テンプレートは突然に

翌日。


登校した俺は緊張感からくる疲れなのか、身体が重く感じられた。


俺は自分の机に座り、大きなため息を吐いた。


「はぁぁ」


「どうした?」


そう声をかけたのはクラスメイトである宮田という男子生徒だった。


彼は爽やかな顔をこちらにむけ、不思議そうな表情をしていた。


「別にどうってことはないさ。 ただ昨日、いつもより夜更かししすぎたんだ」


「また卑猥な動画でも見てたのか?」


宮田は爽やかに問いかける。


彼が変な言葉を口にしてもまるで美化されているかのようにも聞こえる。


「いや、ちょっと怖い目に遭ってな」


「怖い目?」


「ああ。 なんだか自分でもよくわからないくらいだよ」


「・・・・・・?」


宮田は更にわからないという顔をした。


「気にしないでくれ。 それよりも部活の方は調子はいいのか?」


「ああ。 今度の大会はうまくメンバー入りしたからな」


そういうと宮田は爽やかに笑う。


彼を構成する成分の中にミントとかメンソールが含まれているんじゃないかなと思うくらい爽やかだ。


宮田はサッカー部でかなり活躍しているという、イケメンで運動もできる。


何ていうチートキャラだと思うくらいの奴だ。


「じゃあ、今日の放課後も忙しいな」



「まぁね。 俺もハルみたいに自由に過ごしたいよ」


そういって宮田はおどけて見せる。


「帰宅部になれば自由にすごせるさ」


俺は宮田にいう。


「確かにな。 でもそれは俺の相性にはあってなさそうだ」


宮田はしょうがないかというとほほえむ。


そういうと近くに座っていた席をたつと教科書をもち移動を始めようとした。


「次はなんの授業?」


俺は宮田に聞いた。


「次は数学だよ。 本当にハルって興味がない物には興味ないな」


「そうか? 自覚したことはないな。 まぁ、授業のスケジュールは覚えないかな」


「ハル。 それだよ、それ」


そういって宮田は長身の体躯をしなやかな動きで教室を後にした。


俺もあんな長身にならないかな?


なんてことを思いながら夜更かししすぎてダルく感じる身体を動かしながら、次の授業

の準備を始めようとした。


その時だったフワリと横目に何かをかんじた俺はふとそちらを向いた。


するとそこには三つ編み、メガネ、制服というある意味三種の神器をまとった女子生徒が俺の近くにたっていた。


「あっ、あの貴方がハルヒコさんですか?」


かわいらしい声をテンパり気味にうわずらせながら、俺に問いかけてきた。


俺は変にドキリと構えてしまった。


「そうだけど」


何てひねりのない返しをしてしまったのか。


三種の神器をまとった女子生徒はモジモジと身体を動かしながら言った。


「あ、あの放課後、体育館、裏にきてくださいませんか?

お、お話・・・・・・、したいことがあるので」


そういうと女子生徒は走り、声をかける暇もなく教室を後にしてしまった。

残された俺はあたりをみた。


何人か俺の方に目をむけ、ニヤニヤと笑っていた。


よせ、これはお前等が期待するような内容・・・ではないと言いたいところだが、やっぱ

りこういうハプニングがあると期待してしまう。


なにを期待するかって?


