EP01-02
「アン、すぐに
「提案の一部に賛同できません。
少しだけ逡巡するも、頭でっかちなアンを論破するのは無理だと判断した。
「分かった。視覚と聴覚、それから嗅覚以外は
「その妥協案を採用しましょう。私と貴方の友好的関係はこれからも続きます」
アンは自らの巨大な
遠く離れた出来事でも、たとえ時間軸さえ飛び越えていても──
空間座標、大気の振動、光波の揺らめき。琥珀色の脳がそのすべてを書き写していく。
漂う匂いも、生命の塩基配列も、何もかもすべてを書き写していく。
それはまさに
アンの
今にも
√───────────────────√
「ごめん、正直かなりキツい。援護を頼む」
燃えるような真紅の赤髪を結い上げた女が、見慣れないデザインのバングルに向けて話しかけた。手首に填められた物々しい雰囲気のバングルは、おそらく通信機器の役割を兼ねているのだろう。つまりはSOSを発信したのだ。彼女は苦悶の表情を浮かべていたけれど、この窮地をどこか楽しんでいるようにも見えた。
彼女を包囲している物体は、四体の
しかしその動線上に、強烈な
一閃の光に続いて、耳を
【救援者によって24発の実弾が発射されました。各戦騎兵が合計18発を被弾。
【要するに鉛玉ってこと?
火薬の匂いに包まれながら、アンによる実況に軽口を返す。
なぜなら今の私には、真っ先に説明してほしいことが他にあったから。
立ち昇った硝煙の陰から、救援者とおぼしき人物が声を発する。
「お前は馬鹿なのか? 後先考えずに突っ込んでいたら、また傷痕が増えるだけだぞ」
「だからゴメンって。次からは気を付ける」
「いつまでも次があると思うな。命はたった一つだ」
辛辣な言葉を並べる救援者の声も、やはり女性のものだった。互いにほぼ同じ質量を持った二体のヒューマンが侵入したと、アンは事前にそう報告したのだ。それが事実ならば、性別の一致も当然のことだろう。視界が晴れていくにつれて、彼女の姿が明らかになった。
救援者である彼女もまた鮮やかな赤髪で、その前髪は
視線を下ろせば、
けれど彼女たちには、それよりもっと特筆すべき特徴がある。
【ねぇ、説明を求めるよ。これは一体どういうこと?】
【エリカ。先ほども申し上げたように、二人の質量はほぼ
【双子って意味よね。それは見れば分かるよ】
アンの解説に苛立ちながら、私はまたも軽口を叩いた。
彼の分析に頼らずとも、侵入者二人が
だから私が尋ねているのは、そんなことじゃない。
彼女たちが双子だとか、そんな分かりきったことよりも!
【あ、もしかして趣味の悪い
【いいえ。これは
アンがあまりにもポンコツ過ぎて、私は思わず額の
【エリカ、私は妥協案を採用したはずです】
冷ややかな声音と共に、拡張空間が即時解体された。痛みを伴って指先が痺れている。CUBE内の見飽きた風景へと連れ戻された私は、声を荒げてアンを非難した。
「だってあなたが教えてくれないなら、自分で聞きに行くしかないじゃない! どうしてあの二人は、私と同じ見目形をしているわけ? あれが
それは醜態もいいところだった。一方通行の駄々を捏ねる子供のように、私は動揺を抑えることができなかったのだ。そもそも私が醜態を晒す相手は、アン以外に存在しない。「だから許してほしい」だなんて、身勝手な想いさえ言葉にしそうになる。
「エリカ。誠に残念ですが、私は貴女が思うほどに万能ではありません」
無機質な声音に悲しみを見るのは、
それともエゴ。希望的観測にも似た、まことしやかな幻想?
「愚かな私ですが、貴女の見た光景に
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