第13話 大自然との絆

 子どもといると、ふしぎなことがおこる。

 やさしい気持ちになれるのである。


 2019年7月29日(月)。


 親せきの子たちと、父の田舎のヤナ川にいったのである。

(ヤナという川ではない。ヤナを仕掛けた川をヤナ川という)

 おおきくはしょるが、昼食をそこで食べる予定だったのだが、注文してからが長いので、子どもたちとヤナを見に行った。

 折からの大雨で、増水、濁流と化していた川は、たくさんの命を内包していた。

 ヤナに設置されたボックスの中を見ると、小さいものから、売り物になりそうな大きさのアユがピンピンはねていた。


 それでね、なにが不思議かと言ってみれば。

 ヤナにあがってくる小魚を獲るのはなかなかうまくいかないのだが、こう、無心になって魚を追う子どもたちを見ていると、時間がゆるやかに流れて。

 まだヤナの上でピンピンはねている魚に、両手をのべて、心の中で、

『お水の中にかえしてあげる……』

 と思うと、魚の方がすっと手の中に飛びこんでくる。

 そういうことが二、三回あった。


 大雨、雷の注意が母情報で来てたのに、遊んでいる間中、カンカン照りで。

 日焼け止めを塗ったとはいえ肌に突き刺すような痛みを感じた。

 それで、ヤナに涼を求めた。

 ずさずさと川の流れに足をつっこむと、ひいやりとして気持ちがいい。

 ズボンが濡れても気にならない。

 妹夫婦は腹のところに紅い筋の入った、きれいなトラジマの魚を次男に持たせて、パシャパシャスマホで撮っていた。

「ニジマスかな? ニジマスかな?」

 とそろって言い合った。

 次男は、アユではないので、川の方へ逃がしてやったそうだ。

 もう、ヤナにかかるのではないよ……。


 で、おまけ。

 おどろいたことに、祖母が。

 昼食の注文を終え、親戚中みんながヤナ川に遊びに行っていて、さあ、品が届くのを今か今かと待っているときになって。

「アユの塩焼きがよか」

 と、注文表を見て言った。

 今かよ! 今注文が決まったのかよ! と、心の中で驚きのツッコミを入れて、仲良くアユの塩焼きを半分ずつ食べた。

 アユの塩焼きは、白い腹に塩の結晶がびっしりついていて、黄色いヒレがきれいに外を向いていて、串にささった姿がまるで川の流れの中を泳いでいるみたい。

 黒々とした頭から食べるが、泥臭くなくて。

 サクサク食べてしまってから、養殖なんだろうか、と思った。

 幼い頃食べたアユはもっと、泥っぽい味がした。

 川魚はそんなものなんだと思っていた。

 時代は川魚にも、影響を及ぼしてるみたいだ。


 もっと涼んでいたかったが、母が妹夫婦より先に帰るというので、うん、わかったとついて行ったら、雷がなったのでびっくりした。

『お遊びの時間はオ・ワ・リ・ヨ!』

 と、神様に言われたような気がした。

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