やっぱり、告白。


それも「好きです」という内容。


なんだかんだで浮き足だってしまうのはしょうがない。


ということで俺は体育館裏にいくことに決めた。


それが地獄へと脚をつっこむことになろうとは。


体育館の裏手は狭い通路のようになっていたのは以前から知っていた。


体育館裏へいくにあたって俺はスキップでもしていこうか迷った。


それくらい俺は浮かれに浮かれていた。


裏手につくと先ほどの知らない女子生徒が一人こちらに背を向けたっていた。


浮かれたと同時に内心、ドキドキしていた。


もしかしてなんてことを考えてしまう。


だってしょうがないだろう。


俺は女子生徒に近づき声をかけた。


「待った?」


気持ち悪くうわずった声で俺は彼女に声をかけた。


その瞬間、女子生徒が振り返った。


そして目にも止まらない勢いで俺の方に近づくと、彼女は俺の袖と学制服の襟元をがっしりつかむ。


「へ?」


呆気にとられた俺はアホな声を出した。


次の瞬間、彼女は視界から姿を消し、気が付いた瞬間、身体が浮き、視界が百八十度反転していた。


俺は身体を地面にたたきつけられ、思わず痛いのを通り越して叫んだ。


「なんでー!?」


痛いのと同時に疑問が頭を巡った。


女子生徒は俺に柔道の技の一つ、背負い投げをかけたことは瞬時に理解した。


帰宅部の俺でもそれくらいの技は知ってる。


女子生徒は袖をつかんだまま、人間とは思えないほどの力で俺を引っ張ると、体育館の壁に押しつけた。


痛みで顔を俺は顔をゆがめる。


一呼吸もおかないまま、彼女は前の腕で俺の首に当てる。

「いてぇ。 なんだよ」


俺は痛みにこらえながら女子生徒に問いかけた。


見知らぬ人、首が痛いです。


「なんで貴方、ここに入るの?」


女子生徒は俺の答えは無視し逆に、問いつめるように言った。


彼女はズイッと俺の顔の近くに自身の顔を近づけてきた。


「それに何でアンタが宮田君と一緒にいるの?」


「はぁ?」


質問の二段攻撃に頭の整理する回路がショートしそうになる。


「なに? まだ貴方、私がわからない?」


彼女はキョトンとする俺にいらだったのか、片手でメガネをはずし、前髪をかきあげる。


「あっ!」


俺は「あ」だけを発声するコンテストがあったとした確実に一位になっているであろうほどの驚いた。


目の前にいたのはルナだった。


「ルナ!」


「ここまで私がわからないんて鈍いわね」


「鈍いというか格好も違うし、雰囲気だってぜんぜん違うからわからなかったし。 しょうがないだろ!」


俺は彼女に抗議した。


動きは鈍いかもしれないが頭だけは動いている。


よくみると彼女は夜のようなドレスではなく、完全に学生服である。


それに加え、三つ編み、長い前髪をおろしていて、彼女の姿は百八十度違う。


だってあのムチムチ感・・・・・・、いや肉感がない。


なんだか訳が分からなくなる。


「まぁ、わからないのはしょうがないけど、聞きたいことがいくつかあるわ」


唐突にルナは言った。


顔が近いですお代官様とでも言ってしまいそうなほどパーソナルスペースを侵略してく。


「なんで貴方がここにいるの?」


彼女は再度同じ質問をした。


まるで部下を問いつめる上司の人みたい。


こうやって会社勤めの人は働くのが嫌になるんだろうか。とか思いつつ彼女の質問に

答えることにした。


「逆に聞くが、君こそなんでここに入る?」


「この学校に通っているのよ。悪い?」


ふんと顔をのけぞらせながら彼女はいった。


「別に悪いとは一言も言ってない。同じ学校だったんだな」


「貴方と一緒っていうのが信じられないわ。しかもよりにもよってあの宮田君と同じ

クラスだなんて」


爪を噛みながら顔に不覚と書きながらルナは言った。


目つきがいかにもこれから気にくわない眼鏡をかけた同級生を殴る大きな同級生のような感じ。


助けて青い猫型ロボットさんと言いたくなる。


「それになんでアンタ、あんなに宮田君と仲よさそうなのよ」


ルナはギロリとメンチを切りながら俺の制服のネクタイを掴み、自身の顔に寄せる。


だから近いってばお代官様。


けれど俺も黙ってばかりいられない。


「アイツは中学の時からの友人なんだよ。なんだよ、文句あるのかよ」


俺は少しだけすごんで見せる。


「かー。 宮田君のことアイツ呼ばわり。 しかも宮田君のこと自分の彼女ですみたいな感じで。宮田君と付き合ってるの?」


ルナは額に手を置いて信じられないと言うように言った。


なぜそうなる。


いや、確かに宮田のことを狙う女子がいるけれど俺はアイツの彼女でもなければ、恋人でもない。


そんなことを言われながら俺はふと思った。ここまでルナが宮田の名前を連呼するってことは……。


眼鏡をかけた事件を解く科学者のごとくひらめいた俺はルナに言った。


「まさか……、昨日言っていた好きな人って宮田のことか?」


俺はぽつりとルナに向けて質問した。


ルナは下を向き、顔を伏せるとプルプルと小刻みに震え出した。


なんだ、どこからか何かを着信したのか?


