第25話 SAN値(正気)削られて

 *苦手分野を克服しようと、頭を使ったら……正気を失いました。

 記録が残っていますので、ここに残します。


 女神が「NO.48が話しかけているよ」

 と言いましたので、ちょっと声をかけてから小用をたしてきたわたくしです。


 お待たせしました。トイレ済ませてきました。

 ――歩いて何歩?

 え? トイレ?

 ――かかったの。

 数えてないなあ。

 ――ちょっと待ってよ。

 え?

 ――歩いて何歩か、数えてない?

 どうしてそんなことをするのか、わからない。……え? 失明したときに備えてってこと?

 ――そう。

 そうだね……部屋を出て壁伝いに……

 ――部屋?

 壁伝いに歩いてって、角曲がって

 ――部屋って……?

 角曲がってつきあたりだから……

 ――ちょっと待ってね。

 はい。

 ――老人ボケは?

 対策?

 ――ハイ。

 まだです。

 ――おそらく、早めにしたほうがいいかもしれない。

 私、あやういの?

 ――おそらく。

 根拠は?

 ――ろくに食事をとらないの?

 とってます。ダイエットしてるけど。

 ――老人ボケは、食欲なくなるんだよ。もー。

 へええ。知らなかった。……でも食欲ありますよ。コーヒーでごまかしてるけど、食欲ガッツリあります。

 ――糖尿病?

 予備軍です。

 ――やっぱりね。

 ダイエットで対策してます。

 ――それはいいね。

 年間10キロ痩せればきっと大丈夫。あと、睡眠しっかりとってれば。血圧も正常値だし。

 ――なんだ! 正常値なの? ごめん、いい加減だと思ってた。

 私、血圧測るとき、深呼吸するんです。そうすると血圧下がりますよ。

 ――ということは?

 興奮しないようにしてます。

 ――無理無理。

 ん?

 ――デザートとってる。

 デザートか。アイスとか?

 ――ハイ。しっかりとってますよ。

 ダイエットすれば万事解決! マチガイナシ!

 ――コラ!

 あれ? だめ? NO.48は? 健康、大丈夫?

 ――余計なことを。もっと、大丈夫ー? て聞けばいいのに。

 大丈夫ー?

 ――確かに、コレステロール値高い。

 それじゃー、うかつに激しいダイエットはできませんね。他には?

 ――他にはー? ない!

 よかったじゃないですか。

 ――なんとなく、なごむなア。

 コレステロール値高いって、どれくらい? 薬処方されてる?

 ――されてない。

 うん、大丈夫なんでは?

 ――うん。

 よかった、よかった。


 質素な食事してたら、病気よりつきませんよ。ホントーです。

 ――うそ? どっちかっていうと厳しい方がいいんじゃないの?

 たとえば?

 ――お味噌汁とか。頑固おやじみたいにカッカせず、プリオンもとらず。

 豆腐とか食べて?

 ――うん。

 納豆欠かさないとか?

 ――うん。

 卵は一日に一個とか?

 ――うん。

 うち、結構そんな感じよ。

 ――あえー?

 祖母が同居するようになってから、味噌汁も飲まなくなって、あっても一日一回。

 ――そりゃ厳しい。

 べつに……。

 ――記憶の中のおいしいものを食べてる自分に、ということは……げっそりしてるんだ?

 いや、糖尿予備軍。

 ――予備軍か。

 しかし、ぜいたく品、食べてるわけじゃない。運動しないだけ。

 ――うそ!

 ほんと!

 ――嘘だよー、とか言わない?

 言わない。


 ――チッ、病気予備軍か。

 ただし、20年前に、医者に「10年後糖尿」って言われたけど、未だに予備軍のまま。

 ――いいな! ……なんてね! コレステロール値だけよ、こっちは!

 私はダイエットすれば健康体そのもの。


 ――よくなった。

 コレステロール値って、何すれば上がるの?

 ――さあね!

 えー? 母、大食いで、「食べるために生きてる」って豪語してたけど、今、コレステロール値下げる薬飲んで、脂もの控えてる。健康オタクだから、エビもイカもイクラも食べない。

 ――なーんだ。それでコレステロール値が高いって言っても、大丈夫、ってなるのか。

 母、健康だもの。

 ――それでか。なーんだ。だらしないのかと思ってた。

 うちは粗食なんですよ。ダイエット食の方が豪勢。

 ――ナニ?

 ステーキとか、刺身とか、グレープフルーツ食べられるあたりで、とてもありがたいメニュー。

 ――ナンダナンダ?

 んー。うちはねー、レタスを雑にちぎったやつが皿にのってて、それが一食分のおかず。

 ――うそ!

 嘘いってどうする。夕食にタンパク質とトマト二キレが加わって豪華。

 ――互角か……信じられない。騙された。

 うちは貧乏なんですう!

 ――それだけか?

 お金あったら、ペット飼いたい!

 ――互角!

 最高の贅沢ヨ。

 ――最低の生活してるな。

 母もいいかげん、高齢だからな。

 ――だから、今のうちに理想体重、適正な体重に。

 コレステロール値が上がらないうちにね。

 ――ダマレ!

