第3話 日昼の爆弾魔
「祥吾君、事件だ。」
「またかよ!
昼飯ぐらい食わせろってんだ!」
オシャレなバーカウンターでカップラーメンを搔っ食らいながら迷惑そうな口調でオヤジが吠える。
「さっきまで暇だ暇だって言ってたじゃんか、カッコつけんな。」
「うるせぇな、どこかカッコ付けてんだよ?」
「その感じだよ、ホントは事件起きて嬉しくて仕方無いクセに〝望んでません〟的な感じ出しやがって。」
「んだとぉ..?」「なにさ?」
「もう、ほらほら。
そんなベタベタな事しないの、説明するよ?」
「誰がベタなバディだオッサン!」
「そこまで言ってねぇよ」
大門は紙を広げ、言葉を半ば無視しつつ事件の全容を説明した。
「絲丸高校で突如爆破事件が発生した。今日の朝10時48分頃、二階女子トイレが突然爆破、トイレ内は跡形も無くなり更地になった。衝撃により壁は破壊、崩壊し、外壁を取っ払い吹き抜けとなった。」
「10時48分、刻むな細かく。」
「イト校..直ぐ近くじゃんか!」
大門は更に続けた。
「幸い周囲に人はおらず怪我人は無かった。爆破の原因は不明、瓦礫の他におかしな成分等は見つからなかった」
「見えない爆弾だってか?」
「サイレントボマー...だせぇな。」
「運良く人が居なかったが、次はいつそれが起きるかわからん、危険だ」
「次があるのか?」 「バカかよ!」
何故爆発が起きたか、何故この事件が廻って来たのかを理解していない祥吾に呆れ果て、最大に見下しながらミルカは意味を声にする。
「魂一課に任された時点で犯人はわかってんだろ、彷徨う魂がやってんの!
でもってソイツが動き回るヤツならいろんな所で爆発が起きるって事になるんだよ、そんくらいわかっしょ?」
「あぁそういう事か、だな。」
「言われるまで気づかなかったんだ、アタシはこんなののバディなんだな」
か細い愛想は完全に尽き、芯の抜けたミルカの身体はソファと一体化した。
「いちいちうるせぇなぁ..で?
俺は何をすりゃあいい」
箸に麺を絡ませて、一気に吸い上げ問いかける。
「ふむ、まぁ簡単にいえば潜入捜査だな。校内に直接潜り込んで、手掛かりを探って貰う」
「はいよ。
だそうだ、行くぞガキ」
「アタシパスだわ、悪りぃな。」
「てめぇまたサボる気か!」
「違うよ、構造の問題っしょ?
校内入ったらムッキーは見えなくなるけどアタシは丸見えなんだよ」
怠惰に都合の良い理由が着いた、環境が味方するとはこの事だ。
「その間お前何してんだよ?」
「うーん...ソシャゲ。」
ガチャに潜入しレアを探ってマラソンするようだ。
「よし、お前も来い」「なんでよ?」
「屋上で張って俺に指示を出せ。烏丸、資料と通信機器貸してくれ」
「はいよ」
大門から事件の全容が記載された資料と、耳型の装着機を二つ受け取ると、装着機の片方一つを己の耳へとしっかりはめた。
「お前は左耳だ」
「ちょい待って、これ何さ?」
「伝読装置、まぁイヤホンみたいなもんだ。これで離れた箇所にいてもやり取りができる。これ、資料な」
「うっげ、耳の形してるよ気持ち悪りぃ..。」
資料を読み上げ祥吾に伝え、それを頼りに調査を行う。二人一組の形を成した陣形体制である。
「じゃ行くぞ」 「ちょい待って。」
「なんだよ?」
「それやんのはいいんだけど、アタシはどうやって屋上(うえ)まで行くのさ?」
役割を担うべくのそもそもの道中を馴らす事を忘れていた。このままでは砂利道を歩いて躓く事になる。
「どうすんのさ!」
「ヘリなら出せるが。」
「..何?」
ハゲマスターのふいの一言が言葉を止めた。まさかそこまでの強アシストが備わっていようとは。
「..んじゃあ、それで頼むわ。」
様々な疑問を鵜呑みにし、乗っかりいただくことにした。
「なら早めに準備をせねばな!」
「俺もだ」「ちょっと待てってば。」
「アンタが操縦すんのかもしかして」
結果的に、彼女が一番目立つ事となった。潜入は早くも失敗に近い。
「調査開始だ」
20分後..。
「ここが例の女子トイレか。
ひでぇな、ツギハギだらけだ」
派手に開けられた大きな穴を、なんとか木材を打ち付けて塞いでいるような状態の便所は、とてもじゃないが用を足す気にはなれなかった。
「個室まで残らず吹っ飛んでやがる」
『皆さーん、変態がいますよー』
「うるせっ!
