図書館に来ました
「ふんふん、ふふーん♪」
ミリアさんは機嫌良く鼻歌を歌いながら、廊下をずんずんと歩きます。
歩くのはとても面倒です。でも、手を繋がれている以上私も歩かなければなりません。
どこかに台車があれば嬉しいのですが……流石にそう都合良くあるわけないですよねぇ……。
「それで、どこに行くのですか?」
「……うーむ、何処に行こうか」
予想はしていましたが、やはり無計画で飛び出しましたか。
まぁ、考えなしというのもミリアさんらしいって言われたらそうなのですが、このまま意味もなく歩くのも嫌ですね。
だからって何か良い案がある訳でもありませんから、口出しするつもりはありませ────
「それなら、図書館へ行きませんか?」
「図書館……?」
「ええ。何も予定がないのであれば、たまには図書館でゆっくりするのも良いのではないでしょうか?」
「…………それ、単純に動きたくないだけだろう」
「まぁ、そうとも言います」
ですが、何も予定がないのも事実。
図書館ならば何か変な事件が起こることもないと思うので、悪くはないのではないでしょうか?
「動きたくないというのは否定しませんが、ミリアさんも最近ずっと働いていましたからね。ゆっくり休んだほうがいいと思ったのも嘘ではありません」
「……うむ。ではそうしよう!」
ミリアさんも特に却下する理由がないのか、私の提案を受け入れました。
そうと決まったら即行動という猪突猛進型のミリアさんは、すぐに図書館へと歩き出します……が。
「ミリアさん。そっちじゃありません」
「……う、うむ! わかっている!」
わかっているとか言っておきながら、思いっきり反対方向行こうとしていたのは見逃しませんからね。
……私が止めていなかったら余計に歩くことになっていました。
「全く……魔王なんですから、自分の城の配置くらい把握してくださいよ」
「う、うるさいわい! 図書館なんて行ったことないのだから、わかるわけがないだろう!」
「そこは開き直らないでくれます?」
ミリアさんの理屈でいくと、私も魔王城にある図書館に行ったことはないので場所がわかるわけがないのですが……あれれーおかしいですねぇ?
「なんだ! 文句あるのか!?」
「逆ギレしないでくださいって……別に、ミリアさんらしいなと思っただけですよ」
「褒められている気がしないのだが?」
「褒めていませんからね」
「……直接言われると、心にくるものがあるな」
「ドンマイです」
「誰のせいだと……まぁ、いい。早く行くぞ!」
次はちゃんと図書館に向かって歩き始めるミリアさんでしたが、途中で何度も道がわからなくなり、その度に私が教える。ということもありましたが、どうにか無事に図書館に到着することが出来ました。
……途中、本気でミリアさんに地図を渡した方が良いのでは? と思ったので、後でヴィエラさんに言っておきましょうかね。
「おおっ……本が沢山あるのだな!」
ミリアさんが若干興奮したように、そう言って図書館の中を見渡しました。
図書館なので本が沢山あるのは当然です。
でも、ミリアさんはここに来たことがないと言っていました。まさか自分の城にこんなに沢山の本があるとは思っていなかったのでしょう。
目をキラキラさせている魔王の姿が少し面白かったので、今回はツッコミませんでした。
「……しっかし、難しそうな本ばかりだな」
ミリアさんは棚に並べられている本を、難しい顔で眺めます。
「本はもっと絵が多いものではないのか?」
「それは絵本ですね。ほとんどは……このような文字ばかりです」
「本は絵本ばかりではなかったのか……」
そう呟くミリアさんは、どこか残念そうでした。
「むしろ絵本ばかりだと思っていたことに驚きです」
「だがまぁ……余には難しいな」
「……ふむ、仕方ないですね」
私は図書館のカウンターまで歩き、そこにいる司書さんに声をかけます。
「これはミリア様にリーフィア様。よくお越しくださいました」
「ええ、どうも。……それで、ここにお子様用の絵本って置いてありますか?」
「うぉいコラ! 誰がお子様だ、誰が!」
司書さんは『お子様』という言葉に顔をヒクつかせていましたが、それでも丁寧に絵本のある場所を教えてくれました。
そこに行くと、一角が絵本で埋まっているスペースがあり、ミリアさんのご機嫌は急上昇です。
「意外とあるもんですねぇ……絵本」
「うむ! やはり絵本は良いものだな!」
「………………」
「ん? どうした?」
「……いえ、別に…………」
この城にミリアさん以外のお子様はいません。
ここで働いているのは私を含むミリアさんの配下と、使用人の方々のみ。絵本なんて読む年ではありません。
つまりこの絵本スペースは『ミリアさん専用』なのでしょう。
考案したのは……ヴィエラさんですかね。
いつからこのスペースを作っていたのかは知りませんが、今日が初めてとのことなので、絵本スペースを作った意味はなかったようです。
「まぁ、良いです。とりあえず読みましょうか」
「うむ、そうだな!」
私は適当に見繕った本を持ち、椅子に座ります。
頷いたミリアさんも絵本を何冊か抱え──私の膝の上に腰掛けました。
「…………あの、ミリアさん?」
「なんだ?」
「どうして、私の上に座るのですか?」
「読んでくれるのではないのか?」
「え?」
「え?」
…………ああ、なるほど?
お母さんと子供的な感じってことですね?
「自分で読まないのですか?」
「いつもはアカネに読んでもらっているな」
お母さんはアカネさんでしたか。
流石に甘やかしすぎると思いますが、アカネさんならば「仕方ないのぉ」で了承してしまいそうですよね。
あの人、ミリアさんだけには甘々ですから。……いやお母さんかって。
「読んでくれないのか?」
「…………はぁ、仕方ありませんね」
まぁ、ミリアさんに甘くなってしまうのは、私も同じ……ですかね。
「ほら、何から読みます? 今日は特別に読んであげます」
「うむ! ありがとな、リーフィア!」
ミリアさんはニカッと笑い、足をパタパタと動かします。
……楽しそうで何よりですね。
「むかーし昔、あるところに────」
私も絵本に目を落とし、ゆっくりと朗読を始めました。
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