心が、無限にあることは。

 『病院』で処方してもらった薬を受け取り、帰途につく。


 先生は、『自分のことをそんなにいじめないで』と言っていたなぁ、僕にはそんなつもりはさらさらないのに。

 だって僕はおかしいんだ。『当たり前』ができないんだ。だからいっぱい勉強して『普通』にならないといけないんだ、自分が考えることは全部、『間違っている』んだ。


 でも、自分の心のこと、自分と同じ病気のひとのことを、先生から聴くのは嫌いじゃない。ひとの心について考えていると、なんだかわくわくするんだ。

 もともと読書がすきで、病名がわかってからは、心理学の本は、特にいっぱい読むようになった。母さんは、『お前はすぐ真に受けるからやめてくれ』と嫌な顔をするけれど。

 だって不安なんだ、何が僕をこんなに苦しめているのか、りたいんだ。


 そして知ったことは、同じ病気だとしても、たくさんの症例があって、特性があって、何ひとつとして同じ事例はないということ。


 それは『普通のひと』たちも同じで、心はひとりひとり違っていて、無限にその世界は広がっているんだ。


 ひとりひとりの小さな人間の中に、宇宙のような広い気持ち、きっと『愛』も広がっている――……と思うと、なんだかたまらなく怖いような、でも同時に、信じられないほどうれしいような気持ちになって。


 僕は、気がつくとスマートフォンを取り出し、いつも読むだけにしていた小説投稿サイトの、著者登録ページ画面を、生まれて初めて見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る