誰もいねぇよ俺以外!」
イヤホン越しの煽りにすかさず言葉を返し、応戦する。ワイヤレスでも振る舞いは決して変わらない。
『様子どうよ?』
「跡形も無くやられてるな、なんとか形を保ってる感じだ。」
『知ってるよ』「なに?」
『資料に書いてある通りじゃんか、もっと何かないの?
怪しい人影見たとか変なもん落ちてたとか、そういうんでしょ普通。』
「ぐっ...。」
悔しいがごもっともだ。見たまんまを伝えても意味がない、独自の発見を見出してこその調査なのだ、グゥの音も出ない。
『なんかないのー?』
「..わかって言ってんのか、まぁ無くはない。さっきから変な臭いがする」
『便所だからっしょ』
「違ぇよ!
なんかこう、薬品っぽいにおいだ。」
『薬品のにおい?
資料にそんなん書いてないけど』
「だとすりゃ俺にしか嗅げてないにおいなのかもな。」
『あぁ〜、なーるほど..』
表面的には映らない、魂の成分。祥吾にしか掴めない手掛かりの証。
『それを追っかけたりは出来る訳?』
「出来なくはねぇ、外にも薄いが臭いが残ってるしな。仄かに程度だが」
『じゃあそれ探ってみなよ、その間に資料漁って茶々入れてやるからさ』
「茶々を入れんな情報を寄越せ。」
『わかってっから動けってムッキー』
補足を茶々に摩り替えるつもりのバディを諭したところで行動は自由、仮に本気で茶々を入れらても祥吾がする事は変わらず、薄い臭いを追うのみだ。
「それにしても分厚いなこの本、オッサンが持ってた紙切れは一部でしか無かったんだわな」
ページで連なるファイルの中に資料となる紙が抜け目なく綴じられている。
「こん中から何を探せばいいってのさ、無理ありまっせ。」
「きちんと事柄別に付箋で区切られているが?」
「え、あ、そうなんだ」
よく見ると、一定のページや情報で付右上に付箋が貼られ、きちんと人や出来事と明記され、区別されていた。
「なんだよ、わかりやすいじゃんか。
つーかなんでここにいんのオッサン?
アタシだけでいいと思うんだけど」
「そうか?」
奥に止められたヘリコプターからひょっこりと大門が顔を出す。
「よくこんなところで寛げるなミルカちゃん、塀に寄っかかって空なんて眺めちゃってさ、あと何そのお菓子の山?どこで集めたの?」
塀に膝を立て屋上の床に直に座るミルカの周りには、手頃なサイズの袋菓子が重なって並んでいる。
「いいんだよ、アタシは幾らでも〝持って来れる〟んだから。それよりこっちが聞いてんの、なんでいんの?」
スナック菓子を齧りつつ、問う。
「なんでって私が消えたらどうやって帰るの、ヘリ操縦できないでしょ」
「そっか、そういやそうだね。」
一声で納得の理屈、言う事は無し。
「さーて、本でも読も。」
何も無かった、と視神経を資料へと流し脳を騙す。正式な調査再開である。
「人でも調べてみっか」
付箋ジャンル[人物]を引用する。
「殆どは、教師だなんだの職員のデータか..興味無ぇな。」
パラパラとめくり流しながら目で追う。書いてあるのはどれも年齢や職業、役割などの普遍的なものばかり。参考になりそうな物は余り無い。
「...ん?
