マジカルバナナと言ったら……

ぶっちゃけて言うとすごく情緒不安定な奴だなと思った。


俺は意味不明さと巻きこまれたことに関して話を聞こうと思い、彼女が泣き止むのを待った。


三十分くらいして彼女は泣き止み、俺は路上でずっと話すのは高校生としてもまずいと思い、近くの公園で少し話をしないかと彼女に提案した。


まぁ、まず普通だったら逃げているが、なんとなく女の子が泣いているのに逃げるのは自分のポリシーに反する気がしてできなかった。


水色の彼女は無言で俺を睨みながらうなづくとしぶしぶといった表情で後ろを付いてきた。


公園に着くと俺と彼女は街頭が照らすベンチに腰をかけた。


まず聞きたい事はいろいろあったが、俺はまず自己紹介からはじめた。


「俺はハルヒコ。 君は?」


彼女はハンカチで鼻をかむとジロリと睨み口を開いた。


「私は暁ルナ」


彼女は暁ルナと名乗るとハンカチで目元をぬぐう。


「まず名前はわかった。なんて呼べばいい?」


俺はまず彼女の話を聞くため、壁をまず、取っ払うことに決めた


「ルナと呼んで」


彼女は鼻声で自身のニックネームを言った。彼女は落ち着いたのか、泣き止んだらしい。


「わかった。 ルナ、君は一体、何をしてたの?」


まず彼女が何をしていたのか、気になったからまず最初に聞くことにした。


「捕まえようとしてたの」


「あの猿を?」


「そうよ。あの子は助兵衛って名前なの」


「助兵衛か」


確かに最初、叫んでたな。


「それにあの子はメスが好きなのよ、困ったことに。しかも、人間の女子にも反応するし」


名前の通りじゃねえか。名は体を表すとかそのまんま。


「でなんで捕まえようとしたんだ? しかもあのバナナはなんだよ? 金色に輝いてしかも振動してるし」


俺は思い出して少し興奮しながら言った。


「あれは・・・・・・」


彼女は質問に対してどう返すべきか言い淀んだ。


「これから言うことに驚かないって約束できる?」


水色のドレスを着た彼女はためらいながら、俺をまっすぐにみながら言った。


その表情に一瞬、見とれてしまい言葉につまったが、すぐに返事をした。


「や、約束する」


俺は一応、真剣な顔をしながら首を縦にふりアホみたいな返事をした。


彼女は俺の表情をみて決心したのか口を開いた。


「あれの説明する前に、まず最初に私の説明からするわね」


俺はまだ真剣な顔をして頷いた。


彼女はコホンと軽く咳払いをすると言った。


「私は魔女なの」


俺の中で時がとまる。


今、なんて言った?


「ごめん、よく聞き取れなかった。もう一度、言ってくれ」


「だから私は魔女なの!」


ルナは苛立ちながら俺を見る。


俺はこの瞬間、彼女の頭は大丈夫だろうかと目を見開いて見てしまった。


確かに俺は多数派と少数派を選ぶなら少数派を選ぶ人間だ。


ただ少数派のなかにもさらに少数派もいるはず。


だとしたらそれは目の前の彼女のことだろう。簡単に言って引いてしまった。


この時代に魔女?


もしかしてマンガなんかの読みすぎで自分もできると信じこんでいるのだろうか?


