don't stop me now

段々と身体は上昇し、下をみたら家の屋根が見えるくらいだ。

ヒィィィ、怖い。

しかし、今は恐怖は飲み込まなければ。

意を決してあの猿を捕まえようとしているから今は怖いとか考えちゃ行けない。

逃げちゃダメだ。

俺は少しだけ曲の音量を下げ、自分が先ほど立っていた方を見る。

すでに高さがあり、小さく見える為、目視で確認するのは大変だがルナが立っているのはかろうじて分かった。

そしてその方向へ素早くなにかが向かっているのが視界に入る。

助兵衛がものすごい勢いで走って行く。

〈ウキー〉

助兵衛が興奮している声が聞こえた。

見つけた。

俺は一気に助兵衛に向け、足の方向を向け空中で足を蹴る。

頭の中で作戦を整理する。

1`まず助兵衛をおびき出すため、フェロモン剤を撒く。

2`助兵衛が現れたことが確認できたら、ルナと二手に分かれる。

3`一気に俺は空中まで昇り、助兵衛を二人ではさみこむ。

そこから先が問題だ。

俺は、はやる気持ちを押さえつつ駆ける足を早め一気に下降していく。

助兵衛がフェロモン剤を撒いた場所へと一気に駆けていく。

〈ウキー〉

声の高さがいつもよりも違う気がする。

多分、普段とは違う濃度だから余計なのかもしれない。

走りながらルナの方を見る。

ルナは網をしっかりと握りしめてエロの権化と化した自身の愛すべき使い魔との来たるべき決戦に向けて構えていた。

〈ウキー〉

助兵衛はルナと一気に間合いを詰め、近寄っていく。

「助兵衛、こっちよ!」

ルナは助兵衛をたきつけるようにエロの権化に向かい叫んだ。

それに反応し、助兵衛は〈ウキー〉と声をあげてルナの方へ駆けていく。

その間にも俺は下降しつつ後ろから助兵衛との間合いを詰める。

ここで気がつかれてしまってはすべてが水の泡になる。

俺はなるべく音を立てないようにしながら空中を走って行く。

助兵衛は嬉しそうに声をだし、ルナの方へとむかっていく。

助兵衛にとって臭いだけはかなりハーレム状態だろう。

そりゃあ、興奮するに決まっている。

「さぁ、こっちよ」

ルナは助兵衛を挑発するように叫ぶ。

助兵衛はターゲットをロックオンするとそのままルナのほうへジャンプした。

ルナは向かってくる助兵衛をヒラリとかわし、網を振り上げる。

しかし、侮るなかれ助兵衛は野生に生きるエロの権化。

野生の勘と何かエロに突き動かされた生物は強い。

助兵衛はまるでルナの動きを先読みしていたのか網が落ちてくる場所から武術の達人のような自然な動きでその場所から退避。

彼女が振り下ろした網はむなしく外れる。

そして助兵衛は酔っ払ったおっさんのような目を一瞬、獣本来の眼光に戻るとルナへと反撃した。

〈ウキー〉

助兵衛はジャンプしながら空中で身体を一回転させ、ルナの胸元へ飛び込んだ。

そして至福の顔をしながら、バナナを手に抱きつつ、ルナの胸をワシワシと掴んだ。

「いやーーーーーーーーーーーーーー」

ルナの悲鳴がイヤフォン越しに聞こえるほどこだまする。

「くっ、いい加減にしなさい」

ルナが助兵衛をつかもうとする。

いつもの助兵衛ならば、ここで一旦離れるが、フェロモン剤の影響でバナナと相乗効果を生んでいるのか更にハイになっている状態。

