美女と野獣とバナナ
「ソイツを離さないでぇー!」
俺は声のした方向に目を向けた。
次の瞬間には顔に柔らかいのか硬いのか分からない何かが衝突した。
衝突物に押し倒される状態でそのまま地面へと再び、倒れる。
「痛ぇ……」
このとき俺は思った。
完全に死んだかもしれないと。
しかし、自然の摂理において人間はそんな簡単に死ぬほど脆くは無いということを気がつかされるかのように顔に殴られたような重い痛みを感じた。
そして妙な圧迫感を感じた。
衝突物は何かは分からないが、とにかく俺の顔に当たっているものはスベスベでなんともいえない位に柔らかい。
「デュフフフフフフフフ……」
思わず変な笑みが出てきてしまっていた。
「痛ーい。何なのもう!」
かわいらしい声が聞こえ俺は状況を理解した。
俺にぶつかってきたのはどうやら人間だったらしい。
しかも女性。
「えっ、何? 嘘、ヤダ!」
ソイツはどうやら俺が胸の谷間に当たっていることに気がつき、離れたらしい。
俺は本当についてないなとおもったがこのとき俺は神に祈った。
あぁ、幸せな時間よ、ありがとうと。
女がどいてくれたお陰で俺は起き上がることが出来た。
すると俺の目の前にいたのはさっき空中を浮いていた水色のドレスを着た女だった。
何たる幸運とおもったがそれはすぐに間違いだと気がつく。
ドレスを着た女は俺を見るとすぐに口を開いた。
「その手に持っているものすぐに渡して」
女は強気な口調で言ってきた。
「手に持っているもの?」
俺は何を意味しているのかわからず、自分の手元を見た。
するといつのまにかさっきの振動する金色のバナナを手にしていた。
「うわっ! 何で俺こんなの持ってんだ!」
自分ですごくビックリしていた。
「それはすごく大切なものなの。そのバナナがないと作れないの。お願いだからこっちに」
女は俺に催促するように手を差し出してきた。
彼女の顔は真剣そのもので心のそこからこのバナナが必要なんだなと思った。
俺はバナナを彼女に渡そうとした瞬間だった。
<ウキー!>
突然、近くで気絶していた猿が目を覚まし、俺に飛び掛ってきた。
「おわ! 何だ、この猿! や、やめろ!」
猿はバナナが目的なのか必死で俺に対して爪を立て飛び掛ってくる。
俺はバナナを守ろうと必死で猿の攻撃をかわす。
「こ、こら止めなさい、助兵衛!」
ん、助兵衛? 何のことだ?
俺は彼女が言ったことがなんなのか考えた。
しかし、考えようとしても猿の攻撃は続く。
ならばと思い俺は最終手段をとった。
「君!」
「えっ、何! 私?」
「そう、これパスするから受け取って!」
「えっ、ちょっと待って!」
彼女は焦っていたが確認している暇はなかった。
「いくよ、バナナだ!」
水色のドレスを着た彼女にプロで活躍するアメフト選手のごとくバナナをパスした。
バナナは放物線を描き、彼女の腕の中にゴールインした。
すると猿は標的を俺から水色のドレスを来た女の子のほうへと変えた。
<ウキー!>
「お、おい。危ねぇ!」
俺は彼女に襲いかかる猿を見て危ないと思った。
しかし、予想に反して猿は大人しくなり、彼女の腕に抱きついた。
「あれ、助兵衛。元に戻ったのね。よかったー」
彼女は嬉しそうに助兵衛という名の猿を撫でた。
猿は嬉しそうにしていたが俺は見逃さなかった。
彼女の腕に抱きついていた猿は笑うはずが無いのに一瞬笑ったように見えた。
次の瞬間、猿は行動を起こす。
それは外道というべき行動であり神業とも言える動きだった。
猿は彼女の腕から離れると一気に彼女の胸へと一直線。
子供の手ほどある手で彼女の胸をわしづかみにすると指をワキワキといやらしい動きをさせる。
「ひゃっ――――!」
彼女は声にならない悲鳴を上げ、猿を払いの蹴ると自身を抱えるように両腕を回す。
その勢いでバナナは空中へと放り出される。
気づいたときにはすでに遅し、猿は空中で一回点すると地面に落ちていくバナナをキャッチ
するとそのまま体操選手顔負けの見事な姿勢で着地した。
<ウキー>
何なんだ、この猿はと俺は内心思った。
「あっ、こっ、コラ!」
彼女はすぐに気がつき、猿を追いかけようとする。
しかし、猿はバナナを抱えて、相手チームのフィールドに入ってタッチダウンを狙うアメフト選手のような勢いで俺に突っ込んでくる。
「す、助兵衛を捕まえて!」
彼女は切羽詰った顔をしながら、すがるような声をかけてきた。
「えっ?」
俺は一瞬で反応できずに遅れ、その間に猿は俺の横を通りすぎていく。
<ウキー>と嬉しそうに鳴いていた。
猿は鼻の下をこれでもかと思うほど伸ばし、バナナを抱えたまま走っていく。
そのスピードは目にもとまらぬ速さ。
視線で追っていくのがやっと。
猿はそのまま夜の闇へと消え去っていった。
「どうして捕まえてくれなかったの!」
彼女は肩を上下させ、俺が追わなかったことに対して言及してきた。
俺は何が起こったのかわからず、ただ視線を彼女の方に移した。
「あのバナナはとても大切な物なのに! どうして捕まえてくれなかったの?」
やっと現実感を取り戻し、俺は彼女の言葉に反論する。
「どうしてって、言われても……」
さすがにあの場面は反応できない気がするが。
「あれがないと、作れないのに……。彼に……出来ない」
青いドレスを着た女の子はブツブツと独り言をつぶやいていた。
「だ、大丈夫か?」
内心、何なんだと思いながらドレスの女の子に聞いてみる。
「貴方のせいなんだからね!」
女の子はいきなり顔を上げた。
「へ?」
俺はまたアホな声をだした。
それと同時にいきなり頬に強烈な痛みが走った。
「へぶっう!」
どうやら殴られたらしい。
そう気がついたときには完全に地面についていた。
「痛いな! なにするんだ!」
俺は即、目の前の彼女に抗議した。
「あのバナナがないとつくれないの! チョコレート!」
「チョ、チョコレート!?」
俺は意味のわからない状況と頭のねじが吹き飛んだのかと思うような彼女の言葉に
すっかりパニックになっていた。
ただその中でも一つわかったのは彼女が涙目になっていたことだった。
だが俺は巻きこまれたことに気が動転していたし怒りで語気を強め彼女に言った。
「チョコレートなら別にバナナがなくても作れるだろ!」
「普通のチョコレートじゃだめなの! 作るのはチョコバナナなの!」
「ヘブッ」
またしても水色のドレスを着た彼女は頬にグーで殴ってきた。
「痛いな! なんなんだ・・・」
俺は怒ろうとしたが、目の前の彼女は涙を流していた。
怒りをぶつけようとしたが言葉に詰まる。
ぶっちゃけ目の前の彼女をヤバイ奴だと思った俺は怒りもあるが、一度冷静になり彼女が泣いていることに興味を惹かれてしまった。
「ちょっと待て、何で泣く」
困惑した俺は彼女に質問した。
彼女は泣きながら狼の遠吠えのように夜空に向かって叫んだ!
「だってバナナがないと彼の心をつかめないのよ―――!」
「はぁ?」
バナナで心を掴む?
何だ、そりゃあ?
ますます意味不明になり、俺はそこでただただ呆れるだけだった。
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