第28話 女神のルルブ(ルールブック)

 ――残念。立ち上がったとたん、ヒグマが来ます。


 戦闘?


 ――戦闘。


 あきらめて、横たわります。男の子まだいる?


 ――いる。


 ――助けをもとめます。


 ――『いいよ』『こいつにしろ』白梅さんが言います。いつまでたっても、ヒグマは襲ってきません。


 話せます? ヒグマと。


 ――残念ながら、言葉がしゃべれませんから。ヒグマ。


 念を送る。


 ――残念。誰かが邪魔している。


 だれ? さぐる。


 ――さぐるか。いいでしょう。『仲間がいるよ』(だれかに)『呼べば』ヒグマはちゃんとしつけられています。


 もっかい立ち上がって、ヒグマにしがみつきます。


 ――いいの? ヒグマはとたんに組みつきます。


 ああ、死ぬのか、と思います。


 ――残念。顔にうつって出ていたのは、クマがいきなり襲いかかってきた情景です。


 死ぬ。


 ――残念。ゲームオーバーだよ。


 バッタリ。


 ――じゃあ、ヒグマは引く。


 どういうしくみ?


 ――ヒグマはこう、組みつくと、いっきに押し倒す。倒れたら、引く。


 寝っ転がってるわ、もう。


 ――当然、日は落ちます。残念、セッション終了。


 謎なままだったな。屋敷とか。


 ――もう一度やる?


 はい。


 ――寝っ転がってどうする?


 男の子に助けをもとめます。


 ――いいよ。そして?


 帰るから許してと言う。


 ――いいよ。『助けたら、言うこときくな?』


 はい。


 ――『許そう』そして帰りましたマル


 グッドエンディング?


 ――終了。……『バチアタリめが!』とかいう、セリフもあったんだけど……。


 話を面白くしたほうがいいの?


 ――もちろん。勇気をだして、覆いかぶさって『ハイヨー!』とかけ声かけるとか。


 重傷なんでしょ?


 ――早くして。


 やるの!?……じゃあ『ハイヨー!』


 ――はい。死にます。一発で。……セッションは終わらないけど。


 そして? 私死んじゃったよ? どーすんの?


 ――冷気を感じます。


 死んでいるのに!?


 ――いいから、早くしろよ。


 ひんやりしている。何? この感じ……。


 ――はい! 目がさめて、目の前に誰かいます。


 見える?


 ――見えない。


 気配とか感じる?


 ――感じます。


 そこにいるのは、誰? ここはどこ? 私はどうしたの?


 ――はい。そしたら、声がします。『まだ寝てなさい。勇気は認めるけど、あまりにも蛮勇です。ヒグマがあなたを認めなかったら、死んでいました』


 え? 生きてる……の? 私、死んだと思ったのに。


 ――目は見えない。


 手は動く?


 ――動く。


 手探りで、体を確かめます。


 ――おかしいですね。


 なにが?


 ――起き上がらないの?


 ここはどこ? まずたずねます。


 ――バーン! あなたは死にました。


 なぜだ。


 ――ヒグマが仲間として、認めたのに。


 仲間? どういう趣向なの、このシナリオは!? 目が見えない! て主張します。


 ――生き返ります。体は無事です。


 起き上がろうとする。


 ――残念。手は縛られています。


 なんじゃこりゃー。叫びます。


 ――『あなたは一度死んだのです』声がします。『復活の呪文をかけて、そばに置いているのは、あなたが勇気ある者だから』一回閉じます。


 セッション終了?


 ――まだ。


 シーン切るってこと?


 ――そうです。




 おつかれです、女神。やってみると楽しい。


 ――楽しいの?


 あっという間に死んだり、生き返ったり、ハラハラする。


 ――あなた、ドキドキハラハラはしたくないって。


 ドキドキわくわくね。したくないですよ。でもさすがにね、こう何度も死ぬ目にあってると肝が据わってくる。


 ――OK.またやろうね!


 ありがとうございます! セッション楽しかった。


 <蛮勇>完!




 ――急いで、早く!


 え? なにを?


 ――次のシーンです。いいですか?


 や、ちょっとまって。記録紙ないから持ってくる。


 ――早くして。


 ――早くしろよ。


 今、何人いるの?


 ――3人。おまえ含め、4人!


 ええと、女神と、あと2人ね! 3と4?


 ――うん。


 ――ええ。


 ――はい。


 番号ふる?


 ――ふらなくていい。おまえ以外、参加していないも同然だから。


 さびしいな。


 ――いいから、早く!






 記録紙持ってきました!


 ――はい。最初からもっぺんやるね?


 最初ってどこの最初?


 ――一番最初。


 崖から落ちて――?


 ――ヒグマが襲ってきて、『ハイヨー!』て。


 ああ、なんか訓練されてるらしいんだったよね。ヒグマ。


 ――そうです。


 神さまかなにかの乗り物なの? ヒグマ。


 ――残念、プロットには書いてないんだ。


 じゃあ、半分野生ってことで。


 ――はい。そうです。


 じゃ、以前、人間に飼われていたとか?


 ――はい。残念ながら、あなたはわからなかった。


 よく見てなかったからね。


 ――はい。よく見ないとだめですよ。


 で、今なぜか、


 ――丸裸で、


 手を縛られ――て、え!? 丸……っ!?


 ――精神値チェックね。


 いきなり!? 5と2。


 ええとね。精神値チェックはね、変わる前のことがわかります。


 ええと?


 ――『しばらく前に、ジェットコースターに乗ってヒグマの遊園地をのぞきました』


 そしたら?


 ――『あっという間にジェットコースターが終わってしまいました』


 一瞬じゃん! 何か見えた?


 ――残念。<垣間見>完!




 ヒグマの遊園地ってなに?


 ――ようするに、ジェットコースターわきに、公演があって……回りくどく言うと、ヒグマが(訓練されたヒグマが)ゆうえん……サーカスだ。サーカスにしようか、遊園地にしようか迷ったんだよ。


 遊園地の中で、ヒグマが玉乗りみたいなことをやってたと。


 ――そういう意味じゃなくって。


 ヒグマはもと、人間?


 ――そういうことです。


 女神、落ちついて説明して。急がないから、暇だから。


 ――しまったぁぁ! おもしろい事言おうとしたのに!


 笑えばいいの?


 ――そうじゃなくって。おもしろいこと。二重人格でしたとか、そういうの。


 ネタか!


 ――そう。ネタ、ねた。


 どういうの?


 ――えっとね。ヒグマは挨拶をしました。


 私はそれがわかるの?


 ――はい。


 そりゃおもしろいなー。で、現状どんな感じ?


 ――セッション終了です! また、来週――!


 え――!?






 すべてが謎じゃん!?


 ――確かに。


 ――ユニーク。


 ――工夫したんです。せっかく仲間ができたのに、精神値チェックしたら、つまり……その……。


 なに?


 ――大事な事を思い出さない、と。


 じゃあ、全てが直感!? 私の頭。


 ――そーじゃないと。


 どうなってるの……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る