「魔女かー」


俺は引きながら額に手を当てて、少し笑いこらえながら上をみながら言った。


正直、笑いがこみ上げてしまった。


彼女は驚くなとは言ったが笑うなとは言っていない。


だが彼女は必死な顔をして魔女という言葉を口にしている。


だから真正面で顔をみて笑うのは彼女が怒ると思ったかっらだ。


「驚いてない?」


彼女は俺の顔を少し上目使いでのぞき込むようにのぞき込んできた。


普段ならめちゃくちゃかわいいとかきれいとか思うのだろうのだけどこのシュチュエーション

で考えるのはまず難しい。


思考検定なるものがあれば上段クラスの資格に匹敵する度胸がいる。


「お、驚いて・・・ない」


俺は思わず、吹き出しながら答えてしまった。


不覚にも笑ってしまった。


「な、なんで笑ってるのよ?」


彼女は自分の想像した答えと違っていたのか驚いた顔をしていた。


「い、いやだって、普通魔女ですってこの時代にいうやつがいるかよ」


俺は思ったことを口にした。


それは地雷、いや核なみに危険な返しだと気がつくのは後だった。


俺はでてしまった笑いを殺そうと試みようとして、彼女の顔をみたときだった。


ルナは肩をイカらせ体を震わせていた。


「あの状況を体験して、見ていたのにも関わらず、信じないっていうの?」


ルナは真顔で俺の顔を見つめて言った。


「そ、そりゃあ、何かのマジックの類だとおもっているよ」


俺は彼女の何ともいえない圧力に負けじと答えた。


「・・・・・・。いいわ。 そこまで言うなら証明してあげるわ」


ルナの目がギラリとひかる。


いや正直、はりきって証明しなくてもいいからー。


なんて俺の心のうちを知る由もなく彼女はどこからともなく何かをとりだし、俺に見

せるように出してきた。


これが目に入らぬかと言わんばかりの動き。


「これ、何かわかる?」


彼女が手にしていたのは人の形をした変な人形のようなものだった。


それはどうみても紛れもない藁の人形だった。


「そ、それは・・・」


専門家でない俺でも知ってるくらいの知名度のあるやばい物だ。


丑の刻参りという呪いをかける儀式の時に使われる人形。


呪いたい相手の写真なんかを顔のあたりに張り付けて、釘で人形を木にうちつけると


相手に呪いをかけられるという素敵で悲しい物だ。


「わら人形じゃないか」


「あら知っているのね。 なら話が早いわ」


彼女は短くそういうと世界ランクのボクサー並の速さで、俺の頭に手をのばすと、正確に髪

の毛一本を抜き取った。

「痛ぇ」


俺はチクリとした痛みに顔をしかめてしまう。


「俺の父親は禿かけてるんだぞ。 将来、はげたらどうするんだ」


「今、その心配する必要ある? 別のこと心配したら?」


そりゃそうだと言わんばかりのツッコミをルナは冷静に言うと手にした俺の遺伝子情報が入った髪の毛を藁人形の胴体の中にグリグリと入れた。


「見てなさい。私が魔女ということを知るがいい」


ルナは端正な顔立ちとは似合わないイヒヒヒと不気味な笑い声を発しながら俺を見る。


彼女は藁人形を俺の方向に向けると、どこから出したのか、小さな針を片手に持っていた。


そして針を藁人形の胴体にプスリと突き刺す。


次の瞬間だった。


俺のわき腹に針で刺したような痛みに突然、おそわれた。


「いてぇ!」


俺は思わず身体を九の字に、曲げた。


何が起きたのかわからず、自身のわき腹のあたりを見る。


しかし、見てもそこの部分は何も変化はなく、服が破けているどころか血一滴すら流れてなく何もなかった。


何が起きたのかわからず、目の前のルナを見る。


ルナはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら俺の方を見ていた。