ちょい待ち、コイツ。」
意外なものが目に留まる。普通の場所に一つだけ、可笑しな点を発見した。
『なんかあったか?』
「え、いや呼んでないけど」
『馬鹿か、耳繋がってんだからこっちまで聞こえんだよ。』
「あ、忘れてたわそうだった。」
「ったく、で?何がどうした」
『いや、参考になるかわかんないけどさ、薬品がどうとかなんか言ってたじゃん?』
「あぁ、それが何だ?」
『ここの科学の教師がさ、結構薬品に増資が深いらしいんだわ』
「へぇ、そうなのか。
その教師はどこにいる?」
『それがさ、死んでるみたいよ。』
「なんだと?」
『二ヶ月前だって、死因は何でか書いてないんだけど』
人が死んだという事実を軽く口にし伝えている。仕方ない事だ、面識も無く関わりも一切無い者がこの世から去った瞬間などこんなものだ。魂は儚い、哀れみなど贅沢だ。
『そっちはどうよ?』
「俺か、臭いを追って歩いてみたがぱったり消えちまってな、元々薄かったが完全に臭わなくなった。」
『今どこにいんの?』
「扉の前だ、ここは美術室か?」
一見すると臭いを辿って偶々行き着いた風に聞こえるが、ミルカは何か違和を感じた。
『周りに人は?』
「それがおかしくてな、さっきまではちらほらいたんだが臭いが消える度に少なくなって、今は完全に居ない状態だ。」
『やっぱ変だ。
ムッキー、美術室には入るなよ?』
「なんでだよ、別に何にも無ぇぞ。」
『アンタまさかもう..』
「モウ、遅いヨ。」
「ん、なんだガキ、何か言ったか?」
視界が白く大きく光る。風が身体を飲み込み、包み弾ける。ミルカの耳元には、其れ等が広がり、暴れる音が伝わる。
「ムッキー!」
「どうしたのだ?」
「美術室から、爆発音が...!」
「祥吾くんがやられたのか!?」
無残にも砕け散った美術の部屋、辺りには以前は机だった木々の破片が散乱し、白い煙を上げていた。この場所も、女子トイレ同様用途を遂行出来ない欠陥品となった。
『ムッキー、ムッキー!?
ダメだわ、返事しねぇ。」
「ヒはは!
ブっ飛んだァー、科学は最高だネェ!
...ロマンが止まらナァい。」
「っ痛ぇ...この臭い、そうか。
やっぱりこれが爆破の原因だな?」
パラパラと破片を払い立つ人影が、煙の向こうに現れる。
「生きてるのカァ?
机を上手く盾にシタカァ。」
「俺が知るか!
殺したきゃもっと上手くやれ」
空間範囲の爆破を奇跡的に回避した祥吾が強すぎる悪運を掲げ殺害方法の甘さを指摘する。凄まじく図太い男だ。
「くそ、耳のイヤホン無くしちまった。..どこ行きやがった?」
「ゲはは!
ピンピンしてやガル!
爆発をものともシテネェとは驚キ!」
「誰だお前。
小さいな、人形か?」
白衣を纏う二頭身程の小さい男が、ガラスの弾けた吹き抜けの窓の塀に腰をかけニタニタと笑っている。左手にメスシリンダー、右手にフラスコを握り、中にはどちらも何かの液体が注がれている。
「ホウ、俺が視えるノカァ!」
「見えるのか?
って事ぁそういうことか、成る程な」
彷徨える魂、その正体は..
「お前ここの科学の教師だな?」
「ゲヒャハハ!
素性まで知ってんノカ!有難ェ!!」
「今は爆弾魔になってるみてぇだけどな。」
予想外の転職、無事彼の天職になればいいが..。
「人聞きの悪リィ、これは実験ダ。
俺は未だに科学者ダア!」
科学教師の魂は両手のガラス容器を中心で傾け中の液体を混ぜ合わせる。
「何してやがんだ?」
「お前ダケデ実験だ、一人でフッ飛べェ!ゲヒャヒャヒャ!」
混ざり合った液体は表面を凝固させ柱状の形となり、銃弾の様に祥吾へ放たれる。
「あれを撃ち込んで爆発させてんのか、身体でモロに一発受けりゃ大怪我
も良いとこだな。」
範囲が個人に限定されている分被害は少ない。先程の様に部屋全体が破壊される事は無い。しかし逆に言えば、個人で当たれば終わりという事だ。
「材料にナレ、ナレェッ!」
「悪りぃな、俺も丸腰じゃねぇんだ」
背中の結い紐を解き、鞘の無い日本刀
を右に握る。
「証拠も死体も残らねぇ上に爆死なんて御免だぜ!」
液体の迫るタイミングに刀身の間隔を合わせ、腕をぐるりと回転させ、下側から斬り上げる。
「当たり..」
液体の柱は両断され、何も無い左右の空間で同時に爆散する。
「斬りやがっタァ!?」
「爆発には強いらしいぜ、俺の刀は」
「爆発に強いイ?面白イ!
