第27話 女神のシナリオ

 ――『天からの声がします……おとなしくしていれば、みんな助かります』


 ここは、助かるのが第一?


 ――そうだな。


 おとなしくしていよう。


 ――『クマは去りました』


 ――今、しゃべりました? しゃべってますよね?


 え? それは気のせいなんでは?


 ――(あなたは)しゃべれませんから。


 首を横に振ります。力なく。


 ――そっかぁ、今しゃべってたのは誰なんだろう。


 泣きます。


 ――精神値チェック。


 5と6。


 ――号泣です。


 ――あー、確かに。


 ――それくらいしかできねーでしょ。


 号泣って相当でしょ? 力ふりしぼって動けない?


 ――動けます。


 ――だれか、松明持ってる?


 暗いの? あたりは。


 ――やっと、聞いてくれた。


 ――はい、真っ暗です。


 よく無事だったよ。……そこに誰かいるの?


 ――います。


 あの、私重傷みたいなんですけど、助けてくれませんか?


 ――こっちもです。


 あー、私、水木といいます。あなたは誰ですか?


 ――あー、えとね。白梅といいます。


 ――どうしてここへ?


 女神!


 ――精神値チェック。


 6と6。


 ――かぶりをふって。


 ぜんぜん思い出せない……。


 ――そう、ぜんぜん思いだせないのでした。


 一時的なショックでとか、そういうアレじゃないの?


 ――そうなんです。


 おいおい思い出せそうだな。あの、白梅さんはどうしてここへ?


 白梅――………………。


 ――お互いに紹介しましょう。『あなた方は探索者ではありませんでした』


 はい?


 ――説明して。


 ――とにかく、クトゥルフはおいておいて、TRPGのやり方を勉強してください。


 ……ここは森なんだよな?


 ――クトゥルフ!


 ドリームランドか?


 ――クトゥルフ!


 さっきのあれは、ヒグマでしたよね?


 ――すごい! あそこから生還するなんて、とても信じられない。


 私たち、すっごいラッキーですよね!


 ――(ドンカン!)


 なにかの縁を感じます。


 ――精神値チェック。


 3と2です。


 ――おたがい、友情を結びます。


 おたがい、無事でよかった!


 ――ああ、ああ!


 よかったよかった!


 ――心臓止まるかと思った。


 ――け破るぞ、てめえたち。


 だれ? 水をさすのは。


 ――友情ごっこかよ!


 そういうあなたは誰ですか?


 ――オレはサンバンだ!


 女神、サンバンってどういう人?


 ――わかりません。私には。


 あなたもヒグマに襲われてここに?


 ――ああ!


 私たち、重傷なんです。手もとに連絡手段はありませんか?


 ――スマホか? チッ、ヘイ!


 あ、私、手動かせます?


 ――動かせます。


 スマホを手にとります。


 ――精神値チェック。


 6と3です。


 ――いくらでしょうか? あなたに借りは作りたくありません。(☆要チェック)


 白梅さん……サンバンさんは、動けるのですか?


 ――ああ。


 状態チェックできますか?


 ――できます。


 サンバンさん、どんな感じ?


 ――ええとね、どことなく、コドモ!


 動けるの? 彼? 彼女?


 ――彼です。動けますね。


 白梅さんに<彼に助けを呼んでもらいませんか?


 ――ええ、でも……。


 ――早くしないと、日暮れですよ。


 なにか気になることでも?


 ――「チッ」って言ったんです。


 ?


 ――私たちが落ちてきて、ここにいたんです彼は。それでヒグマが去ったときに「チッ」って。


 それは、犯人じゃないですか?


 ――はい。


 敵?


 ――うーん、ちがうな。


 森の守り神とか。


 ――あ! 正解!


 私達はあなたに、何かしましたか?


 ――『ああ!』


 ――ちょっとだけ、魅力を感じます。


 だれ?


 ――あなたに。


 私たちが、あなたに罰せられるほどの、なにを犯してしまったというのでしょうか?


 ――教えて。


 ――うん、こう言いますね『掟を破った』。


 ――掟?


 それは誰のための、どんな掟ですか?


 ――『うるさい! 帰れ! 今すぐにだ』


 すみません、重傷なので、助けがないと、動けません。ふもとか森の外に連絡を入れて欲しいのですが。


 ――『いいよ』彼は快く了承しますね。よく見ると美男子。


 私、自分の住所言えます?


 ――具体的には?


 連絡先は?


 ――あー、ソレ。まだまだ先のこと。


 どうやら、まだまだ家に帰れそうにない。


 ――そう、そして?


 この男の子に、頼るほか道はない。


 ――そして?


 どうして怒っているの? と聞く。


 ――あー、めちゃ怒るよ。


 私が悪いの? と聞く。


 ――『そう。それが村の掟だからな』


 取り返しつかないの?


 ――『つく』


 命と引き換えに?


 ――『そう』


 ――泣いて。許す。


 泣きます。


 ――はい残念。シカトされます。


 白梅さんは?


 ――ぐったりしています。


 応急処置できます?


 ――残念ながら、起き上がるのがやっとです。


 そうか、死ぬのか……と、目を閉じます。


 ――残念。ヒグマが来ます。


 彼が呼んだの?


 ――そう。『元気そうだ』『もうガマンができないよ』


 私、なにしたんだろ?


 ――さあ。今までのことが目に浮かびます。


 あ、目に焼き付けたから?


 ――そう。『攻撃してきたのは白梅さん』


 私を?


 ――そう。


 友情は!?


 ――残念。本物かどうか、チェック!


 ダイス何個?


 ――一個です。


 2。


 ――残念。(白梅)『コドモたち! おまえに喰われるのはわかった。こいつにしろ。二度と目に光が戻らぬよう、封印しろ』


 封印て!?


 ――起き上がりますか?


 力温存します。


 ――ほほう。それじゃあ、ヒグマは帰ります。白梅が言います。『ちきしょう。残念だ』


 あなたが、私を攻撃したんですね? 白梅さん、と言う。


 ――ほほう。『気がついたか』


『情景が目に焼き付いています。あれはあなただった。辺鄙なところに来たもんだ、と首に手をかけた。それから私はあなたに突き落とされた。辺鄙なのは、他でもない、あなたのしかけたワナがあったから』(回想終わり)


 なぜなんです? それにあなたは、怪我までして。一体崖の上でなにがあったの?


 ――『ふざけるな! 憎いからだよ、ブタが! あの屋敷に近づくのはオレとおまえだけだった。だから、村の掟を破ったのはおまえとオレと、だれかの手引きと。……誰かがオレを困らせたいからだ』


 なにが、困るの?


 ――ほほう。『だれでもいいだろう? おまえは本心からちゃんと向こう見ずなオレを止めてくれなかった。だからオレも止めなかった。おたがいさまだ』


 屋敷、見えます?


 ――見えます。恐ろしいくらい、見えてきます。ダイス振って、3回。


 3と3と6。


 ――見えます。『きれいに整えられている庭の方から、ひねくれた銀杏が見えます』ダイス振って4回。


 5、1、4、3。


 ――じゃあね、銀杏から出てきます。誰でしょうか? ダイス振って3回。


 6、6、6。


 ――じゃあ、立ち上がってみますか?


 はい。


 ――残念。立ち上がったとたん、ヒグマが来ます。

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