褒美を頂きます
会議で決まったことは、そこまで難しいものではありません。
内容は、主に二つ。
一つ目、単独行動は控えること。
いつ誰に狙われるかわからない以上、一人で行動するのは危険です。以前の襲撃事件も、アカネさんとディアスさんが共に行動していれば、私達が助けに向かう必要はありませんでした。
最初は二人行動──私とウンディーネ、ヴィエラさんとミリアさん、ディアスさんとアカネさん。というペアになっていたのですが、そこでミリアさんが抗議の声を上げました。
「余はリーフィアと一緒が良い!」
ってことで、『私、ウンディーネ、ミリアさん』、『ヴィエラさん、ディアスさん、アカネさん』というように、今後どこかに遠出する際はこの三人組が基本となりました。
ヴィエラさん達の三人ならば、情報を共有して動くことができそうですし、私の方はミリアさんの護衛という仕事もあるので……まぁ、三人二組がベストだったのかもしれませんね。
二つ目、街でエルフ族を見かけた際は即座に報告を。
これは私達だけではなく、主に魔王城下で警備する兵士に向けた決め事です。
もしかしたら私が通報される事案になる可能性がありますが、兵士がそこまで馬鹿ではないと信じておきましょう。もし通報された場合は、一発殴る程度許してもらえますかね? ……冗談です。
人間側も警戒するのは当然のことですが、あっちはまだ他国との睨み合いで勝手に大人しくなってくれています。だから、優先して注意するべきなのはエルフ。
もし良心的なエルフがいたとして、その人も巻き添えを食らうことになるのは申し訳ありませんが……恨むなら、魔王軍全てを敵に回した同族を恨めってことですね。
そんなこんなで会議が終わり、早速三人行動を取り入れた私達は、ちょうど良いとミリアさんに頼んで宝物庫まで来ていました。
「なぁリーフィア。急にここに来たいと言い出して、どうしたのだ?」
「ミリアさん。前に言った言葉、撤回しても良いですか?」
「言葉? 撤回? ……何のことだ?」
「『私は感謝されたくて助けたわけではありません』という言葉です。やはり、感謝しているなら、何か一つだけ褒美をください」
「……なるほど。だから宝物庫か」
極力動きたくないマンな私がわざわざ宝物庫に来た理由は、あの時の言葉を撤回して、褒美を何か一つ頂けないかとお願いするためでした。
「なんだ。古谷と来た時に、お前が欲しがる物が入っていたのか?」
「欲しいというより、あったらめちゃくちゃ便利だなぁと思った程度でして……」
「つまり、欲しいということだな?」
「まぁ、その……はい。欲しいです」
初めて睡眠以外で欲を出した私に、ミリアさんはくつくつと笑います。
何も恥ずかしいことはしていないというのに、このむず痒さはなんでしょう?
……というか、私が何かを欲しがるのがそんなに珍しいですかね。私、結構わがまま言いまくっている方だと思うのですが。
「良いぞ。魔王が許す。好きな物を持っていけ」
「……良いのですか?」
「良いに決まっている。リーフィアは大切な従者だからな。宝物庫にある物は自由に使っても良いぞ?」
「いや、流石にそれは気が引けるので、一つだけで良いです」
「なんだ。お前なら本当に使って良いのだがなぁ」
「遠慮しておきます」
チート級な道具や装備を自由に使って良いとか、流石に申し訳なさすぎて遠慮するでしょう。
ミリアさんは残念そうにしていますが、それを言われて「え、良いの? あざーっす」と言える強欲な人はこの城に…………ディアスさんならワンチャンやりそうですね。
「それで、リーフィアは何が欲しいのだ?」
「えっとぉ…………あ、これです、これ」
一見ガラクタの山から取り出したのは、古谷さんが最後まで悩んでいた物。
「……リーフィア、それは?」
「魔法の絨毯です」
「それが何なのだ? かっこいい見た目の絨毯にしか見えないが?」
「これは馬車以上に速く移動できて、しかも魔法によって風の抵抗を受けない。乗れる人数は少ないですが、快適な空の旅を楽しめます」
「…………あ、わかった」
「そう! つまり、これがあれば──寝ながら移動ができるんです!」
「…………やっぱり、お前はリーフィアだな」
「どういうことです?」
私が私なのは当然のことでしょう。
今更何を言っているのかわかりませんが、何もかもを諦めたような瞳を見ていると、無性にムカつきますね。しかもそれがミリアさんですから、余計に腹が立ちます。
「今更あげないは無しですからね。これはもう私の物です」
「ああ、別に構わない。もっと凄いやつを選ぶのかと思っていて、ちょっと意外だっただけだ」
この魔法の絨毯も相当な代物だと思うのですが、ミリアさんにはあまり魅力が伝わらなかったようですね。
……まぁいいです。目当ての物を手に入れられたので、それで良しとしましょう。
「これから移動する時は一緒に寝ましょうね。ウンディーネ」
『うんっ!』
「あ、その手があったか! ずるい! 余も一緒に寝る!」
「ミリアさんは絨毯の魅力をわかっていないので、乗せてあげませーん。一人で頑張ってください」
「今わかった! 謝る! 謝るからお願いだ!」
ミリアさんが懇願し、私の体にすがりつきます。
「いーやーでーすー。これは私とウンディーネ専用なんですー」
『リーフィア。ミリアちゃんをいじめるのは良くない、と思うよ?』
「仕方ありませんね。ウンディーネがそう言うのであれば、ミリアさんも乗せてあげましょう」
そもそも、私達は行動を共にする必要があります。最初から乗せるつもりでいたので、ウンディーネの言う通り、これはただのミリアさん弄りでした。
「……扱いが、違う」
ですが、ミリアさんはそのことに気がついていないようです。
その後、本気で落ち込んでしまったお子様を宥めるため、美味しいデザートをたくさんあげました。その代わり私の分のデザートも食べられてしまいましたが、ウンディーネからは『自業自得』と辛辣な言葉をいただいたのでした。
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