思ったよりも暇でした

 エルフが人間側に協力することになったという報せは、私達を驚かせるのに十分なものでした。

 ヴィエラさんとミリアさんの二人は対処のために動き出そうとしましたが、とりあえず相手が何か動きを見せない限り、こちらは何もすることがありません。


 人間の国がすぐに動きを見せると予想して警戒していた私達でしたが、国に潜入している諜報部隊からは『まだ何も目立った動きを見せていない』との報告が入りました。


 なので、変わらず警戒を続けるという形で、私達はいつも通りの仕事に戻ったのですが…………。


「いやぁ、暇ですねぇ」


 私はベッドに横になり、お菓子を口に運びながらそう言いました。

 それを聞いたヴィエラさんは呆れ顔です。


「……そりゃぁ、ミリア様の護衛は暇だろうね」


「あ、今ちょっと嫌味含めましたね? 全く、みんなして私のことを堕落しまくりな穀潰しのニートだと思っちゃって……反論出来ないのが悔しいではないですか」


「流石にそこまで言っていないけれど……というか反論して? 一応自分のことなんだからさ」


 ヴィエラさんはどう反応していいのかわからず、苦笑いです。


 彼女の言いたいことはわかりますが、事実なので反論したところで意味がないというか…………うん。なんか自分でも悲しくなってきたので、この話は終わりにしましょう。


「では、余と遊ぶか?」


「無理です」


「即答!?」


「だって……ミリアさんと遊ぶのは疲れるんですもの」


 少し前にやったサッカーだってかなりの魔力を消費したので、その後の反動がきつかったです。

 主に筋肉痛が──って魔力関係ないですね、それ。


 まぁ、魔力云々に関しては半分冗談です。

 いつもは魔力を消費していないので、あれだけ連発して魔法を使ったのは異世界に来て初めてのことでした。


 人は魔力が欠乏すると目眩や嘔吐感、悪い時には気絶すると言われています。流石にそこまではいきませんでしたが、思ったよりもサッカーに熱が入ってしまい、御構い無しに規模の大きな魔法をバカスカ撃っていましたから、若干の疲労感は感じました。


「それに、庭をぶっ壊したせいで怒られたじゃないですか。もう派手に遊ぶことは出来ませんよ?」


 サッカーの後に残ったのは、悲惨な現場でした。

 応急処置で私がなるべく元通りに……というかそれ以上の植物園になってしまいました。翌日やって来た庭師の方がそれに気付き。報告を受けたヴィエラさんに二人して正座させられ、状況説明……脳天にげんこつを降りました。


 あの時のことをミリアさんも思い出したのか「うぐっ」と小さく呻き、チラチラとヴィエラさんを横目に見ました。


「だが、今日は余も暇なのだ」


「あれ? 仕事はどうしたのです?」


「もう終わったぞ!」


「…………お疲れ様でしたー」


 ベッドを『アイテムボックス』に収納して部屋を出ようとする私の腕を、ミリアさんがガシッと掴みます。


「待て待て待て! どうして帰るのだ!?」


「いや、仕事終わったのですよね? なら、私の仕事も終わりました。部屋に戻って寝ます」


「余の仕事は終わったけど、お前の仕事は続いているぞ!」


「えぇ……?」


「心底面倒そうな顔しないでくれるか!?」


 でも、面倒なのには変わりありません。

 ミリアさんが大人しく仕事をしてくれないのであれば、その矛先が私に向くのは当然のこと。私は眠りたいのですが、ミリアさんがそれを許してくれないでしょう。


「にしても、ミリアさんは仕事がないのですか」


「ああ、そうだ」


「へぇ? 『仕事無し』ですか」


「……ん? まぁ、そうだな!」


「ハッ! ……ニートですか」


「うぉい! その言い方は酷くないか!?」


 ミリアさんは私の胸倉を掴み、乱暴に左右へ揺らします。


「半分冗談ですよ〜」


「冗談とはなんだ……というか半分だと!? 半分は思っているのかお前ぇ!」


「おお、ミリアさんにしては鋭い。ご褒美に飴ちゃんあげます」


「貰う! ──って、ちがーーーーう!」


 口ではそう言うミリアさんですが、ちゃんと飴ちゃんを受け取り、包み紙を綺麗に取って口に含んでいました。彼女の幸せそうな表情を見るに、美味しいらしいです。


「行動と言動があっていないというのは、まさにこういうことですねぇ……」


「うっさい! いちご味が好きなのだから仕方ないだろう!」


「いちご味が好きなんですか。可愛らしいですね」


 ──と、そろそろミリアさんをいじるのは、やめにしましょう。


 ヴィエラさんから感じる視線に「うるさい」が含まれてきたのをいち早く察した私は、怒られる前に撤退することにしました。


「ほらミリアさん」


「……ん?」


 私がミリアさんに手を差し伸べると、彼女は頭上に『?』を浮かべました。


「どこか行くのでしょう? 遊ぶことはしませんが、散歩くらいなら付き合いますよ」


 このまま強引に部屋に戻って、後に不満を持たれるのも面倒です。

 ならば、少しくらいは付き合ってあげてもいいかな。と思いました。


「早くしないと私の気が変わってしまいますよ。さーん、にー、い────」


「行こう!」


 ミリアさんは私の手を握り、元気よく執務室を飛び出しました。

 部屋を出る際に「城から遠くには行かないでくださいねー」とヴィエラさんの注意が飛びましたが、ミリアさんは聞こえていないでしょう。


「ほら早く、リーフィア!」


「……はいはい。急がなくても時間は沢山ありますよ」


 ……まぁ、私はミリアさんの護衛です。

 城から遠くなったら、その時に注意すれば問題はないでしょう。

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