シュガー<ビター
どれくらいたっただろうか。
日が沈みかけ、辺りが暗くなってきていた頃。ルナはしゃくりをあげながらも落ち着いたのか目を腫らしながらこちらをむいた。
「もう大丈夫……。 落ち着いたわ」
「そうか」
俺はルナがそう言うため、背中をさするのもやめて彼女から少し距離を置く。
俺はふときになったことを聞いた。
「チョコ、渡せなかったのか?」
俺はルナがその手に持っていた物が気になり、問いかけた。
告白は失敗したのは分かってはいるがチョコまで渡せなかったのだろうか。
「ああ……。 これ……。 貴方にあげるわ。手伝ってくれた御礼」
「いや、御礼って俺は……」
「嫌々やらせてたから、御礼も何も無いわね。それに宮田君、バナナ嫌いみたいだから渡してもダメみたい」
つーかどこからその情報手に入れたんだよ。
というかアイツ、バナナ嫌いとかあの助兵衛とは真逆じゃね。
そんなことを思いながら俺はルナが差し出す
箱を受け取った。
「でもいいのか。 多分、徹夜で作ったんだろ?」
俺は箱を見ながら言った。
「別に私が食べたいわけじゃないし、せっかく作ったんだから誰かに食べて欲しい
じゃない。だから貴方にあげる」
ルナは鼻をグスグスさせながらいつもの調子で言った。
「ありがとう」
俺を真っ直ぐに見つめて言った。
「いいのよ……」
ルナは微笑する。
さっきまでの気持ちが沈んでいる様子もなく夜に合っていた水色ドレスの魔女に戻っていた。
「でも貴方、本当にお人好しね」
「そうか?」
「そうよ。 あーあ、貴方が宮田君みたいなイケメンだったらいいのに」
「それは残念だ」
俺は肩をすくめて見せた。
それが可笑しかったのかルナは笑う。
俺もそれにつられて笑った。
「ねぇ……?」
「なんだ?」
「もし何か困ったことがあったら何か相談してもいいかしら?」
「別に構わないぞ。 ただ猿を追っかけるとかの手伝いはなし」
「そんなことは頼まないわよ」
「それはよかった」
「ただ友人になってくれたら嬉しいな」
そう言ってルナは少し笑う。
友人ね……。
心の中で思わず自嘲したくなる。
「都合がいいのとかはやめてくれよ」
俺はふざけながらルナに言った。
ルナはそれがおかしかったのか笑った。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
ルナはそう言って近くに置いて合った鞄を手にした。
「じゃあな」
「えぇ。 また校内ですれ違ったら」
「ああ」
俺はルナに返答した。
これで完全にルナとの接点は無くなる。
さみしい気もするがそれがお互いの距離でもある。
俺は踵を返して歩き始めた彼女の背を見送る。ふと疑問が浮かび、彼女を呼び止める。
「なあ、ルナ」
ルナは呼ばれ、振り向く。
「バナナの媚薬の成分とかは……」
貰っておきながらこんなこというのはあれだが心配になってしまった。
「それは魔女に聞いちゃいけないわ。だから効くか効かないかは食べてからのお楽しみってことで」
そういってルナはいたずらっぽく笑った。
ルナはそう言い残すとその場から消え去った。彼女の最後の言葉を頭の中で反復させた。
俺はこう思った。
恋しちゃいそうになるじゃねーか、この野郎。
そう独りで気持ち悪くニヤニヤしていた。
俺もそろそろ帰るかと思いながらipodを取り出し、耳にイヤフォンをつけた。
ipodを操作し、フォルダに入っている『ルナちゃんセレクション』を選択した。
ランダムで流れてきた音楽は軽快でノリのいいロックだった。
魔法は使えるかどうか分からないが、とにかく聴きながら帰りたくなった。
帰る前に一度、ルナから貰った箱を開けてみることにした。
軽快なロックのメロディに合わせて開けていく。
箱はまさに装飾されたかわいらしいデザイン。中身を開けると、フワフワのカラフルな髪の毛みたいな梱包材が中に入っていてその上に丁寧に封された透明な袋が入っていた。
その中には一本を半分に切り分けられ、周りをチョコでコーティングされたバナナが入っていた。
俺は袋を取り出し、封を開けてひとつつまんで見る。
見た目はただのチョコバナナだ。
金色に光ることもなければ、振動もしない。
俺は勇気をもって食べてみることにした。
口に入れ噛んでみた。
初めての義理チョコはほろ苦い味。
ビターチョコでコーティングされたチョコバナナだった。
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