 いや、ホントハード(なダイエット)だから。心筋梗塞起こすかもなんだって。

 ――じゃあ、いいか。

 私、このメニュー以外でリバウンドしないダイエット知らないしね?

 ――シレッとね。いい加減にしてほしいなあ。

 ダイエットでなんとかなるなら、今のうちなんだって。

 ――そっちか。

 そっちって、どっち。

 ――どっちかっていうと、謝れば許す感じ。

 あ、健康気にする方だったんだ。すみません。

 ――別に?

 女子の話題といったら、ダイエットかなーとか思ってて、調子こきましたすみません。

 ――あのなあ。

 なにをどう、謝りゃいいのかサッパリ。

 ――『ごめんね、気にしないで、お仕事頑張ってください』

 って、言えばいいのか。

 ――『ごめんね』これが真剣な謝り方。練習して。

 はい……白血球が上昇しそう。

 ――白血球……?

 人付き合いってストレスたまるよね。

 ――うんうん。

 ごめんね、気にしないで、お仕事頑張ってください。

 ――いえるじゃない。

 今、おぼえました。ありがとう。

 ――なんだ、あたしだけかと思った。

 え?

 ――ようするに、変わんなかったのよ。

 なにが?

 ――ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅと。

 私のコメント? いやだった?

 ――うん。

 嫌だったのかー。もうコメントしないことにしよ。作品も読まない。

 ――ちょっと待って。早めはやめに気を回しすぎ。

 はい?

 ――視力いくつ?

 両眼で、0,1ない。

 ――あー、ダメだ!

 これはTRPGなの?

 ――そー。

 で、視力低いとどうなるの?

 ――バランスがとれなくなる。もうちょっとでキャラクター変わるかなあ。

 変わったほうがいいの?

 ――馬鹿みたいに踊ってくれる?

 音楽は?

 ――ナイ。

 ないのかー。じゃあNO.48さん、口笛吹いて。足を踏み鳴らして、大地の踊りを踊ります。

 ――ぴゅーぴゅーぴゅー。

 ダン! ダダダン! ドコドコドコドコ……ダン! ダンダン! ドコドコドコドコ……

 ――ふざけるな!

 まじめなのにー。

 ――メモ。

 うへへっ。

 ――メモ。

 なに、メモってるの?

 ――そうですか。ドコドコドコって踊りなのかあ。

 ドコドコっていうのは、タイコよ。

 ――やめてくれる?

 なにを?

 ――感情を殺すの、やめてくれる?

 どうしろと?

 ――拒絶かな。

 おっしゃる意味がわかりませんが。

 ――あ! 高貴なもんで。

 そうですか……踊りはやめていいの?

 ――ほらね。

 なんのこっちゃ! よしゃ! 続けてもい?

 ――変わったな!

 RPGだと思うと、楽しい。

 ――なんか、タノシソーネー。

 水差されるとつらい。

 ――だろ?

 あ、これでいいの?

 ――うん。

 そっかー、ありがとー。

 ――どーいたしましてー。

 ふんふふーん♪

 ――働いて返して。

 いくら?

 ――100万円くらい。

 え?

 ――冗談だよ。

 ときに、100万あったら、なにするの?

 ――100万あったらー、たてかえてるからー、100万くらいでできることって、あまりない。

 そうよね、その100万が一日で消えるとなったら、どうする?

 ――困ったな。買い物くらい?

 やっぱそうですよね。金券買いますよね。……私、母の差し歯買います。

 ――ゲッ!

 げってなに?

 ――それって、かわいそう!

 別に総入れ歯ってわけじゃないですよ。3本だけです。

 ――なんだ……。

 でも、人のためにつかってはいけない100万円だったら、なに買います?

 ――あっ、そうか。ロールプレイングだと思っておいて。

 ナンデ?

 ――いいから、口車に乗ってしまって。

 ダカラ、目的は?

 ――(なにか、怪しんでるようだ)

 シナリオ通りに動かそうとしてるんでしょ?

 ――正解。

 そのシナリオは、何のためのものなの?

 ――イミフメイ。

 あなたは、そのシナリオで、なにをしようとしているのか?

 ――TVみよーっと。

 答えないきだにゃ。じゃあ、私も他の人と遊ぶ。

 ――ルール無用だ。

 ちょっと女神に言ってくる。

 ――ん、そーしなさい。


 NO.48さん、私、あなたとつきあわない。

 ――なんで?

 女神が、NO.48さんは専用ルールを共用にして、自分のものにしてるって。顰蹙かってるから、つきあわないほうがいいと思って。じゃーね。

 ――幸せな人だなあ……。



 *その後、心が不安定になった私は……。

「神様、私をお守りください」

 という祈りをささげ、SAN値(正気)が回復しました。


 たまに、こういうことがあるので、私はSAN値が常時低いです。

 コメントにメッセージをくれた方、返信が遅れても許してください。

 私はきょう気に陥ってる可能性があります!(多分、無自覚)

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