どこマデ持つか見ものダナァ!」
再度液体を混ぜ合わせ、銃弾を複数生成する。
「くそったれが..」
数撃ちゃ当たる、祥吾を被写体とした実験から刀の耐久を測る実験に変更されたのだ。
「始めヨウカ...?」 「くっ!」
「今の音、ここらへん?」
「もうちょっと先だと思う!」
「..女の、声か?」
学校の、女生徒と見られる声が今までの爆破の音を聞きつけてこちらに近付いているようだ。
「チッ、じゃじゃ馬メ。」
銃弾が次々と容器に還り、液体に戻っていく。
「じゃあナ!」
窓に手を掛け背中で伝える。
「待て、どこ行きやがる?」
「オアズケだ、おれは消エル。」
それだけ言うと窓に飛び込み何処かへ消えた。
「仕方ねぇ、俺も出るか..。」
渋々結い紐を結び直し、部屋を出た。
仕留めきれずに、まんまと逃げられた形である。
「ここだ美術室!
..ってあれ、誰もいない。」
机も、窓も何もない。最早美術室ですら無い。
「痛って..思ったより始めの爆破の衝撃が残ってるな、姿見えなくて良かったぜ。」
壁に寄り添い半身を軽く引き摺りながら廊下を密かに移動する。
「耳がなくなっちまったからな、見つけてもぶっ壊れてるだろうし、自力で屋上に向かうしかねぇよな」
事後報告は口頭で、難儀な事だ。仮の魂から綴られる言葉に言霊は宿るのか?
疑問の残る処である。
当の屋上では..
「ムッキーぶっとんだのかな?」
「どうだろうか、間近で拝んでいないから理解しかねるところだが。」
「まぁでも身体は丈夫だと思うんだけどねー。」
塀に寄り掛かりのほほんとした様子で棒状の菓子を貪る。正に他人事そのものだ。
「爆破の原因は薬品か何かかねぇ。」
「何でそう思う?」
「んー...微かにだけどさ、爆発する前に幾つかの液体が動いてる音がしたんだよね。なんかこう、混ざり合うみたいな風に」
「結構耳がいいな、ミルカちゃん。」
「偶々聞こえただけだよ。
それに元々睨んでた奴が睨んでた奴だしさ」
「科学の教師?」
「そ、科学の先生。薬品狂い〝ワカスギ〟こいつしかいないだろ」
「どうだろうか。」
資料の写真を大きく赤い丸でグルグルと囲いじっと見る。
「そのメガネ、似合ってないけど?」
3階廊下
「思ったより広い。いや、慣れてねぇだけか。」
屋上を目指し、尚も校内を散策中の祥吾、爆発の衝撃が残るのもあってか未だ思うように辿り着く事が出来ていない。
「美術室(さっきのへや)は同じ階だった筈だがこんなに遠いのか?」
同じ階の廊下、そう遠くは無いと判断するも距離感覚は伴わない。同じ道を繰り返し歩いている気さえする。
「それにしても急に平和になりやがった、さっきまでバンバカ派手にやってた筈だが。」
祥吾は屋上が見つかるまでの暇つぶしも兼ね、ワカスギの爆破の仕方を思い返してみた。
「始めは二階の女子トイレ、次が三階の美術室..何か規則性があんのか?」
階数は上がっている、場所はバラバラだ。共通点や比例する点は余り無いが、単純な物理的な疑問は有る。
「三階の美術室は二階のトイレより中が広かった、爆破の範囲が広がってるって事か..。」
関連する数字に伴い爆破の範囲(スペース)を広げている、そう解釈した。
「二階に三階、その後がまだあるとすればそれはその上、俺の目指す場所。
そしてその場所を報せ指し示す手掛かりは..」
廊下を歩く人々が忽然と途絶え、消える。祥吾の先には階段と、その先に一つの四角い扉。
「あの向こうが屋上って訳か。」
導かれるままに造られた道を踏みしめ階段を登り長方形の扉の前へ
「屋上は当然美術室よりも広い筈だ」
祥吾は扉の前で考える。
「中には俺のバディとハゲたオッサンが居る。爆破されれば、諸共に壊れるだろう」
美術室を超える範囲の爆風に呑まれ跡形も残らなければ、調査も覚束ぬまま実験成功となってしまう。
「連中が死ぬ事は無いだろうが奴の笑う顔は見たかねぇ。爆破を起こす前、気かれる前に抜け出して避ける他無ぇな!」
相手がモーションを起こす前に対処する、そうする事で難を逃れる。頭の中で何度かシュミレーションをしながら扉のノブに手をかけ廻す。
「急がねぇとな..」
「ドコに行くンダ?」
手首でドアを圧し開けようとした刻、直前で耳元に響いた。
「て、めぇっ..!」
己の背後、扉を背にした廊下へ降りる階段側の通路の方に、陰気な科学の魂がプカプカと空中で上下している。
「その先には何ガアル?」
「..性悪学者が。」
「ヒヒッ!
