笑顔の未来へ

「どうなったの?」



心配するルナがこちらへと駆けてくる。


「助兵衛をつかまえたぞ」


俺はルナの前に立ち彼女に向かって手を見せた。


「助兵衛。 おいで」


ルナは助兵衛に手を開き、おいでとジェスチャーをする。


すると手に俺の手に掴まっていた助兵衛は勢いよく俺の手から離れ、ルナの方へと飛び込んでいく。


まだ怯えが残るのか、いつものようにエロい表情で飛び込むのではなく不安な表情をしたまま、彼女に向かい、飛び込んでいった。


ルナはそのまま助兵衛を抱き留める。


助兵衛はルナの胸に収まると安心したのか安堵した表情になり、おとなしくなった。


「じゃあ、お家もどろう」


そう言うとルナは水色のドレスのひらひらした尻尾みたいなところからどこからともなく大きな鳥カゴのような物を取り出した。


すげぇ、四次元ポケットみてぇ。


そのカゴの蓋をあけ、その中に助兵衛を入れる。


「今度はちゃんといい子にしてて」


そう言うとルナは蓋を締めて、カゴに向けドレスの端をかけた。


するとカゴは一瞬でその場から姿を消した。


やっぱりあのドレスの尻尾みたいなところは


四次元ポケットなんだと思った。


「これでよし」


ルナはそう言うと助兵衛から俺に視線を変え不安な表情をしながら問いかけた。


「バナナは?」


助兵衛ではなく目的はそれが一番だ。


俺はニヤリと笑い、ポケットに手を入れた。


さっきから携帯のバイブレーションかと思うくらいの強さで振動している。


俺はその振動している長細く半円に曲がった物を取り出した。


「ちゃんと取り戻したぞ」


俺はそれを頭上に掲げ、ルナに獲ったぞというアピールをした。


手の中でかなり振動し、そして夜の闇の中でも負けないくらい金色の光を放っていた。


これはある意味、目的を達成したトロフィーと言ってもいいんじゃないかと思う。


ルナは金色に光るバナナを見て瞼を見開いた。


俺は助兵衛をしっかりと手の中で抱くルナに向かって金色に光るバナナを一本、差し出した。


「今度は奪われるなよ」


そう言って俺はルナに金色のバナナを渡した。ルナはバナナを受け取りそれを大事そうに持つ。


そして感極まったのかルナは目に涙を浮かべながら俺を真っ正面から見つめる。

見つめられた俺は少しドキリとしながら彼女を見据える。


「ありがとう……。これでチョコバナナが作れる……」


そう言ってルナは微笑んだ。


それは何よりも俺が今まで見た中で一番、素敵だと思える彼女の表情だった。


「これで終わりだろ? もう解放してくれてもいいんじゃないか?」


本心を言うともうここから先は俺は関係ない。ただ彼女の恋が上手くいくように願うことしかできない。


「そうね……」


ルナはそう言うと水色のドレスから藁人形を取り出した。


「もうこれは必要ないわね」


ルナはそういうとフッと藁人形に息をかける。


すると藁人形は一瞬で炎に包まれ、そのまま灰になり跡形もなく消えていった。


「これで契約解消ね」


ルナはニヤリとしながら言った。


「そもそも契約結んだつもりもないけどな」


「そうだったかしら?」


皮肉交じりに言った言葉にルナが返答するとそれが可笑しかったのか思わず吹き出してしまった。


ルナも同じように笑った。


「上手くいくといいな」


俺はルナに言った。


「そうね。これで宮田君のハートを奪えるわ」


ルナは手にした金色に輝き振動するバナナを頬ずりした。


なんだか卑猥だなと俺は思ってしまった。


「今度、会うときは学校だな。 そのときはいい結果期待してるよ」


「任せて」


彼女はそう言い、歯を見せて笑った。

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