やりやがった。ですね
焦っているのはヴィエラさんだけではありませんでした。
ミリアさんも同じように顔を歪め、一枚の紙を睨んでいます。
「これは大変なことになったぞ! リーフィア!」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
私の姿に気が付いたミリアさんは、こちらにズカズカと歩み寄りました。
「二人してそんなに慌てて、何があったというのですか」
「これを見ろ!」
そう言って渡してきたのは、先程ミリアさんが睨めっこしていた一枚の紙でした。
受け取ったものを流し読みしながら、私はベッドに腰掛けます。
「…………ふむ」
紙に書かれている内容を読み終わった私は、小さく息を吐いて一言。
「やりやがったな」
私の感想は、それだけでした。
適当だと思うでしょうか?
でも、他の二人も同じ感想だったようで、同情の視線を向けていました。
私達の心を一つにしてくれた一枚の紙に書かれていたことを簡単に説明するのなら、こうです。
『エルフ族が人間との全面協力を結んだ』
……ね? やりやがったでしょう?
「今まで他種族との交流を一切してこなかったエルフが、ここに来て全面協力だと? 一体、どういうことなのだ?」
「さぁ……彼らが何を思って今更協力的になったのか。そんなの予想出来るわけがありませんよ」
口ではそう言いますが、私は何となくその理由を察していました。
……そして、それはヴィエラさんも気付いているのでしょう。
「だが、我が魔王軍としてはかなり厳しい状態になった」
ミリアさんの言う通りです。
エルフが人間に協力するということは、今まで秘匿されていたエルフの技術が人間側に流れるということです。
それはこちら側にとってかなりの痛手となります。
「──チッ」
私は、あの時のダインさんの言葉を思い出します。
『お前は必ず自分の意思で我々の元に来る──必ずだ』
その言葉の意味を今、理解しました。
彼らは確かに、私に直接手を出すことはしませんでした。
その代わり魔王軍に敵対する道を選び、私の周囲をじわじわと苦しめるつもりなのでしょう。
森が荒らされないように、ウンディーネには泉を守らせていました。
再び魔王城に侵入され、ミリアさん達に毒牙が掛からないよう私が常に居座っていました。
しかし、エルフはそれ以上に面倒なことをしてくれました。
……この際だからはっきり言ってやります。
まじで困りました。
予想していた以上にやばいです。
あの決別から、そんなに時は経っていません。
きっとダインさんは元からこのことを計画していた……というよりも、前々から人間の国より勧誘を受けていたのでしょう。
しかし、彼らも人間に協力するのは望んではいなかったと思います。
──なのに今回はそれをするに至った。
他でもない私を引き込むために、エルフの技術を人間に渡す。
それをしてでも手に入れたい魔女とは、一体何なのでしょうか。
「リーフィア。大丈夫か?」
「っ、え、ええ……大丈夫です」
考え込んでいたのがバレていたのでしょう。
ミリアさんは私を心配して、顔を覗き込みました。
……全く、私を心配している場合ではないでしょうに。
「ミリアさん……」
私は、ミリアさんの体を抱きしめました。
「わ、っと……急にどうしたのだ!?」
「……申し訳ありません」
……私は、魔王軍にとっての『疫病神』なのかもしれません。
「ミリアさん。私はあなた達を不幸にしていますか?」
弱音を吐くのは、私のキャラではありません。
でも、これを聞かなければ、私は不安で仕方ないのです。
私はミリアさんのお荷物になっているのではないか。
ここに来てから、様々なことが起こっている気がしてならないのです。
それが全て私のせいだと思ってしまい、とても申し訳なく感じます。
「……? ……リーフィアは何を言っているのだ?」
ミリアさんは私から体を離し、首を傾げました。
「お前が、余を不幸にしている? んな訳がないだろう」
私の悩みを、ミリアさんは一蹴します。
「余はお前が居てくれることが何よりも嬉しいぞ。お前のおかげで全てが楽しい。なのに、どうして不幸にならなければならない?」
「──っ!」
「本当に大丈夫か? 熱があるのなら、ウンディーネを呼んだ方がいいぞ? あいつは冷たいからな。冷やすのに丁度いいだろう」
原初の精霊をそのように雑に扱うのは、ミリアさんくらいです。
……本当に、罰当たりな魔王様ですね。
「……やはり、あなたの側が一番です……」
「──ん? 何か言ったか?」
「…………いいえ」
私はミリアさんの小さな体を引き寄せ、ベッドに横になりました。
「な、なんだ!? どうしたのだリーフィア!」
「……別に、私だけが風邪になるのも嫌なので、巻き込んでやろうと思っただけです」
「なぁ!? ちょ、それはマジで勘弁してくれ。余が休むと本当にヴィエラが過労死してしまう!」
「……あ、でもミリアさんはお子様に加えてお馬鹿ちゃんなので、風邪を引いても気付きませんよね」
「流石の余でも気付くぞ!」
「はいはい。強がらなくてもいいですよぉ〜」
「ちがーーーう!!」
ミリアさんは私の胸の中で叫びます。
それに対して私は、更に強く……彼女を抱き締めたのでした。
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