今日の助兵衛は容赦がなかった。

ルナの背後へ一気に回りこむとそのまま、木を降りるかのようにルナの腰までさっと移動するとそのまま彼女の臀部、ようは尻だ。

彼女の尻に自身の顔をつけ、頬づりをした。

「きゃーーーーーーーーーーーーーーー」

ドレス越しに彼女の柔らかい肌の質感をかみしめているようにも見える。

今にも天に召されそうな表情をしていた。

まさにエロの権化、その行為外道なり。

というかうらやましい。

なんてことは思わないが、俺は単純に見ているわけではない。

さすがに助けにいく。

「おい、エロ猿」

俺はまだルナの尻に頬づりをしている助兵衛に向かって叫んだ。

助兵衛はこちらを向くとギロリと駅でたむろしてるヤンキーのごとくメンチを切ってきた。〈ウキー〉

副音声がつくなら、「邪魔するんじゃねぇよ。、バカ」とでも言いそうだ。

しかし、気にしている場合ではない。

ルナは気持ち悪そうに身体をよじり、助兵衛を掴もうとしている。

俺はポケットに手を入れ、今回の作戦の目玉であり、リーサルウェポンを使うことにした。「そんなにエロいことしたきゃこれでしろ!」

俺はポケットからルナから借りたパンツを取り出した。

一枚だけではない、十枚以上はあるはずだ。

俺は助兵衛に見えるように片手いっぱいに握った彩り豊かなパンツを掲げて見せた。

助兵衛に抱きつかれながら俺を見るルナの表情はもう言葉にならないほど呆れた表情になっていた。

まるで汚物を見るかのよう。

正直言って心が折れそうになるが気にしない。なぜなら目的ははっきりしているから気持ちはそっちに揺らがない。

標的である助兵衛はこちらをみて嬉しそうに鳴いた。

〈ウキーーーーーーーーーーー〉

しかもあの赤く染まった顔がにやけたようにも見えた。

だがまだルナから離れない。

ここから作戦第二フェーズだ。

「おい、猿! エロいことしたきゃこれでしろ!」

俺はルナと助兵衛のほうに向かい握ったパンツを投げた。

パンツは俺の手を離れ、宙に舞った。

花吹雪ならぬパンツ吹雪。

彩り豊かなパンツが空中を舞い、地面へと向かい落ちていく。

パンツじゃなければ綺麗なのに。

ちょうど最初のロックは終わり、次の曲へと変わっていた。

曲のテイストが変わり、オーケストラと一緒に演奏しているのが分かるほど壮大な感じになっていた。

目の前のパンツの光景となんだか合う気がして不思議な感覚。

助兵衛は空中に舞うパンツを見てルナから離れると嬉しそうに色とりどりのパンツに向かって猛烈ダッシュをする。

助兵衛は空中に舞うパンツを勢いよく片手で掴みながら嬉しそうに鳴く。

〈ウキー〉

濃厚なメスのフェロモンを嗅ぎ、さらにパンツというダブル攻撃で助兵衛のボルテージは最高潮に達していた。

助兵衛は一気にパンツを拾い集めていく。

なんの生物だか分からないほど猿の身体がパンツで隠されている。

しめたと思い、俺はパンツ吹雪に夢中になる助兵衛に向かい走った。

助兵衛はパンツに気をとられ、こちらの気配に気がつかない。

タイミングは悪くない。

俺は網をつかうことなく助兵衛にむかい走って正面から掴む。

俺の両手は小さい子供のような助兵衛の身体を掴む。

とった!

