何も言えなくて……、ヴァレンタイン
放課後を迎えた俺はあても無く、ただ校内を歩いてみることに決めた。
完全なる暇人だが気にしない。
ルナが上手くいけばいいと思ったが、本人とは夜の部分以外そこまでの接点がない為、どういう結果になったのか知るよしもない。
もう昨日の夜の時点で彼女との接点は切れているはず。
だが応援してあげたいというのは正直なところ俺の気持ちでもある。
だが残念なことにルナがどこのクラスに所属して居るかなんて気にしたことがなかった。
それ故、彼女に上手くいったかどうかを確認する術もない。
しょうがない。
俺はそう割り切り、明日、宮田に誰か告白があったか間接的ではあるが確認するしかない。
俺はそう考えつつ、ぶらぶらとする。
ふと気がつくと体育館の方面へ意味もないが、自然と足はそちらのほうに向かっていた。
そこはルナに呼び出され、渋々、手伝うことになった場所だ。
まぁ、暇だからとりあえず行ってみようと思い体育館の裏手に回ろうとした。
するとまさに体育館の裏手で誰かが告白しようと男女二人が向かい合うようにして立っていた。
まるでタイミングを計ったような感じで、自分に仕掛けられたどっきりのようにも思えたが、それはない。
俺は動揺しながら体育館の物陰に隠れ、様子を見てみることにした。
いや、告白かどうかなんて完全にわかりはしないがなんとなくここまで人気のないところで二人きりとなると考えられるのはその辺りにしかならない。
二人の様子を観察してみる。
女子生徒は俺の方を背にしていて顔が分からない。
ただ男子学生の顔はわかり、瞬間、俺は思わず声を上げそうになった。
男子学生は友人である宮田だった。
さすがイケメンだなと思いながらも、予定がないといいながら告白される予定が合ったんじゃないかと俺は内心、宮田に毒づいた。
告白している女子学生は誰なのか特に気になってしまった。
俺は出来るだけ、影に隠れながら様子を伺っていると宮田が神妙な面持ちで後頭部を片手でかきながら口を開いた。
何を言っているのかは分からないが、口に出して言っている言葉は多分、ポジティブな事ではないと雰囲気で分かる。
宮田は何か女子学生に言いながら頭を下げた。
女子学生はどんな言葉を言われたのか分からないがこちらからは顔は見えないが両腕を力なく、だらんとさせる。
多分、玉砕したと言わんとしても分かった。
ふとだらんとさせたその手には小さな箱が握られていた。
俺はその手をみてまさかなとルナの顔がよぎる。
宮田は顔を上げるといつもの爽やかな表情に戻り、謝っているのだろうか一言二言、何か呟くと踵を返しと女子学生を残し、その場を後にした。
俺はただその光景をただ盗み見て呆然としていた。
どれ位、その光景に我を忘れていたのかわからないが突然、女子生徒が振り向くこと無く口を開いた。
「そこに隠れてるんでしょ?」
俺は思ってみない事を言われ、心臓が飛びはねそうになった。
どうやら隠れていたことはバレていたらしい。
「別に気にしてないから出てくれば」
女子生徒は淡々と感情の読めないイントネーションで言う。
俺はとりあえずその通りに物陰から出て行くことにした。
「いつからいたの?」
女子生徒は振り向くことなく言った。
彼女が誰であるか、俺は聞き覚えのある声ですでに分かっているから確認するまで
もない。
目の前にいるのはルナだ。
「どれ位だろう? 宮田が頭を下げる少し前あたりかな」
俺は記憶を必死で辿りながら答えた。
「そう……」
ルナはいつものような力強い口調では無く、静かで冷静とも思えるような口調になっていた。
俺はただルナの後ろ姿を眼にしたまま、何も言えず黙ってしまう。
二人とも黙り、沈黙が流れる。
彼女になんと言葉をかけていいか見つからない。
そんなふうに戸惑っているとルナのほうか口を開いた。
「一つ、質問があるんだけどいい?」
「別に構わないが……」
ルナはこちらを向くこと無く、ただ静かに質問してきたから、何か威圧感のようなものが肌に突き刺さる。
「貴方は宮田君に恋人が居るって知ってたの?」
ルナは静かに問いかける。
なんだか訳の分からない汗が出てしまう。
ここで下手な答えをしたらきっと呪われてしまうのではないかと思う。
俺は正直に答えることにした。
「正直に答えると今朝まで知らなかった」
「今朝まで?」
「遠くからアイツらしき人物を見た。 それが宮田だと思わなかった。いや、最初は人違いだと思った。 それに本人からその話を聞いたことはないから確証は持てなかった」
「…………そう」
ルナはただ静かに一言答えた。
「すまない……」
自然と出てきた言葉はそれだけだった。
俺はそれ意外、出てこず沈黙するしかない。
それなりの言葉が浮かびそうだと思ったが、こんな時には本当に浮かばない。
「なんで貴方が謝る必要があるのよ」
「いや、でも……」
「フラれたのは私の問題だし、別に貴方には関係ないこと。 そうでしょ」
確かにそうだ。
でもあの助兵衛を捕まえるときに応援したいという気持ちは俺の中で嘘ではない。
「確かにそうかもしれない。 でも一緒にあの猿を捕まえて最後まで見届けたいと思ったことはある」
「バカじゃないの……」
ルナは鼻で笑いながら言った。
バカにしているように言っているが彼女の声が震えているのがわかった。
「バカかもしれないな」
おれはできるだけおどけるように言った。
「本当にバカよ……」
そう言って後ろを向いていた彼女はうつむいた。
表情は見えないが確認しなくてもわかる。
俺はどうしていいのか、ただ彼女の隣にたった。
彼女はうつむきながら泣いていた。
「本当にバカよね……。勝手に期待して……、得意の魔法を使って……、人の心を手に入れようとして失敗してるんだから……」
彼女は泣きながら自分に言い聞かせるように言っていた。
「どうしたらいいんだろ……」
ルナは戸惑ったような声で呟いた。
俺はただ考えもなく口が開いた。
「バカじゃないんじゃないか」
俺は彼女を見ることなく言った。
「へ……?」
「ただ宮田を好きになった。 それだけじゃないか。 確かに宮田には彼女がいてダメだったかもしれない。 けどアイツの事を好きになったのは本当のことだし、否定する必要はないんじゃないか。 異世界……か? そこからあのバナナを召喚?するくらいだから。それだけの気持ちがあったんだろ」
俺はただ自分の考えを一気に口にした。
彼女の方は一切見ない。
するとルナはその場にしゃがみ込み空を仰ぐ。
「うぇ……えええええええん」
号泣と言ってもいいだろう。
顔をくしゃくしゃにして口を開いて泣いた。
残酷な結末になってしまった。
たった一人の女の子の恋心は現実にやられてしまった。
俺はなんともいたたまれない気持ちになった。そんな俺に出来ることはただ彼女の
背中をさすってやることだった。
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