そして彼女はもう一度、藁人形の右腕の部分に向けて突き刺した。


今度は右腕の部分に刺されるような痛みが走る。


「いてぇ」


悪いけど同じリアクションをとってしまう。


自分の右腕を見て、つかんでみる。


右腕もわき腹と同じく特に変化もなく、血が流れていなかった。


さすがに怖くなってきた。


俺はルナの方を見ると彼女はどうだと言わんばかりのドヤ顔をしていた。


ムカつくくらいにだ。


彼女は、藁人形の左手のあたりにむけて針を刺した。


また俺の左手の部分に痛みがきた。


「またかよっ」


思わず痛みを感じながら人間ってそんな声がでるんだって思うような声がでてしまった。


今度こそ、確信した。


彼女は本当の魔女なのだと。


俺はおそるおそるルナの顔をみた。


ルナは楽しんでいるのか端正な顔立ちがさらにはえるような満面の笑みを浮かべてい

た。


そして彼女はまた針を刺そうとしていた。


「ちょっと待ってちょっとまってお姉さん!」


焦った俺は芸人のようにつっこんでしまった。


「わかった。わかったから。 君が魔女ということを信じるよ。 だから藁人形はやめて」


俺の切なる願いがわかったのか彼女は藁人形を持つ手をおろした。


それを見て俺は胸をなで下ろす。


何かが不服だったのか、ルナはもう一度、さっと藁人形に針を刺そうとする。


「ちょっと待てよ」


俺は思わず制止した。


「お前、性格悪いぞ。反応を見て遊んでるだろ」


「いいじゃない。 冗談よ」


だからドヤ顔でそんな風にいうなよと内心俺は思った。


数分前にドレスの裾をひらひらさせて空中に浮いていたのを目撃していた。


信じる材料としては薄いがここは信じるしかない。


俺の身体をいたわらなければ。


「君が魔女と言うことを信じるよ。 であのバナナと助兵衛とかいうサル捕まえようとした経緯を教えてくれ」


俺は話を本題に戻る。


ルナは、少しうつむくと話し始めた。


「私が魔女というのはさっきわかったでしょ? であの助兵衛は私の使い魔なの。 簡単にいうと本とかのイメージで魔女の側にいる猫のような感じ。 あれでもちゃんと私のいうこと聞くのよ。 スケベなのが残念だけど。 バナナは・・・・・・、この世界の物じゃないの」


「ちょっと待てこの世界の物じゃないってどういうことだ?」


俺はどうしてもバナナに反応してしまう。


しかも女の子の口からその単語を聞くとなおさらだ。


「あれは異次元から私が魔術で召還した物なのよ」


ていうか異次元にバナナがあったんだ。


まるで原産地からお取り寄せしましたといわんばかりの感覚で彼女はいう。


思わず関心してしまう俺がいた。


「だから見たことない姿をしていたのか。 でも何だってそんなもんを召還、呼び寄せようとおもったんだ? 自分で食べようとしていたのか?」


「なんで私が食べるのよ。 あれは・・・」


彼女はそこで一区切りすると少し恥ずかしそうにうつむき加減で、ポツリと口をとがらせた。


「あれは好きな人にあげるのよ」


「あのままか?」


「そんな分けないでしょ! あれはチョコバナナに加工してあげるつもりだったの」


チョコバナナといわれ俺はぴーんときた。


このところ世間でにぎわっているもの。


「バレンタインのプレゼントか」


俺はそのまま思いついたことを口にした。


するとルナは顔をゆでたタコのように真っ赤に染める。


「そ、そうよ。 悪い?」


彼女は動揺したようにいった。


「いや、悪いとはいってないけど・・・・・・」


なぜバレンタインにチョコバナナを渡そうと思ったのか?


そこがまず俺は疑問を感じた。


「なんでバレンタインにチョコバナナなんだ? 普通のチョコでもよかったんじゃないのか」


「普通のチョコじゃ効果は薄いでしょ」


ん・・・・・・?


