夜道はご用心

今、思い返せば、何故、他の道を選択しなかったのかという事だ。


二月のとてつもなく寒い中、次の日は学校の授業があるにも関わらず俺は深夜のコンビニに足を運んでいた。


俺が読もうとしていた週間誌は必ず夜十二時、日付が変わったときを頃合に運送されてコンビニの雑誌の欄には並ぶのだ。


それを目当てに、補導されるかもしれない時間に家をこっそりと抜け出し、歩いて十分もかからないコンビニに出向いた。


コンビニに行き、その週刊誌を読む。


そこまでは普段どおりの流れだった。


しかし、俺の運命を決めたのは帰り道だった。


行きはいつものコンビニへ行くためのルートを使ったため、何も問題はなかったが帰りにも同じルートを使おうとしたときだった。


予想外にも行きに使った通りを自転車に乗った警察官が見回りをしていたのが遠くから見えてしまった。


さすがに補導されて面倒なことになるのはゴメンだと俺は思い、あまり使わない別の通り道を使うことにした。


その通りは行きに使った通りよりも街灯が設置されておらず真っ暗闇に近いし、道幅も狭い。


そこは朝でも人通りがまったくといってもいいほど皆無で不気味なのにさらに不気味さをかもし出していた。


まるでそれが異界への入り口のように見え、そこを通るのをためらう位だ。


男の俺が襲われる心配は無いがさすがに不安に駆られる。


しかし、すぐ近くには警察官が近づいている。


選択肢は二つに一つに絞られる。


補導覚悟で行きの道を選ぶか、それとも何も起こらず平穏な日常を選ぶか。


すぐさま決断した俺は覚悟を決め何でもない道を通るのを選び、足を踏み出した。


三十メートルほど歩くと街灯が無いため、すぐに真っ暗になった。


まるで明かりも無い未知の洞窟に足を踏み入れたような感じだと思った。


俺は振り返り、この道を選んだことをすぐに後悔した。


戻りたいなと思ってしまう。


しかし、悠長なことは言っていられない。


もしかしたらさっきの警察官がこちらを見回りに来る可能性は捨てきれない。


俺は早足で先に進んだ。


十分もかからない道なのに長く感じてしまい、思わずそれを紛らわすために空を見上げた。


二月の寒い夜だというのに雲ひとつなく、晴れ渡り、銀色に輝くまん丸な月が顔を出していた。


街灯や、街の人口的な明かりが近くに無いからなのかすぐに星が輝いているのが分かった。


よく漫画や映画では夏の夜空が綺麗に見えるとモチーフになるけど、実際は冬の方が夏よりも空気が澄んでいるからよく見えるという話を思い出した。


綺麗だなとセンチメンタルな気分になり、恐ろしさが少し和らぎ、余裕が出た気がした。

ふと俺は住宅が並ぶ方向に目を向けた。


なんでもない風景のなかに現実のものとは違う光景を目にした。


家の間と間を人の形をしたものが飛んでいた。


それは家の屋根を踏み台にし、ジャンプしてはまたジャンプし、別の家の屋根に移るという動作を繰り返していた。


俺はテレビで特集されていた未確認生物の話を思い出した。


たしかフライングヒューマノイドとか言う奴で人の形をした何かが空を飛んでいて、外国では出現されたのを携帯のカメラで撮られていた。


俺は恐怖半面、これはまさかスクープで一攫千金かと変な期待をしてしまい、好奇心が勝ち、震える手で携帯を取り出した。


しかし、そいつをよく見てみると完全に人間だった。


女性で青いドレスを着ていた。


パーティや、式典できるものなのか胸元と肩が隠れておらずシースルーとでもいうのか分からないがそういう形をしていた。


そいつはドレスの端を優雅にひらつかせ銀色に輝く月の光を反射させる。


まるでその姿が水槽で漂う熱帯魚のようで月の光を反射させるのは鱗のようだった。


完全に見とれていた俺は携帯のシャッターを押すのを忘れていた。


まだ十六年しか生きてないけど、こんなに綺麗な光景があるなんて思わなかった。


そう思った瞬間だった。


突然、カメラの視界の中にこちらに飛び込んでくる黒い影が見えた。


俺は携帯のモニターから目を離した。


そして次の瞬間には俺の胸にバスケットボールくらいのものがぶつかり、重たい衝撃が伝わる。


「げふっう!」


思わず今の漫画でも使われそうにない声をもらし、そのまま後ろに倒れた。


「痛ぇ……」


胸に鈍痛を感じつつ、俺は起き上がろうとする。


自分の胸に何かが乗っかっていることに気がつき、顔をその方向に向いてみた。


信じられない光景が目に飛び込んできた。


酒に酔ったおっさんのような顔をした猿が俺の胸で気絶していた。


「さ、猿ぅ?」


素っ頓狂な声をあげ驚くしかなかった。


もう一つ、驚くことがあった。


右手に何か変な感触があった。


それはフニャフニャしていてしかも指先が痺れた感覚になるほどブルブルと振動していた。


「今度は何だ?」


視線を自分の手もとに向けるとそこには暗闇を照らすほど金色に輝くバナナが落ちていた。


「なっ、何だこれぇ!」


俺はすぐにそのバナナから手を離すと自分の胸で伸びている猿をつまみあげる。


疑問だった。


こんな自然の無い住宅街で見れる動物といえば野良猫か飼い犬、それに鳥くらいだ。


なんで猿がこんなところにいるんだと。


このとき俺は自分の思考におぼれている場合ではなかった。


さらに俺を脅かす危機が目の前に迫っていた。

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