私達も動きます
さて、ウンディーネが見事にやらかしてくれていたことが発覚し、執務室は何とも微妙な空気に包まれていました。
ウンディーネは、水の質を低下させ、半分の水を枯らしたと言いました。彼女は私に嘘を言わないので、それは本当のことなのでしょう。
流石は水の最高位精霊。やることの規模が馬鹿にならないレベルです。
彼女は『警告だ』と言っていますが、普通に考えればそれだけのことで食料難に陥るエグい罰です。私達の敵である人間達と、エルフ。彼らの住処全てにウンディーネの力が及んでいるのであれば、今頃彼らは『対魔王』どころではないでしょう。
下手をすれば人間同士で戦争が起きます。
こちらとしては勝手に争ってくださいと思うことなのですが、ウンディーネがやっていたことは、それだけ重大なことだということを理解していただけたでしょうか?
これは警告なんて生易しいものではありません。
これは──痛恨の一撃。破滅の一手だと言っても、過言ではありません。
「えっと……これ、どうしましょうか?」
「ウンディーネの契約者は君だろう」
「……いや、流石に手に負えないのですが?」
ウンディーネの力を侮っていたわけではありません。
ですが、あの事件のことで彼女が密かに怒っていたことは、私も知りませんでした。そのことを知っていれば事前に止めることは出来ていたのですが、今となっては全てが遅い。
もちろん、その責任を私に負えと言われても、無理な話です。
『りーふぃあ、ごめ、ごめん、ね……? うちが、勝手なこと、したから困らせちゃって……』
私とヴィエラさんで何とも言えない表情をしていると、それを察したウンディーネが泣きそうになって謝罪してきました。というかすでに泣いているので、私は慌てて彼女を抱きしめます。
「おーよしよし。ウンディーネは悪くありませんよー。悪いのはちょっかいを掛けてきたあっちですからね。むしろウンディーネは良いことをしてくれました。謝る必要なんてないんです」
私は視線だけをヴィエラさんに移し、「ですよね?」と語ります。
「う、うんっ! そうだとも! 人間側の勢いが別の方向に向いてくれるのなら、私達としては大助かりだ!」
『ぐすんっ……ほんとう?』
「本当だとも! 急なことで理解が追いついていなかっただけで、ウンディーネが勝手に悪いことをしたなんて誰も思っちゃいない!」
「ヴィエラさんの言う通りですよ。ウンディーネは十分に良い仕事をしてくれました。後でご褒美に好きなだけお菓子買ってあげます」
…………魔王軍の資金で。
「でも、これから人間とエルフはどうするのでしょう?」
私達が懸念すべきは、そこです。
予想している通り、彼らは一旦、対魔王への準備を取り止めるでしょう。
そして、まずは自分達の抱える──あるいは抱えさせられた?──問題をどうにかしようと動くはずです。それは人間同士が仲良く手を取り合うのではなく、戦争という形で……。
敵味方関係なくなった瞬間、今まで繋いでいた手を振りほどく様は滑稽の一言ですが、そういう欲深いところが人間という種族です。
……でもまぁ、魔王軍に危害が加わらないのであれば、私達は嬉しい限りです。その点に関しては、プラスだと考えておきましょう。
問題は、エルフです。
彼らの反応が予想できません。
ダ……、……あ〜、っと……なんでしたっけ。エルフの管理者の名前。
久しく呼んでいないので、名前を忘れてしまいました。
今はとりあえず『カオナシ』と呼称しましょう。
彼は笑顔が無くて、ずっと無表情でしたからね。笑顔が無いから、カオナシ。……うん、我ながら良いあだ名です。
それで、カオナシ率いるエルフ族にも、ウンディーネの怒りは届いているはずです。彼らは自然と共存することで、この時代をどうにか生きてきた種族。その最大の恩恵とも言える『水の恵み』が枯渇した今、彼らは魔王軍を最大限に敵視してくることでしょう。
最悪、あらゆる手段を用いて攻めてきてもおかしくありません。
「「…………(コクリ)」」
警戒するべきは、エルフ族。
ヴィエラさんも同じことを思っていたらしく、二人で視線を合わせ、頷きました。
「まずは対エルフのために会議だ。すぐにアカネとディアスを呼ぶ」
「その前に、まずはウンディーネの泉に向かわせてください。エルフは馬鹿ですけど、水不足の原因はウンディーネにあると、それくらいは想像付くでしょう。彼女の森が荒らされないよう、エルフの立ち入りを阻害する結界を張りに行きます」
「わかった。こっちは集め次第、簡単な情報共有をしておく。その間、リーフィアは結界を頼む」
「了解しました」
私達はすぐに動きました。
人間側の動きが大人しくなったの最近です。……ということは、もうすでにウンディーネの罰による影響が出始めている。エルフがこちらに何か仕掛けて来るかもしれない今、悠長に過ごしているわけには行きません。
私は急ぎウンディーネの森に向かい、私以外のエルフが立ち入れないよう、強力な結界を幾重にも張り巡らしました。すでに森に潜伏している可能性も考慮し、森の中にいるだけで害を与える結界も忘れません。
「……よしっ、こんなものか」
これで結界が破壊されるようなことがあれば、すぐに察知して動くことができます。
森に住む微弱な精霊達にも、一応気を付けるようにと注意してから、私は魔王城に戻りました。
「おう、早かったな」
執務室には、すでに主要人物全員が集まって腰を下ろしていました。
情報共有も問題なく終わっているのか、寝起きのミリアさん以外は難しい顔です。
「では、エルフについて話し合おう」
ヴィエラさんが進行役となり、会議は始まります。
ミリアさんは終始……ただの置物でした。
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