遂に認メたカ、科学者だト。」
人を食ったような態度、扉の奥が屋上だと解っていながら敢えて尋ねる愚行。そんな振る舞いに耐えかねたのか、此方側も探りを入れた風な無関係な質問を施し始めた。
「お前、何で死んだんだ、変死って扱いなんだろ?」
資料の情報によれば死因は変死、そう聞いていた。
「..フフッ!」
下を向き、顔を伏せるようにして不敵に笑う。おぞましい思い出し笑いだ。
「変死となったか、何かしら証拠は残るものと思ったがね。..我ながら優秀な結果だ。」
「お前、声が..」
不協和音のようにおどろおどろしく不快だった声が一変、不気味さは残しつつも男性の低い声に。
「お前が死の直前の話をするからだ。
...それにしても変死とは、見事〝実験〟は成功と言えるな。」
「実験成功...お前まさか」
「御名答、私も一つの実験材料に過ぎなかったのだ。」
「イカレてんな、てめぇ..!」
自らに薬品を投与し、実験を遂行した上での結果が死であったのだ。
「生死などという概念は関係ない、材料としての違いは無いからな。お陰で学校内からは出ることの出来ない身体になってしまったがそれでも尚実験は続いている。」
恐らく今の実験材料は祥吾、望む結果は変死以外の一体何なのだろう。
「さぁ勇者よ、扉を開き先に進むがいい。」
「挑発か?」
「挑発なんかしてどうする、わかっているだろ?
もう自分に時間が無い事くらいは。」
時間経過と行動範囲を同時に煽りメンタルを操作する、祥吾の振る舞いは必然的に、少なく幾つかに絞られる。
「くそったれが!」
ノブに手を掛け扉を押す。
「いい選択だ、一つ良いことを教えてやる。私は爆破の段階を、始めのものから数えて少しずつ昇げている。」
「やっぱりか。」
読みは当たっていた、二階の女子トイレから徐々に爆破は確かに大きくなっていた。
「しかしそれはランダム。
二階から三階に上がる際には爆破の範囲を、そして今回はそれだ」
祥吾の握るドアノブを指差す。
「爆破というのは自在でね、早めに仕込んでおけば時間やタイミングをずらせる。」
空間に液体を撒かずとも対象物に付着させる事でそれ自体を爆弾と化す事もできる。その上爆破する時間を調節し遅らせれば、誘発させるトリガーに変わる。
「そして今回拡大させた爆破の部位は火薬(パワー)の量だ。」
「ちくしょうがっ..!」
ドアノブから光が上がる。
美術室で聞いた大きな音が、再び身に降り注ぐ。四角い扉は形を崩し、煙と風の暴威を受けながら、屋上の空を見上げるまでに吹き飛んだ。
「扉が弾けた?
嘘だろ、ここまで来たのかよ!」
「..今すぐ、ヘリの電源を入れよう」
「俺の心配は..無しかよ...?」
扉とは反対側、階段を挟んだ廊下の方へ吹き飛んだ祥吾が不満をぼやき狼狽える。
「へぇ、結構丈夫なんだな。」
「......五月蝿ぇよ」
(反射的に後ろへ飛んだから良かったものの、モロに食らってたらヤバかった。飛んでも充分痛てぇけどな。)
「取り敢えず俺が近くに居るって事を伝えとかねぇとな、あのまま放っときゃ勝手にヘリ乗って帰ってっちまう」
背中の刀を槍の要領で握り、抜けた扉の隙間から、屋上の床へ投げ入れる。
「ん、何の音?」
コンクリに鋭く鉄の擦れる音。
「あそこに突き刺さってんの、ムッキーの刀じゃん。マスター、ヘリ中止。アイツ近くまで来てるよー」
「あ、ホントに?」
すかさずヘリの電源を落とす。
「プロペラの音が止まったな、成功したか?