そう思った瞬間、ルナは急に顔をあげ、俺の制服のネクタイを持つ手に更に力を入れ

口を開いた。


「そ、そうよ。 私は宮田君が好きなのよ」


ルナは涙目になりながら、片手で持った俺のネクタイをグイッと引っ張る。


だから痛いし君に飼われている犬じゃないんだから。


「そうか。頑張れ」


アイツはモテるからなー。それにライバルとか多そうだしな。


「なんでそんな他人事のように言うのよ」


ルナは俺のネクタイを引っ張るとメンチを切って俺を睨む。


いや、冷たいかもしれませんが他人事ですよ。なんて口にも出したら目の前の恋する少女に何されるか分からないのでそこは黙る。


「アンタが助兵衛を捕まえることで、宮田君にあのバナナを渡せるかが決まるのよ」


「ちょっと待て。 俺は手伝うとは(半ば強制的に押し切られ)言ったが完全に捕まえるとは言ってないぞ」


それに友人に毒を盛る手伝いをしなきゃいけないのは気が引けるぞ。


「何を言ってるのよ。誰が私が捕まえるなんて言ったの? やるのはアンタよ」


腕を組みながらまるで下々を見る女王様のように言う。


お前の頭の中身は何世紀だ。


「いやいや、横暴すぎません?」


「何、嫌なの?」


ルナはぎらりと目を光らせるとどこからかあのわら人形を出して、俺に見せる。


「い、いや、じゃないです」


クソ、主導権を握られてしまっている。


俺はなんとか打開策を考えひらめいたことを口にした。


「なぁ、一つ提案なんだけど」


「何?」


「あの猿を捕まえてチョコバナナだっけ…、それを作るより、俺が宮田に君のことを

伝えたほうが効率がいいんじゃないか?」


「そ、それもそうね……」


ルナは少し顔を赤くしながら考えていた。


「ほら、そしたら宮田も好印象も抱くだろ。そしたらさらに近づいて他のライバルよりも先に行けるぞ」


ナイスアイデアと割と思った。


しかし、彼女から返ってきた返答は俺の予想の斜め、いや、次元を超えたものだった。


「貴方の意見もいいわね。 でも却下。私は確実に彼の心が欲しいのよ。 手に入れられないんじゃ意味ないじゃない」


俺は単純に思った。


本当に目の前の女子は頭が危ない人なんだなと思った。


どんな手段もつかってでも振り向かせてみせる的なマインド、怖いわー。


まさに恋は盲目ってやつかな。


「そうか。 君の気持ちはわかったよ」


もう俺はこの強制的な手伝いから逃げることができないのか……?


俺は半ばあきらめを抱えながら答えた。


「分かって欲しいとは思わないけど、理解しようとする姿勢は必要ね」


ルナは一人勝手に頷いていた。


理解もしたくねぇよ、本当は。


「で、これからどうするんだ?」


俺はこれからどうするかを聞いていない。


あの猿を捕まえると言ってもこちらは動物飼育員でもなきゃ、猟師でもないただの

ど素人だ。


方法がなければバレンタインデーまでには捕まえられない。


それにあの猿はただの猿じゃないしな。


「これからのことは任せてちょうだい。 今日の夜にそれなりの準備をするわ」


ルナはそう言うと眼鏡をかけ直し、あのムチムチ……、色気というものを消し、学校専用に溶け込む。


「貴方はただ黙って私の指示に従っていれば大丈夫」


「大丈夫って……」


本当に強引だな。


「あっ、そうだ。やらなきゃいけないことがあるんだった」


ルナは突然、何かを思い出したように言う。


「貴方は音楽プレイヤーとか持ってる?」


「あぁ、持ってるよ」


俺は懐からipodを出し、ルナに見せる。


「これを今日の夜まで預かるわね」


「なんで?」


それは俺の唯一の楽しみなのに。


「助兵衛を捕まえる為には必要なことなの」


どういうことだ?


あの猿を捕まえるのに必要とは?


見た目は子供、中身は大人な小学生を呼ばないとこの謎は解けないかもしれない。


「とにかくこの作業が必要だからなの。貴方は夜に来ればいいの」


俺様ならぬ私様を発動させながらルナはとにかく夜に来なさいねと言い残し、姿を

消した。

ああ、とにかく逃げたいが彼女にはipodという人質をとられてしまった。


ため息をはき俺はおとなしく帰宅することに決めた。

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