出発します


 魔王城を旅立つのは、二日後となりました。


 それまでに色々と準備をしておいてくれとアカネさんから言われましたが、準備って何をすればいいんですかね?



「…………暇です」


 結局、その準備とやらが思い浮かぶことはなく、私はベッドの上でゴロゴロと暇を持て余していました。


 その横には、もちろんウンディーネが居て、同じく暇そうに窓からお空を眺めています。



「はぁ……」


『リーフィア、元気なさそう……大丈──きゃっ!』


 顔を覗き込むその動作が可愛らしくて、私は彼女を抱き寄せました。

 驚いたように目を開くウンディーネですが、抵抗することはしません。



「ウンディーネと離れ離れかぁ……」


『ちょっと行って、帰ってくるだけだよ。……それに二人きりになった時はうちも実体化するし、ずっと離れ離れじゃないよ?』


「わかってはいるんですけど……それでも、うーむ」


『あ! じゃあ、こういうのは、どうかな……?』



 何かを思い付いたように体を起こしたウンディーネは、以前に私が贈った腕輪を取って、私の左腕に通しました。



『これがうちだと思って? ……これで、うちとリーフィアはずっと一緒だよ』







 はぁーーーーーーーー、可愛い。


 なんですか、それ。

 なんなんですか、それは。


 発想が可愛いすぎてやばいです。


 少し照れながら微笑むその姿が、なんとも愛らしく、はぁ結婚したい。



「ウンディーネは嫌ではないのですか? 私が、アカネさんと結婚するの」


『ずるいとは思ったよ……でも、そうしないとアカネがここに居られないなら、うちは文句を言わない。……リーフィアと同じで、うちもみんなと一緒に居たいから』


「べ、べべ、別にぃ? みんなと一緒に居たいだなんて、私は一言も言ってませんし?」


『ふふっ……アカネが、結婚したらここには居られないって言った時の顔、ちゃんと見てたんだからね?』


「…………気のせいですよ。まったく、ウンディーネはいつも私のことを見てますね」


『うんっ、だって、大好きだもん……!』



 そうやってダイレクトに言ってきますね……自分で言っていて恥ずかしくないのでしょうか。

 …………ああ、恥ずかしがってますね。耳が真っ赤です。



「ありがとうございます。ウンディーネの腕輪。お借りしますね」


『失くしたら許さないからねっ』


「…………失くしませんよ。失くすわけありません」



 エルフ達の森で右腕を魔女に喰われた時、私は無意識に、私の腕よりもウンディーネと購入した腕輪を優先していました。

 もしあそこで反応が遅れていたら、二人でお揃いだった腕輪ごと右腕は盗られていたでしょう。



 そうしたら私は、多分立ち直れなかった。



 だから今、私の両腕に二つの腕輪があって良かったと、心の底から安堵しています。




「アカネさんとの式が終わったら、次はウンディーネです。アカネさんの時ほど盛大にはできないかもしれませんが、それでも絶対にやりますから」


『うん、待ってる』


「ええ、待っていてください」



 それを成し遂げるために、まずはアカネさんとの式を無事に終わらせないといけません。


 あっちで私は何らかの面倒事に巻き込まれるのでしょう。というか、もうすでに巻き込まれているので今更ですけど、アカネさんのために頑張らないといけません。



 まぁ、流石にエルフの時ほどではないと思いますけど──って、これフラグ?



「何ででしょう……急に、すごい悪寒がしてきました」


『えぇっ!? だ、大丈夫?』


「ダメかもしれません。慰めてください」


『わかった……!』



 ちょっと冗談のつもりで言ったのですが、変なところでやる気を出したウンディーネに、気づけば私は膝枕をされていました。


 頭から伝う冷たい感触が、とても心地良いです。



『頑張って、リーフィア……うち、応援してるからね』


「はい、頑張ります」


『リーフィアから姿は見えないけど、うちはずっと……リーフィアのことを見守っているから。それを忘れないでね』


「……ええ、絶対に忘れません」


『アカネとの結婚はおめでたいけど……その…………結婚しても、うちに構ってね?』


「約束します。…………ところでウンディーネ」


『うん。どうしたの?』


「鼻血が止まらないのですが、どうすればいいでしょう?」


『キャァァァ!? り、リーフィア大丈夫!? ご、ごめんね? 何か痛かった!?』


「いえ、むしろご褒美をありがとうと言いたい…………あっ、なんか懐かしい風景が見えてきました」


『それ見えちゃいけないやつだと思う! リーフィア戻ってきて!』






 ああ、幸せ…………ガクッ。













 という茶番を続けていたら、あっという間に出発の日となりました。


 眠気を我慢……できなかった私がウンディーネに運ばれながら魔王城の門まで向かうと、そこには旅服に着替えたアカネさんと、ミリアさんの姿が見えました。



「どうして、ミリアさんもお着替えをしているのですか?」


「部下が二人で式をあげるのだ! 魔王である余が行かなくてどうする!」


「いや、来なくていいです」


「相変わらず酷いな!?」


 どうしてかミリアさんも旅についてくることになりました。


 常識人アカネさんとウンディーネとの三人旅は平和で良いかもしれないと思っていた矢先の、小うるさい子供の乱入です。




『賑やかになりそうでよかったね!』


 屈託のない笑顔でそう言うウンディーネに、私は愛想笑いを返すことしかできませんでした。


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