「効果が薄いってどういうことだ?」


「普通のチョコじゃ彼のハートをゲットできないでしょ」


普通のチョコでも女の子からもらったら効果ありそうだが、どう違うのか俺の中でわからなかった。


しかし、一つチョイスが気になることがあった。


「そりゃあ、そうだがチョコバナナって」


マジかよと俺はおもった。


それをチョイスするルナのセンスも違うなと思った。


「でもわざわざ異次元だっけ? そこから召還する必要がないんじゃないのか? 普通のバナナでも材料的には同じろ」


「だから普通じゃダメなの。 彼のハートをゲットする為に私は異次元からあのバナナを召還したの。 あのバナナには催淫効果があるの」


「催淫効果?」


「簡単にいえば惚れやすくするの!」


「惚れ薬の代わりってことか」


なんていう奴だと俺は思った。


「そういうこと。 で、私はあのバナナを召還して、材料にしようとしたら助兵衛が突然、暴れ出してあのバナナを奪って逃げたの」


ルナは身振り手振りで必死にこちらに伝えようとしていた。


俺は少し考え、口を開いた。


「要はあのサルはバナナの誘惑に負けたってことだな。

そして君がバレンタインに必要なバナナを持ち去ったから追いかけ回してたんだな」


「そういうことになるわね」


ルナはハァと盛大なため息をついた。


「あの状態なら魔法があれば捕まえられそうだが?」


「簡単にいってくれるわね。 助兵衛は元々から機敏だし、かなりすばしっこいの。それに加えて助兵衛はあのバナナのせいで普段よりパワーアップしてるのよ」


「・・・・・・? どういうことだ?」


「助兵衛の身体能力がバナナの力で底上げされちゃってるの」



「でも持ってるだけじゃそうはならないだろ?」


「やっかいなことに一日一本、バナナを食べてるのよ」


それはめんどくさいことだ。


「人間なら媚薬として使うが、サルだとあのバナナは身体能力があがるのか?」


「そうなるわね。 人間でいえば、エナジードリンクを飲んでハイになってる状態ね」


なんだ、そのサルは。


かなり厄介だし、ハイになってるって動物番組もびっくりな内容だ。


「かなりめんどくさい状況だな」


正直、関わりなくないと俺は内心、おもった。


「君があのサルを捕まえようとしていてあのバナナにこだわる理由はわかったよ」


俺は内心、どうでもいいわと毒つきながらいった。


正直、帰りたいと思った。


この場から離れたかったが、神様はそこまで甘くなかった。


目をギラつかせたルナは血肉に飢えたゾンビのごとく俺の腕をガシッとつかむと口を開き、いった。


「当然、手伝ってくれるわよね」


そういうカノジョの言葉はまるで、地獄のそこから聞こえているようでマイナス三度、あたりの気温が下がるように思えた。


しかし、俺は勇気をもって答える。


「い、嫌です」


俺は立ち上がって逃げようとしたが、ルナの手が肉食動物が草食動物を捕獲するきのようにガッチリとホールドするように腕に食い込む。


「嫌とはいわせないわよ」


ルナはそういうとすっと藁人形を出す。


「アンタが逃げだしたら、居場所を突き止めて、××して×××に○○して●●になるわよ。そしたら△△△で、×××に□□□よ」


彼女の口からはその顔に似合わないエグい内容をいい、恐怖のあまり、脳が勝手に自主規制音をかぶせる。


彼女はそういうとニヤリとわらい、俺を見る。


完全に蛇ににらまれたカエルのような状況だった。


「て、手伝わせていただきます・・・・・・」


完全に俺の負けだった。


「で、俺は何をすればいいんだ?」


俺はまず彼女に指示を求めた。


「私が助兵衛を捕まえるけれど、貴方には助兵衛を追いかけてほしいの」


ルナは手でジェスチャーをしながら短くいった。


「追い込めばいいってことだな」


「ものわかりが早くて助かるわ」


嫌々、やらされてるんだけどな。


それは口には出さない。


「でもあのサル動き速いし、家の屋根なんか走ってるぞ。どう追いかければいいんだ?」


「うーん。 それはまた明日、教えるから同じ時間にここに集合でいいかしら?」


「了解」


俺はため息をつきながら彼女に返答した。


「いい。 逃げだそうとか、こないとなったらわかってるわね」


ルナは藁人形をだし、まるで怖いお兄さんたちのごとく脅迫する。


「わかってるよ。 くればいいんだろう」


俺はやけくそ感を隠さずにいった。


「そういうことよ。 じゃあ、明日必ずね」


そういうとルナは公園の出口に向かって走り、姿を消した。


一人残された俺は、はあぁと大きくため息をつき、自転車を押し帰路をあるき始めた。

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