第5話

「こんにちは。入ってもいいですか?」

ドアの外から話しかけてみるが返事がない。今は午前11時。中にはいるはずだ。

「入りますよ?」

入るとあの子は眠っていた。手術後はお見舞いに来る人が多くなるはずだが1人もいない。

「寝てらっしゃるんですか?」

もう一度話しかけるが相変わらず寝ている。わずかに寝息が聞こえる。ベッドの隣にある丸椅子に腰掛ける。透き通るような白いきめ細かい肌。長いまつ毛。高い鼻。フランス人形のようだ。時間がどんどん流れていく。この部屋は防音なのだろう。騒がしい外の音も一切聞こえない。優人が来て15分程度経ったところだろうか。不意に女の子が目を覚ました。

「長島さん?長島さんだよね?」

小さいがしっかりと筋の通った声で話しかける。

「そうです。おはようございます。手術は成功したようです」

そういうと安堵の表情を浮かべてにこっと笑った。

「目を覚ましたらナースコールで呼べと言われたので呼びますね」

しばらくすると執刀医と看護師2人が入ってきた。

「いやぁ良かったですね!手術は無事成功です!後遺症も今の所見つかっておりません!このままリハビリを続けていけば学校に行くのも夢ではないですよ!」

口々におめでとうと祝福の言葉を贈る。でも学校に行けるようになったらもう会えないのかと考えると心苦しくなる。本当は喜ばないといけないはずなのに。

「リハビリは明日から毎日しますからね。長島さんももう来なくていいですよ。」

「……はい」

(やはりあの子には僕は必要ないんだ。あとは医者がやってくれる。)

優人はうつむき加減で病室を出た。あの子がどんな顔をしているのか見たかったが、あの子の顔を見ると、涙が溢れてしまいそうでやめた。心の中にぽかんと大きな穴が空いたようだ。あの子に見せようと持ってきていた美しい景色が載っている写真集も川に投げ捨てる。それからどうやって家に帰ったかは覚えていない。

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