぐに伝えようと思います」
「分かった。じゃあ、私は瑠衣ちゃんに伝えようかな。彼女は告白を振った相手だけど、高校での一番の親友でもあるから」
「いいと思います。風花にはメッセージで伝えようと思います」
「私は瑠衣ちゃんに」
すると、美優先輩は体をゆっくりと起こして、テーブルの上に置いてあるスマートフォンを手に取る。
フラれたにも関わらず、風花は俺の恋を応援してくれたんだ。彼女にはちゃんと伝えないと。
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