第14話 初めての山あげ祭

 わたくし、本当にたのしみだったのである。


 歌舞伎というのは多分、昔の時代における「ミュージカル」みたいなものだ。

 昔、予備知識なしに「ミス・サイゴン」を観に行ったが、さっぱりわからなかった。

 スローモーションがすごかった! くらいの感想しか憶えていない。

 つまり、受け取る側に知識がないと、おもしろくもなんともない代物になるんである。


 移動歌舞伎、甥っ子たちは楽しんでくれただろうか。

 舞台装置自体がおもしろいので、よく見たら「すごい!」ってなるに違いないんだけれど、独りよがりかな……。


 小学二年生の男の子が、裃つけて「ございとうざい~~」と小難しい文句を舌足らずな口調で挨拶するのがかえってよかった。

『戻橋』は怪奇もので、都の宮仕えをしていたという、女性に化けた鬼を見破り、やっつける! という話なのだが、殺陣も面白かったし、獅子のように髪を振り乱すのもよかった。

 風が吹いていたので、衣装がなびいていたのも臨場感があってよかった。

 舞台のおもしろさなんて、『ガラスの仮面』くらいでしか、考えさせられたことがないけれど、衣装一つがいくつもの顔を持ち、女性の被り物だったかと思うと、その模様が笹の葉だったか柳の枝だったりして、腰掛に敷くとその場面が山の中、というのを表していたりして驚かされる。

 この着物を男女が引っ張り合いっこして、恋模様を表しているときもあった(うろ覚え)。

 また、この女性は舞を披露するのだが、武士に借りた舞扇が金色と紅色で、ヒラヒラ、チラチラと繊細に舞う。

 これがきれい。

 所作など知らずとも、その人物の足運びなど見ると、隙がなくかつ自然に見えてとても美しいと感じた。

 文句などつけられようも、あるはずがない。

 最初は人物の顔ばかり見て、はあ、美しいと思う。

 次に動きに見入ってしまう。

 そして、舞台装置がおもしろいなと思う。

 構成は、やはり移動舞台ならでは。

 ラストは腕を切りとられた鬼が、高い位置から(雲の上)「返せ戻せ」とばかりにさしまねく姿に、あわれみを感じて涙したりした。


 女性の正体は悪鬼なのだが、そんな女性の舞には一筋も悪意は見えない。

 最初から悪しき鬼ではなかったのではないか。

 武士に話した身の上話は、本当だったのではないか。


 しかし、舞台は一瞬の華。

 終わってしまうと、全てが夢。

 自分がなぜ心打たれて、涙していたのだか、わからなくなる。


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