そう思った瞬間、助兵衛は我に返り掴まれていることを把握し身体を思いっきり動かした。〈ウキーーーーーーーー!〉

「こ、こらおとなしくしろ!」

以前のように引っかかれることはない。

なぜならば助兵衛の両手はふさがっている。

一方に金色バナナ、片方にパンツ。

全身に身に纏ってすらいる。

作戦は功を奏したが、油断は禁物だ。

俺たちは別の視点を見ていた。

そう、本来の目的は猿ではない。

バナナだ。

あのバナナが無ければ、危険物取り扱いの資格が必要になるほどのチョコバナナは作れない。

俺はパンツに絡まり、身体をよじる助兵衛をしっかりと掴む。

俺が掴んでいる間にルナがバナナを奪う。

それで作戦終了になる。

作戦通りルナがこちらに向かい走ってくる。

「そのまま掴んでてー!」

そう言うのがはっきり分かった。

そして走るルナが、パンツの山から出ている助兵衛が掴んでいるバナナをとろう手を伸ばす。

俺はやっと終わると思った瞬間だった。

〈ウキー〉

助兵衛は最後の抵抗と言わんばかりに勢いよく身体をよじり、パンツの間から華麗に逃げ出した。

「う、嘘だ!」

あれだけルナの使用済みのパンツの網を意にすることなく抜けだす。

そしてあの赤ら顔をこちらに向け、鳴いた。

〈ウキー〉

副音声で絶対に掴まるもんかとでも言っているように見える。

助兵衛はこちらに向けて背を向けて走り出す。「まちなさい! 助兵衛」

ルナが叫ぶのが聞こえた。

ここで逃がしては全てが水の泡だ。

一人の少女の恋が実らなくなってしまう。

そんなことがあってはならない。

俺は無意識に助兵衛に向かい、全力で駆け出していた。

これは明日、筋肉痛になるってほど足を蹴り、回転をあげる。

耳から流れるロックはすでに変わり、重低音のドラムとエッジの効いたギターの音色。

それが混ざり合い、鼓動を更に激しくさせる。俺は駆ける助兵衛の後ろ姿を追いかけた。

助兵衛は気がついていない。

俺は地面を蹴り、ジャンプした。

身体は浮かび、空中を滑るように走って行く。徐々に助兵衛との距離は縮まっていく。

俺は助兵衛に向かい手を伸ばす。

助兵衛と距離が縮まった瞬間、助兵衛は俺の存在に気がついてしまった。

なんだとという表情をし驚くが、素早く反応し、別の方向へ逃げようとする。

そうはさせるかと俺はそのまま空中を走り、助兵衛の脇腹をつかんだ。

「逃がすか!」

〈ウキー〉

掴んだ瞬間、案の定、助兵衛は抵抗し、身体をよじる。

まさに男になんて掴まれたくないと言わんばかりに激しく動く。

もう同じ手は食わなし、もう逃がす訳にはいかない。

俺は激しく耳から聞こえるロックのビートと共に助兵衛を掴んだまま、高く昇るように空中を蹴る。

助兵衛にひっかかそうになるが上手く脇腹を持ち。そのまま高度をあげていく。

徐々に高さはつき気がつけば、街灯の明かりが、かなり小さく見えるほど。

それでも助兵衛は諦めず、俺の手から抜け出した。

〈ウキー〉

しかし、高さも高さだ。

助兵衛はそのまま地面にむかって落ちていく。これが狙いだった。

〈ウキーーーーーーーーーーーーーー〉

助兵衛の叫び声が聞こえる。

俺は自身のipodの停止ボタンを押す。

その瞬間、魔法は切れ、俺も落ちていく。

無重力による浮遊感と落下する際の恐怖感が混ざり合う。

「あぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

思わず声をあげてしまう。

声を出しながら空中で腹ばいになりながら、姿勢を保つ。

地面までは時間が無い。

俺はすぐに落ちていく助兵衛を視界に捕らえ、スーパーマンのごとく急降下していく。

徐々に近づく地面と助兵衛。

助兵衛との距離はすぐに縮まり、手を伸ばす。助兵衛は怖いのか、手をばたばたさせながら何かに掴もうとする仕草をしていた。

〈ウキーーーーーーー〉

そして片手には金色のバナナが光っていた。

地面までぼっーとしている余談はない。

俺は助兵衛と距離を一気につめ、手足をバタバタさせている助兵衛の手に握られた金色のバナナをぶんどった。

そしてそのまま助兵衛を別の手で掴む。

助兵衛は恐怖でバナナの事など忘れ、俺の手にしがみつく。

俺はバナナをポケットに入れ、すぐにipodの再生ボタンを押した。

曲がかかり、地面まで三メートルもないところで魔法が効き、体勢が戻り空中に浮くことができた。

間一髪のところで空中に浮き、そのまま走る。正直にいうと少し、ちびりそうになったがここだけの話。

俺はルナの方向に向かい、駆けていく。

耳から聞こえるロックはオーケストラがバックで演奏しそのなかギターなどの音色も聞こえ壮大な感じを醸し出していた。

これはファンファーレと言ってもいいんじゃないだろうか。

俺は空中をスムーズに走りながら片手にしがみつく助兵衛を見てみた。

助兵衛はすっかりまだ怯え、なんともいえない表情をしていた。

少しすると水色のドレスを着たルナの姿が見える。

彼女は手を振りこちらを見ていた。

もういいだろうと思い、俺はipodの停止ボタンを押した。

魔法が切れ、地面に足がつく。

そのままルナの方へ向かい走って行く。

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