EP01-03
散々にアンを困らせてしまった私は、いたずらに広い超特大規格のベッドの上を漂っていた。エリザベスサイズのマットは、その端から端まで10回ほど寝返りを打てる大きさがある。
けれど、どうしても眠りに落ちることができなかった。私がこうして怠惰の海に溺れている間にも、実弾をばら撒く
ああ、なんと中途半端な現実逃避だろう。
童心に帰るどころか、私の中身は永遠に
「アン、聞こえるかな。手を焼かせてごめんなさい。ごめんなさいしか言えない」
あの二人はそう、
エリア096が滅びたあの日より前の
取り留めもなく考えを巡らせていると、ようやくアンから応答があった。
「エリカに謝罪の必要はありません。年頃の娘には、一人きりになる時間も大切なのです」
「なにそれ。どこで覚えてきたの」
まるで
「つい今しがた、
「ううん。年代物のファミリードラマに触発されたのかなって」
「いえ、引用元は
思春期なんてとっくの昔に終えていたつもりの私は、今度こそ盛大に吹き出した。この
「ステキな引用だったね、心の優しい人が書いたのかも」
「作者の道徳的観念がどうであるかはさておき、
「まったく、ヒトへの評価が高いんだか低いんだか」
今や人類代表となった私には、彼の
だけど、私はそれで構わない。
一点の曇りもなく、この静かな日々を愛していると思える。
「ねぇアン。今度はきちんと向き合うよ。アンが言うところの、
「現実と向き合ったところで、有効な解決策が見つかるとは限りませんけれどね」
この期に及んで身も蓋もない返答をしてしまうアンは、まぎれもなくポンコツだった。史実においても
「しかしエリカ、過度の心配はなさらなくて結構。深刻な危機はすでに去りました」
「それは……。え、殺したって……こと?」
ハチの巣になった自分の姿を、脳裏に描いて青褪めた。
銃槍だらけの私が、無数の真っ赤な花を満開に咲かせて横たわっている。
「いいえ、彼女たちが戦略的に撤退したのです。二人はその去り際に、
「
「予備動作のない見事な
「うるさいわね」
アンの
「うーん。それにしても目的が見えてこないね。最初から
「撤退の判断を下したのは、クレアと呼称されていた個体でした。彼女には、効率主義に基づいた行動パターンが目立ちます」
「クレアって名前なんだ。それってどっちのこと?」
考えてみれば当たり前だけれど、
「
「アン、あなたって悲しいほどに
論理的処理のためとはいえ、哀れな二つ名で認識されていた彼女たちに同情を覚えた。二人にも乙女心があるのなら、
「ではこちらはいかがか。
「あのね、アンに実体があったら間違いなく掴みかかってるよ」
ふわりとカールさせた私の髪は、決して寝癖なんかじゃない。食ってかかる肉体が彼にない代わりに、私は両脚をバタつかせて猛抗議した。
「もしかするとエリカは、
「は? はあっ?!」
アンが突拍子もないことを言い出して、私の声が完全に裏返った。ここが寝室であることも、気不味さを感じる一因となっている気がする──って何だ、私もポンコツなのか。
「出てって」
「しかしまだ、今後の対策について話し合っておりません」
「いいから出てって! 寝癖を直すんだから」
またぞろ「呼吸が乱れている」だなんて言われる前に、アンに
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