まぁこんなもんだろ。」
右腕をグルグルと回し立ち上がる。
「俺も行くかぁ。」
「どこへ行く、逃すと思うのか?」
「めんどくせぇなぁ..」「なに?」
「じゃあお前も来い。」
「何をする、離せ!」
二頭身の小さい白衣の首根っこを掴み、屋上の入り口へストレート、砂を掻き集めたくなる程見事なフォームで叩き込まれる。
「マスター、ワカスギもいるわー」
「ホントに?
やっぱり電源入れようか?」
「てかちっさ、ワカスギちっさ!」
刀の傍食い込むワカスギ、白衣は褪せず白いまま。
「..やってくれるぜ、二度も爆破に巻き込みやがって」
コンクリに刺さる刀を引き抜き肩に掛け、打ち捨てられたワカスギを見下ろし睨みつける。
「ひぃっ!
悪かった、許してくれぃ!」
地に頭をつけ許しを乞う、サラリーマンが得意な体勢だ。
「………」
「許してやればぁー?」
「うるせぇよ、んな遠くから指示すんな!」
「チョロいな..」
にやりと密かな眼光が煌きを放つ。
「くたばり爆ぜろお仲間さん達よ!」
「なんだぁ?」
土下座の状態で顔を上げ、両手に携えた器具から液体を放出し、飛ばす。
「くそったれ!!
マスター、ヘリ動かすなよ!」
「何この汁?」
「汚な..。」
「あっちは間に合わねぇかもな」
ヘリ目掛けて飛んでくる液を先回りして斬りさばく。
「ガキ気をつけろ、そいつは..!」
「よっ」
祥吾の忠告をロクに聞かず、足元の棒菓子を液体へ投げつける。液体は菓子に接触し手前で大きく爆破し消えた。
ミルカへの外傷は一切無い。
「なんか言ったムッキー?」
「言ってねぇよ、何も。」
(おっかねぇ奴だなコイツはマジで)
「菓子一つ無駄んなっちゃったよ勿体ねぇ、どうすんだよ。」
腹持ちの言い分残念度も高い。
「一個くらい妥協しろ、生きてんだぞお前。..もう奥の手は無いよな?」
「ひ、ひぃ〜!
わ、悪かったぁ!許してくれぇ!!」
「信じない方がいいよー?
またおんなじ目に合うからさ」
「わーってるよ、だがもうしねぇだろ。また刀で斬られるの分かってんだろうからな。」
(バカが!その情けが甘いんだよぉ!
お前の刀が薬品液を斬れる事は重々承知、ならお前の刀そのものに液体をくっ着けちまえばいいんだよぉ!!)
「ま、止めは刺すけどな。
ウロチョロ逃げられても面倒だしよ」
(お〜させさせ、奴が刀を振り上げたときがチャンスだ。刃をバラバラにして、もう一度お前を爆破してやる!)
「でもソイツ自縛魂(じばくこん)でしょ、どうせ外には出れないじゃん」
「あーそうだっけか、そういやそんな事自分でも言ってたな。」
「まぁ念の為だ、念の為」
(振り上げた!今だぁっ‼︎)
「終わりだクソ中年!」
刀の刀身が白く光り出す。
「なっ、いつの間にか!」
「もう遅い!
お前は気を逃したんだよぉ!!」
(気付かなかったか?
お前が私を投げたときにたっぷりと塗ったのさ、薬品の色素を消す事など造作も無いんだよぉ‼︎)
「終わりだ、ギャハハハハ!!」
「くっそぉっー!」
光は広がり、爆風を撒き散らす..ように見えたが何も起こらず小さく萎み、分散して消滅した。
「なんてな、液を斬れる時点で気付かなかったか?
これは魂を斬り裂く刀だ、お前の魂(ちから)なんざ元々受けつけねぇんだよ」
「あっ..あっ、ああぁっ...!!」
「じゃあな、実験大好き白衣の科学者いや、爆弾魔だったか?」
斬り裂く刃が、紛う事なき魂に振り落ちる。
「任務完了。」
ワカスギ、成仏。
「おつかれ、さぁ帰ろう」
「ヘリでかよ、派手だなー。」
「文句言うなオヤジ」
「言ってねぇよ!」
結局目立つ、仮の魂達。
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