あなたのミスを数えましょう

「クソっ……、逃がした」


俺はため息をつき、ルナの方を見た。


その瞬間、俺の頭上に衝撃が走る。


「ファッ?」


変な声を出してしまう。


気がつくと目の前にルナが鬼の形相で立っていた。


何が起きたか理解できない俺はただ呆然として彼女を見つめた状態で固まる。


「何、逃がしてんのよ」

そういってルナは右手を振り上げる。


その手に握られていたのはスリッパだった。


まぎれもないスリッパだ。


認識した瞬間、俺の頭にスリッパが振り下ろされた。


痛みはないものの殴られた衝撃はある。


なぜスリッパ。そしてそれをどこから出したんだろう。


変に焦るかと思いきや、冷静に考えてしまう。

「なんで捕まえないのよ。 もうちょとで捕まえられそうなチャンスだったじゃない」


ルナはスリッパを持ちつつ、鬼の形相をしていた。


「いやいや、言葉を返すようだけど、俺は走ったぞ。 あのスケベな猿を追いかけるために」


俺は理不尽に叩かれているのに対して、抗議をする。


「捕まえなきゃ意味が無いじゃない」


彼女は俺の胸ぐらを掴み、スリッパを振り上げてもう一度、俺を叩く。


なんて理不尽な女だと俺は心中で毒づく。


「あの状況下で捕まえるのは難しいだろ」


「何、言ってるのよ。 何のために魔法を使ったアイテムを渡したと思っているのよ」


ルナはスリッパで俺の頭を叩く。


スパンという歯切れがいい音がする。


「俺はコントのボケ役じゃないぞ」


「なによくわからないこと言っているのよ」


ルナはもう一度、スリッパで俺の頭を叩く。


なんだか他の人が見たらシュールな光景なんだろうと思いつつ、ルナに抗議の声を

あげる。

「というかどこからそのスリッパ出したんだよ。何ゆえ俺はスリッパで叩かれなきゃいけないのか説明プリーズ」


「これはポケットに入ってたのよ」


ポケット……?


彼女のドレスを見ている感じポケットなんぞ見当たらない。


というかそれを探る必要はない。


「それに叩く理由なんてないわ。 ただ貴方が助兵衛を逃がしたのがむかついただけよ」


「お前はどこぞのブラック企業の上司だよ」


俺は思わず叫んだ。


「クソッ。 せっかく人が手伝っているのにこんなんだったらやめてやる」


俺は思いきってルナに言った。


するとルナは女王様ですと言わんばかりに顎をあげ、見下すような仕草をする。


「いいのかしら? 貴方にはペナルティがあるのよ」


そう言うとルナはまたどこからかあの藁人形を取り出した。


「そ、それは……」


俺は思わず狼狽えてしまう。


「いいのよ。貴方が助兵衛を捕まえ亡ければ貴方はこの藁人形の力であそこが◎◎

してそれを××するの。そうなったら△△になって」


「それ以上はやめてくれ! わかったよ。捕まえればいいんだろ」


俺はどうやらメンタルが弱いらしい。


だがここまでルナに脅し文句を言われてしまっては誰だって降参したくなる状況だと思う。

今の状況で俺が選べるのは折れてルナに従うことだけらしい。


「分かればいいのよ」


ルナは不敵な笑みを浮かべながら藁人形をしまう。


「リミットはバレンタインデー前日までよ。分かってるわね」


「分かってるよ。ちなみにそれを過ぎたら俺はどうなるんだ?」


俺は禁断のその先を聴いてみた。


「どうかしらね。 跡形もなくこの世から消え去ることも選択の一つに考えるかもね」


ルナは笑いながら、怖いことを言う。


「お前はかなりヤバい奴だな」


俺はルナに思わず言ってしまう。


「なんとでも言いなさい。 私は宮田君の心を手にできるのなら犠牲を払うわ」


だったら別のやり方あるじゃないか。


そう言いたかったが俺は黙ることにした。


ふと俺は疑問に思ったことを口にした。


「なぁ?」


「何よ?」


「一つ聞くが、助兵衛が持っているあのバナナは全部で何本だ?」


「何よ、急に。 バナナの数なんて聞いて?」


ルナは意味が分かりませんという顔をした。


「ふと思ったんだが、あの猿、一日一本ペースであの金色のバナナを消費しているとしたら残り少ない気がするぞ」


俺は助兵衛が持っていたバナナを何となく見て、本数をチェックしていた。


走りさる間際に見たことが間違いがなければ本数は残り三本くらいだった。.付箋文


「あっ……」


ルナは今気がついたかのように拍子抜けした顔をした。


「あっ、じゃねぇよ。 どう考えても後二日しか猶予がないぞ」


「う、うるさいわね。 それに捕まえるのは貴方の役目なんだから」


ルナは頬を膨らませながらそれだけ言うと踵を返し歩き出した。


本当に自分勝手な奴だなと思いながら俺はため息をついた。

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